第25話 街から漁村へ

 街で紹介してもらったり、市場で買ったりした果物を生産した農家へ立ち寄り、お土産の茶葉を渡して果物を買い付けた。

 途中、害獣である鹿や猪を狩り、挨拶代わりの獣の肉と皮を準備して漁村へ。


 漁村は寂れた村であった。

 漁民の他に人気は少なく、ほとんどの船は出ていたが、港の岸壁には沈んだ船があった。

 網を修理する人たちに聞いて、昼になれば、戻ってくる船から買い付けられると教えられる。

 その間に果物、ナイフ、ランプ、薬草、肉、毛皮、等の売り物を整理しておいた。

 村では子供たちが遊んでいたが、フェイスに気が付くともふりにかかる。

 イーリスは、ここでも薬草の説明をしていて不思議がられ、病人のところへ早速向かう。

 女ばかりの中に一人残されて、心細くなる。

 ある程度物が無くなってくると馬車へ品物を積み込んで、村の隅で馬の世話や荷物の整理などをした。


 昼が来てイーリスが戻ってくる。すっかりイーリス〝様〟になってた。

 特に若い女から、崇拝の眼差しを向けられている。何事かと思って観察すると、その女は薬草や治療に興味があるらしい。

 どうやら、病人の世話の係を言い渡されて長いらしいのだが、うまくいってないようだ。

 看病の仕方さえままならないこの世界で、薬の製造や治療するイーリスは奇跡のように映っている。

 それは、興味どころか崇拝の対象になった。




 船が戻ってきて荷下ろしや、道具の片付けを手伝う。

 最初こそ警戒されていたものの、荷下ろしは人手があると助かるため、怪力である私は歓迎される。


 人の手では持ちきれないほどの大きさの魚もいた。

 木箱の小魚に、変わった色の魚。蜘蛛のような生き物。軟体動物。

 それらは、この海の豊かさを示し、繁栄を約束する証でもある。


 しかしどうだろう。

 この村はおかしい。どこか、搾取され続けられた奴隷のような面持ちの者が多すぎる。


 疲れ切った船乗りたちは港で食事を採っている。

 そこへいかにもならず者といった風体の男達がやって来る。

 あー。そういう事ね。


 目立たないようにしたいが、もう遅い。

 流石にドローンからでもこういう輩の判別は難しかろう。

 あとでイーリスにライブラリの作成と平準化をやってもらうか?

 顔でか?

 ちょっと笑いながら考える。


 ニヤニヤしているところが気に入らないらしく突っかかってくる。

「てめぇ。よそ者かよ。商売するなら税を払え。」「ここは俺らの村だからよ。勝手にやってもらっちゃ困るんだ。」「聞いてんのか、てめぇ。なめるなよぉ。」

 なんとかこんとか・・・。


 よくもまあそれだけ行儀の悪い言葉が出てくるものだ。それにしても、良く吠える犬だ。

 ごちゃごちゃ言ってるが、どうせ言ってることは同じだろ?

 途中から聞いていない。


 それよりも、急に海の方から雷雲がやって来る。

 おいおい・・・。フェイス。

 それはまずいだろ。


 そして、空を見上げていると、ならず者たちの顔色がどんどん変わってくる。

「てめぇ。無視しやがって。こっち向きやがれ。」

 と殴りつけてくる。


 ミシッ。

 殴りつけようと伸ばした拳を掴んで締め付ける。

 手の平の中で、握った拳の指の関節が軋み、指が甲にめり込む。手をしばらく握れなくなる程締め付ける。

 今度は、青くなりながら

「離せっ。このやろ、離せよ。」

 他のならず者が殴り掛かって来るが、拳を握られた奴の体制を崩してやると、笑えるくらい絡まって倒れた。


 続く他の者の拳を払いのけ、ナイフはかわして距離をとる。

 完全に遊んでる状態だが、対するならず者達は、恥をかかされてどんどん逆上してゆく。

 掴みかかってくる奴からは、距離をとって逃げる。

 子供の鬼ごっこ状態になり、私の笑いながら逃げる姿に、村人は青くなったり笑ったりしている。


 と、イーリスがフェイスの横にいる。いつの間にか移動してフェイスを宥めている様だ。

 すっごく、助かるよー。

 すまして、瞬殺してしまいそうな勢いだったものな。



 息が上がるならず者たちだが、恥の上塗りになっていることに焦って、捨て台詞を吐きながら引いて行く。

 おめでとう。役は三下決定だね。




 村人は、青くなりながら、こっそり注意を喚起してくる。

 さっきのは傭兵崩れの部下で、この一帯を仕切る役人と共にならず者を集めての搾取に余念がないらしい。

 つまりはこの村は、取れるだけ金を搾り取る道具らしいな。

 そして、村の中にも内通する者がいて、反抗する者はひどい目に遭うらしい。


 面倒だから相手をする気にはなれないが、どうせすぐにやって来るだろう。

 しらんぷりしながら、上空のドローンから追跡させ、状況を把握してもらう。

 出てくるようならば、ドローンからの射撃で始末しよう。


 今日は暴れるような気分でもないので、面倒で仕方なかった。

 ドローンでどーんでぱーんだ。

 くらいの勢いである。


「お腹でもすいたんですか?顔が面白い事になってますよ。」と、イーリスが冗談を言ってくる。

 うん。お腹すいた。どうでもいいんだ。



 そしてそんな事があった後、すぐに商人たちが港にやって来る。

 ならず者たちが引いてから現れるのが常のようだ。

 取引は皆、さっさと終わらせて引き上げる。品物の鮮度や顧客の要望もあるだろうが、問題は別にあるだろうことは想像している。

 私も、その勢いのある競に参加して、目的の魚を競り落とす。

 と言っても、競合がほとんど無い物が多かったが。

 うまいのになぁ。



 競が終わる頃、ドローンから18人の武装した集団がこちらに向かってくることが伝えられる。

 あちゃー。いきなりかよ。短気にも程があるだろ。


 映像をもらって確認すると、やはり傭兵だけで構成された部隊であることがわかる。

 使い捨てと言えばわかりやすいのだが、問題があった場合の切り捨ても兼ねる、便利な駒であめう。

 殲滅確定。


 早速、ドローンからの射撃指示を出す。

 街道に出る前に殲滅。



 遠くで連続して弾ける音がする。

 傭兵の集団が殲滅される様な異変が起こったとは思えないくらいの小さい音だ。

 そして、音が聞こえた方向に煙が上がり始める。

 大出力のレーザーで燃やしているのだろう。

 はい。

 終了。


 金を払って、漁師たちと混ざって食事に混ざる。

 浜で食べる魚介はうまかった。

 生きたまま炭で炙って、塩を振るだけの野蛮な料理だが、これがしたかった。

 感無量です。

 目的を1個達成できた!

 そうだ、この村にもエールかピルスナーを置いてもらおう。


 フェイス。

 カニを殻ごと食べれるの?

 あ。

 それうまいだろ。

 タコとイカ。


 イーリスもカニには弱かったか。

 無言だぜ。

 ていうか、食べなくても問題ないからと言ってたけど。

 むしろがっついてないですか?

 食べ終わって、小食のフリしてもダメ。



 夜になって、再びイーリスは治療に忙しくなる。

 漁に出ていた者たちの中にも病人がいて、診察と投薬を行っているからだ。

 最初は薬代の払えない者ばかりの村であったので、抵抗があったが安心させて受けさせる。

 出来高から取るのではなく、余った分だけ安目に分けてもらって返す仕組みにした。

 払いきれない金額でもないのにそうしておいた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る