第24話 暇つぶし
次の日の朝、暗いうちに昨日の宿に侵入して潜む。
のんびりと潜伏しながら、聞き耳を立てて、動きがあるのを待っている。
男は金を用意する段取りをつけ、指定した日時に持ってこさせるよう指示を出している。
少しおかしいのは、金の出どころは公金であるところだ。
しかも、部下に届けさせるなど、よほど太々しいか、スパイだろ。
しばらくして、部下に異変がある。
報告に来た若い部下は、城門の衛士が、件の女と男を通したという話だった。
やっべ。もうバレたか。
いずれバレるから早くなっただけなんだけど、この街のシステムは意外としっかりしてるな。
割と嫌いじゃない。
部下に命令し、2人の行方を捜し出して接触し、必ず密かに保護するよう命じる。
ン?保護?
いらんが、なにを考えている。
まあ、なんにせよ、この者は敵ではないらしいので、別の方から仕掛けるとするか。
商人のところへ行き、妨害工作をしている。
ぐふふふ。
強力な幻惑をかけ、忍び込んで、家財の中で、高価な貴金属や金、証書、武器を根こそぎ盗む。
そして、貴族の方へも行き、同じように盗むが、商人の武器を1個置いて帰る。
商人のところへ行き、貴族の武器だけ転がした。
幻惑を解いて宿に戻って、笑い転げる。
今頃、大慌てだろうな。
さて、証文は何があるかなーっと。
「へー。ずいぶんと楽しそうにしてると思ったら、悪いことしてらっしゃるんですね。」
とイーリスが全部受け取り、ライブラリに全てを取り込んで解析している。
「まともな書類は少ないですね。書類だけ見ても陸でもない人物だとわかりますね。」
この世界の言葉と文字は吸い取ったが、イーリスは全てを吸収したわけではなかった。
だが、プロセッサでパターンを解析すれば、すぐに読み書き出来るようになる。
この世界の証文などの公文書の偽造など、何の造作もない。
イーリスが、不正な文書を発見したので、それは後に適当に目に付くところへ放置しよう。
他の紙はとっといて、闇に紛れて金をバラ撒き、貴金属は密かに持ち出そう。
今回はこれで時間を稼ぎ、あとで必ず始末してやろう。
次の日、市場では懐の金が増える謎の事件が多数あり、不正の証拠である文書が見つかり、変な賑わいを見せていた。
一方で物証の無さすぎる盗人に2件とも同時にやられ、証拠は放置された盗難品のみ。
しかも、これ見よがしの犯行である。
衛士の上司ははカリカリしているに違いない。
何かオレ、かっこよくね?
ちょっと、偽善的な部分に中毒性があるよね。
市場ではたくさんの果物と一通りの魚を買って、宿に持ち帰って調理してもらって食べる。
新鮮とはいかなかったが、ちゃんと処理された魚は傷むことなく、むしろ旨味が乗っていた。
ちゃんと処理して、腐らないように管理して・・・。
やるなぁ。
イーリスも感心していた。この世界にも出来る人がいるんですね。と
冷蔵庫があるのかしらとか、小声でぶつぶつ言っていたので止めた。
ある宇宙コロニーにに移住したとき、異星人に生魚を美味しく食べる方法を教えてもらった。
それまで、味など味わって食べることは無かった。
そんなことよりも、毒を盛られないか、後ろから刺されないかとかそっちの方が大事だったから。
いつの間にか、そんな事は無くなっていて、味わって食べる時代が来たのだなと感動したものだ。
イーリスは、毎回、違う食べ物を出すようになり、楽しくなっていく。
そういえば、外食も久しぶりだ。
というか、何世紀ぶりだ?
ここに来る船内での食事が始まってから・・・300年近くだな。
それで、初めて店で食べてる。
村では村人の家で質素ではあるがごちそうになった。ありがたく食べたが、外食ではない気がするので省いてしまうと、そういう計算だ。
うわー。涙出てきた。
イーリスの食事がうますぎて忘れてたけど、随分と枯れていたものだな。
「また食べに行きましょう。」とイーリス。
優しすぎるやろ。
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