第26話 内通者の苦悩
私はこっそり内通者を探る。
能力を使えば、対象の感情が読み取れる。特に負の感情だと解りやすいものなのだ。
昼間の一件から、何人かビクビクしているのを見つけてある。その中のうちのどれか、もしくは複数なのか。
いつ傭兵の連中が人数を揃えてやって来るかわからない中で、震えているに違いない。
あれから傭兵たちの動きがない事から、あちらは予想外の出来事に慌てているはずだ。
出て行った兵が一人も帰らないのだから、もう別の奴が様子を確認しに来てるとは思うが、次は早くて明日以降だろう。
その間に状況を把握する。
思った通りとはいかなかったが、一人が内通者であった。
それなりの事情があっての事であったので、咎める気にはなれないのだが。
身内に病気の者がいて、イーリスの治療を受けている。
しかし、豊かではないこの村で生きてゆくには、脅威である傭兵に逆らうことが出来ずにいる。
何かあったとき使いを寄こさなければ、ひどい目に遭うのはこの家であり、村では生きてゆけなくなると思いこまされている。
今は、どうしたらよいかわからず、知恵もない彼にはどうしようもないのだろう。
そんなところであろうか。
先ずは、この馬鹿の根性をたたき直してやりたいが。
フェイスに頼んで、あの村でみた癒しのエネルギーを放出してもらう。
その作業には、ものすごくお腹がすくらしく、何かを食べたがるのか難点なのだが。
焚火をして、干した肉や魚介を焼いている。
フェイスの胃袋を満たすには、相当な量がいるので足りないだろう。
焼いている間に、岸壁でカニを釣ってくる。
鍋に油を引いて、香味野菜と香辛料と一緒にカニを炒めてから煮る。
なんとなくだが、イーリスの真似をしてみると、意外とうまかった。
ついでに芋とかも木に射して焼いた。
あー。やっぱ。どこかの家で、作ってもらった方が良かったかなー。
フェイスの満腹ポーズが見れたからいいんだけどね。
またカニ取って来るかなー。
朝になって動きがあった。アジトらしき場所に手勢が終結しようとしているらしい。
集まったら、家ごと吹っ飛ばそうか。
いや、役人も出張ってないくらいだから、まだ必死ではない状況とみていいな。
また出たところで始末するとしよう。
内通者は動かないな9+。
ドローンに、集団がアジトを出て街道に出る前に始末する指示を出す。
もし、ルートを分けるなら別れた時点で実行だな。
実際には、武装集団が出払ったと同時に二手に分かれて、街道へ進む隊と、隠れるように街道脇の林を行く隊とになった。
昨日の全滅で近くに部隊が潜んでいるものだと思っての行動だろう。
それと、全滅して場所は避けたかったという事かもしれない。
ドローンの攻撃は、部隊が林に入って進み出したときに起こる。
ほぼ同時に2つの部隊が、わずか2秒で消滅する。
約500発のブラスターミニガンの射撃で地面を穿ちながら傭兵の体を蒸発させた。辺りは鉄の焼けたにおいと、煙だけが漂い、傭兵のいた場所は掘り返された穴が残るのみである。
武器や防具でさえ例外なく粉砕され、兵士のいた地面の穴が溝状になって繋がっている。
たまに槍の先が遠くへ飛んだり、蒸発しきれなかった鉄が鉄のしずくとなって残るのみであった。
ここに部隊がいて、行軍していた等とは誰も思わないかもしれない。
上空では問題の部隊のの消滅を確認して、ドローンに搭載されたブラスターミニガンが2門格納されてゆく。
自動的に音声での通知が来る。
座標004、211、052、642における対象物の消滅を確認しました。
消費エネルギーは0.0001%以下
バレルの交換必要ありません。
問題なし。
引き続き他のドローンと連携して、上空から警戒します。
と報告される。
毎度ながら、味気ないからいらない報告なんだけどね。
司令官の仕事だからやっとかないと、バレた時が面倒なんだけなんよね。
あっても500年後の話だけど。
承認。携帯端末から、短いメールを送って終わり。
記録はドローンに乗るだろう。
村の浜にいるヴラドからは見えない。遠くで乾いた花火のような音が響いて聞こえるだけである。そのあとは何も聞こえず、静かになった。
これでどうだろう。
流石に打つ手なしだろ。
遠くで聞こえた、聞いたこともないような音に、村人は何事かと騒いでいたが、ボーっと釣りを楽しんだ。
しばらくして、例の内通者の男がアジトに向かう。
誰も来ない事に、流石におかしいと思ったのだろう。
大人数で村を焼き払う段取りをしているのかもしれないと思って、イーリスと私だけでも逃がそうと思っている様だ。私に逃げた方がいいとだけ言い、村を出てゆく。
ドローンから監視してもらい、私も後から追う。
彼はアジト手前で躊躇いながら訪ねていく。
中には2人いて、一人はボスらしかった。もう一人は女。
家の中での会話の後、3人は外に出てきた。傭兵は村に向かって馬で行くようだ。
傭兵は馬に乗ると駆けてゆく。これはちょっとまずいけど、到着までには時間があるだろうと踏んで、引き続き監視する。
女は鉈を取り、それに気が付かない密告者の男を殺そうと後ろから迫っていた。
私は手ごろな石を拾い、女の後頭部に投げつける。
石は首の付け根を砕き、人形のように無機質に倒れて死んだ。
男は、腰を抜かして呆然としている。
そこへ声をかける。
「よっ。大丈夫か?」
これにも飛び上がって驚いて、あわあわとしている。
こういう弱さが人間らしいというか、そんなものかもしれないな。
「大丈夫か?」ともう一度こえをかける。
ブルブル震えながら歩きだす。
だめだこりゃ。
2人は黙って村へ歩き出す。
それほどショックなことだったのだろう。彼はただじっと押し黙ったまま歩いている。そしてこれからどうしたらいいのか、また悩んでいる事だろう。
ドローンからの報告では、現在、一騎の人馬が殲滅した地点を調べていると。
なかなか抜かりの無い傭兵なのだなと感じる。
まさか、起こった事態はわからないだろうが、そこで全滅したことを察知するかもしれない。
とんでもなさ過ぎて、解らないだろうけど。
そんなことを考えていると、急に男が告白し出す。
かなり不安定になっていて、泣きながら、密告者である事や村での生活の事を、堰を切ったように話し出す。
気にし過ぎだと宥めながら背中を押して歩かせる。
どのみち止まってはいられないのだから。
私のようなものが指し示すようなことはできない。だが、すべきことは他にもあると教えてやりたい。
しばらく歩いていると、辺りを調べている傭兵に追いついた。
密告者の男は悲鳴を上げて蹲る。私は男に隠れるよう言い、剣を抜く。
傭兵も私の剣を抜く姿に、馬に乗って槍をとる。
通常であれば、剣で槍に勝つには、数段上の腕が必要だ。
傭兵は笑い突進してくる。
だが、相手が槍であっても、仕留める自信はある。馬上の槍兵ならば、それなりの対処を心得ている。
10000年前には、そうした兵と命の削り合いを散々していたからだ。
威嚇しながら突進し、槍で突いてくる。しかし、馬上では細かい距離の駆け引きはできない。鋭い突きもそれほどできない。
突いてくる槍をかわして鐙にかかる足を薙いだ。
傭兵は足をかわす代わりに、バランスを崩して馬上から降りる。
腕の良い傭兵らしく、直ぐに体制を整えて、鋭く突いてくる。しかし、ひるまず切先を払い切り込む。
リーチ差がある分、手数はあちらの方が有利である。重い大剣を、槍のシャフトへ強引に叩き込んで崩し、隙をついて手を切る。
傷を負わされても、勢いを利用して転げて逃げ、距離を措くところは経験者の生きる為の技術だろう。
剣での勝負になるが、手に怪我があるので勝負は見えている。
切り込んで圧倒し、抑えつけた。
尋問し、殺す。
また男が悲鳴を上げたが、出て来させて帰る。
メシくらいおごれよ。と冗談を言いながら元気づけてやる。
男は相変わらず小さくなりながらだが、口元は少しほころんでいた。
情報も得たし、ひとまずは大丈夫だろう。あとは消化していくだけだな。
2人が戻ると、浜に皆で集まって偵察する準備中のようだった。
皆、なんとなくは想像しているのだろうが、起こった出来事は想像を遥かに超えている。
男は皆に説明しているが、納得できないようだ。
それでも、私が傭兵と女を殺した事だけは、事実として受け入れられる。
いままで、誰もどうする事も出来ないでいた事が、急に無くなったことに戸惑いつつも喜びは隠せない。
そして、村を救ったこの一行には、得体のしれないものを感じ恐れた。
同時に、この得体のしれない者のおかげで、平和が訪れようとしている事は認めているようだった。
この村を救うには私にも利点がある事がわかっている。
先の腐れ貴族の書類の中に、この村での暴挙も記されており、ここは資金源でもあったからだ。
そして、ごろつきが関わっていて、資金の流れを示す一連の仕組みは、貴族が管理している。
そうなれば、資金源を断つことで追撃を逃れる事に繋がると考えられる。
それに盗賊だか、ごろつきだかとそんな類の者達にためらう事はない。
その他、関係した役人の名前も調べがついている。
証拠の裏付けのように、洗い浚いぶちまけていた男の話の中に全てあった。
村への帰りに、今まで溜め込んでいた気持ちを吐き出すように話す姿に、いたたまれない気持ちになった。
この後、アジトに近づく傭兵や怪しい役人の何人かが行方不明となり、村に手を出そうなどという者はいなくなった。
衛士が何人かで訪れ、調査していったが、結果としては何も出てこず。
それについて関係があるような無いような人物の、不思議な女と剣士の話だけが広まるだけであった。
剣士の不可解な行動は、なぜか事件に関連して付きまとっているが、一切の証拠も出てこなければ、完璧なアリバイまである。
またもや解決しない不可思議な事件に、衛士の上役はイライラが募るばかりだった。
その一方で、二人を追う者達はいよいよの確信を持って、対峙すべく構えていく事になる。
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