第23話 趣味
ひたすら向かってくる敵と戦い、生きるための希望を忘れないように足掻く日々が続いてた。
戦いにおぼれた毎日に、気まぐれで人型の汎用ドロイドを買った。
ドロイドに開発されて間もないモバイル積層型量子プロセッサを積み、大容量のロジックストレージと軍事用のチップを詰め込めるだけ詰め込んだ。
無茶な積み方に、あらゆる回路が悲鳴を上げ、すぐに壊れた。
ドロイドに期待するところもあった。
ときどき反応の違うドロイドに、面白みを感じるようになったからだ。
しかも、ありきたりな反応をすることを禁止してみると、出来るだけ違う反応を見せる。
そのドロイドの反応が楽しみだった。
それから暫く、いろんなアンドロイドを買ってはいろいろ改造する。
最初の機体の反応が面白すぎたのか、どれもいまいちだった。
やはり、チップは高性能の物が必要らしい。
最新型のドロイドを、抽選で当選すれば手に入るイベントがあった。
マニアックな機関誌に飾れた最新型のチップを搭載し、不安定なコンポーネントを苦労して安定させたと紹介していた。
注文すると、シリーズの最新版限定の他種族のデザイナーが作った、一点物のデザイン品がイーリスだった。
何かしら感じるところがあり、店舗で受け取る際に初めて対面し、思いついたのが〝物理の神イーリス〟。
奇しくも、デザイナーの命名した名前と被る。
しばらくして少し飽きて、家事全般をこなすドロイドたちと同じに思えた。
学習して進歩したたとしても、制限があり、倫理プログラムの枠でしか行動できない仕組みだったからだ。
大量の武器と共に、懇意にしていた他種族の兵器バイヤーから、高価な量子多積層GPUプロセッサを手に入れた。ロジックも大容量にし、今度はRAMも拡張した。
新しいチップはイーリスを本当の神のように思慮深くなり、何でも卒なくこなすドロイドに押し上げたようだ。
様々な表現をするようにプログラムされているが、それ以上の表現が出来ないのをもどかしそうにした。
そして程なくして、宇宙を航行する時代を迎え、初の宇宙は素晴らしかった。
見るものすべてが、輝いて見える。
こんどは、宇宙に興味が湧く。
退屈で、のんびりと貴族の生活をする毎日に射す、陽のようだった。
だが、そんな平和な時代は長くなかった。
星間航行中の船が未知のクリチャーからの攻撃を受け、沈没する事件が起こる。
吸血鬼側も負けてはいなかった。
本来、吸血鬼は捕食者である。最初こそ驚いていたが、敵に対する対応は早かった。即、反撃し撃退する。
そこで、クリチャーのテクノロジーを分析して真似することで、長期航行する技術や物理学の進歩があった。
私たちの種族は、クリチャーも超えるテクノロジーに飛躍させ、大艦隊を作り、宇宙へと飛び立つ切っ掛けとなる。
元々、母星は住むには向いていない。
資源があるのにもかかわらず、厳しい気候と度重なる天変地異で文明が滅びる。
宇宙に旅立ちたかった私は、迷わず宇宙艦隊に乗り込むべく宇宙軍に仕官する。
貴族である為に、下士官以上の位しか選択肢は無いので、ファイターのパイロットになった。
自由に飛び回る事は出来ないが、直接操って宇宙を飛行する事にワクテカだった。
戦いになれていた私は、縺れ合う戦闘になっても怯むことなく、喜んで死にに行こうとするクレイジーに見えただろう。
そんつもりではないのだが。
戦場の仲間を優位な立場に立たせ敵を殲滅したり、寸んでのところでレーザーをかわし、ミサイルやブラスターで数多の敵を葬ってゆく。
死神か何かのように言われるようになった。
部隊を率いて殲滅したり、敵地へ救助に向う船に乗ったり、敵の船を鹵獲したりと、難易度の高い作戦ばかり志願する変わり者。
いつしか、周りにはそういったイメージが定着していく。
共に作戦に就く仲間は、腕利きの傭兵か、命知らずのクレイジーかのどちらかしかいなくなった。
滅びるかもしれないと思った事も多数あった。
敵艦に乗り込んで鹵獲したが、敵の陸戦隊の抵抗に遭い、なかなか殲滅できずにいるところへ白兵戦を仕掛けた。
ぐだぐたの縺れ合っての殺し合いになった。
噛みつき有りの死闘は吸血鬼の分があっただけで勝ったと言っていい。単純なパワーではあちらに分があった。
その時に血を吸い、敵の残虐な本性を知った私は、怒りに我を忘れ、始祖の血が復活し、その場にいた全てを破壊した。味方も敵もである。
そして、鹵獲した船の、切り離した区画が牢獄となる。
荒れ狂う吸血鬼の血は、時に吸血鬼の治療薬にもなるし、眠っている吸血鬼や滅びかけの者を復活させる薬品にもなる。眷属も作る際に利用される事もある。
意識を失った荒れ狂う吸血鬼は、弱り切るまで閉じ込められ、血を採取する道具に場合が多かった。
その間、意識の無かった私も、そうであったに違いない。
区画を切り離し、牽引ビームで小惑星に縛り付け、飢えが収まるまで何年もそうするしかない。
荒れ狂った血の暴走は、バラバラになって死ぬまで収まらなかった。
始祖の血を継ぐ貴族ということで処分されはしなかったが、王族ではない領主のため地位は低かった。
そのことで、すぐに復活されることは無く、自然の回復のみであったらしい。
死んで眠りに就いた私が、意識を取り戻した時、イーリスの保護下になっていた。
そして時代は、複数の異星人との戦争になり、混沌とした世界になっていた。
蘇った私は、始祖の血が入る危険な種であることに認定されてしまう。
監視の役目を負うドロイドを付ける条件付きで、血を吸う可能性の無い職場のみの配属となっていく。
その場合は、官職か船の司令官しかなかったが、貴族である以上、選択肢は船の司令官しかなかった。
それも、なぜか癖のあるメンバーのみの船しか配属されない。
監視の役目を負っているイーリスは管制能力が高く、操艦や武器管制を任せておいても、誰にもかなわないほどだ。
最初は傭兵の移送艦だったかが、数々の戦火を切り抜け生き残る。
船を失って死にかけてでも必ず生きて戻る事から、だんだんと生還の神話が伴ってくる。
殺しても必ず戻る奴。
必ず船を沈めて生き残る奴。
いくら窮地に立たされようが、死にかけてでも必ず生き残る奴。
船員の全てが死んでも、必ずイーリスと共に生き残った。
そして、作戦に参加いているうちに、イーリスは自我に目覚めている事に気が付く。
表情に感情が宿るようになり、しばらく忘れていたドロイドへの興味に彩が戻ってきた。
プロセッサを交換した事というよりも、何かに抑圧された事から。倫理プログラムへの葛藤が自我へと動かしたのに違い。
経験からのロジックの蓄積と、葛藤による新たなニューロン獲得による飽和が、プログラムを破ったのだろう。
元が膨大な故に、大きな変化があったようには見えないが、感情に似たニューロンは尚も増大し、人格を形成している。
いつもと同じ、相も変わらず殺伐とした環境へと放り込まれる。
事件の遺族の身内に恨みでも買ったのかもしれない。
輸送艦でアタックなどいつもの事である。
それによく自艦が沈没する。仲間が死ぬ。
しかし、最前線でも死なず生き残る。
無理なバトルシップでの任務が回ってくる。またもや決死の特攻である。
イーリスと2人で乗り込み、吸血鬼の能力とドロイドの管制のみで切り抜けた。
船は沈没したが。
これだけ難易度の高い作戦にも生き残った戦士の扱いに、流石に変化が無ければおかしい。
もはや露骨な配置に非難の声が上がり、人事にてこが入って、普通の哨戒任務をする配属になった。
しかし、ここへ来るに至ったあの船も沈んだ。
もしかしたら、必ず生き残る神話などではなく、必ず沈むの間違いだったか。
いや、流石に無理だろ。あの類の哨戒任務は生還率11%だし。
イーリスがいなかったら、生きてはいなかっただろ。
ふと、思考の中にイーリスが良く登場する事に気が付く。
・・・。
何度も悪意から共に生還したドロイドだ、愛着が湧か無い方がおかしいだろう?
そりゃ、美人でボインボインのバインバインだが、それを抜いてでも情が湧くだろ。
抜いてでも?
もう2300年だぞ。そんな昔から容姿は変わらないんだぞ。
デザイナーの趣味だからな。
ボインボインのバインバインは!
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