第16話 嵐が来る

 吹き荒れる風と共に雨が降り、破壊と恵をもたらす嵐は、前回とは違い大きな勢力で迫る。

 同様な造りでは乗り越えれないという情報から、補強を十分に行って、雨水の侵入も無いよう、排水の溝も掘ってある。

 3日間休まず作業し、大量の岩や木材で建築した。


 全ては安心して酒を飲みぐだぐだとしたいためでもあるが。

 イーリスも、雨対策に樹液を加熱して練ったゴムで布を防水膜にして侵入した水も排水できるように工夫していた。

 薪を割り、部屋全体を乾燥させる準備や、食事の用意、すべきことはたくさんあったが、坦々とこなしい行く。

 フェイスは安定の仕事っぷりで、ふたりを癒す。

 その時気が付いたが、地のエネルギーをただ蓄えているだけではなく、何かしらのエネルギーに変換されて、常に放出している。

 それは、吸血鬼とは真逆のエネルギーで、さわやかというか、癒す力のようだ。

 それに加えて、殺菌作用があり、部屋の細菌やウイルスがいなくなる。獲物の肉が腐りにくくなるし、カビが生えない。

 しかし、作っているビールやパンの発酵は面白いほど進む。

 よく分からないが、不思議な奴だ。


 小屋は、頑丈に作った甲斐あって、激しい風でも十分に耐え、雨漏りも無かった。

 みんな中でのんびり過ごす。

 ずっとこのままでもいいかもしれないな。



 ふと、この嵐の中接近する大型敵性生物の反応がある。

 距離は離れているが、確実に迫る。


 面倒だ。こんな天候で外に出たくはない。

 近くまで来て、敵対するなら考えよう。


 イーリスもドローンからの情報から、外の状態が激しい事に加えて、その生物の脅威も伝えてくる。


 なんとなく寝ている気分でもなく、斧の柄を作ることにする。

 村で買った木をちょうどいい長さに切り削ってゆく。

 残骸から鋳造した斧なのでまだ研いではいないが、それても柄の方も作っておくと早くていい。

 ハンマーの柄は取り付けた。こちらは十分な形で作ったので、打撃面だけ整えるだけで完成となる。

 フライパンの柄、調理用のヘラ、ボウル、食器、ナイフで削り出して作る物の類を作ったる


 大型動物が近づくのがわかる。

 フェイスが外に出たがっているので、扉をそっと開けると、外は激しい雷を伴った暴風雨だった。

 フェイスは「ちょっといってくる。」とだけ言い。

 ふらっと出る。


 イーリスは心配しているが、あいつのことは私が良く判っている。

 大型動物よりもはるかに大きなエネルギーを持ったフェイスである。

 そのエネルギーの大きさ関係だけを見ると、ミミズとネコほどの差がある。



 外でゴツ、ドッ、という丸太どうしがぶつかるような音が外でして、大型動物の命が消える。

 そして、外で何かを引きずる音がする。

 扉を開けると、やはりフェイスが吹き荒れる風雨の中で、10メートルを超える蛇を無理やり引きずっている。

 フェイスをとりあえず中に入れてやる。

 イーリスがお湯を持ってきて、足の土と口の周りの血を落としてやる。

 外に置いたままだが、まだ体が濡れ切ってないくらいの時間で、狩ってきたにしてはものすごい獲物だ。


 あれをどうしようか迷う。

「フェイス。悪いがあれは大きすぎてここには入らんぞ。」

「うん。でも食べたいんだよね。せっかく捕ったし。」

「では、解体してまいりましょうか。」

 と言い、イーリスが立ち上がる。

「いや、私が行く。」


 レーザーソードを取り、外に出る。

 レーザーに雨が当たるたびにパチッと音がし、もくもくと蒸気が上がる。

 蛇を2メートルくらいに切って、内臓を取り出して、森の中へ投げ込む。頭部に近い部分を残して、防腐効果のある樹木の葉の束で包み、軒下の木箱に入れた。

 頭部の方は中に持って入る。


 水の中に飛び込んだように濡れたが、着替えを出してくれて、ついでに湯で体を拭いてさっぱりする。

 気候は温暖だが、嵐の中では体が冷える。

 吸血鬼といえど、体が冷えると本来の回復力は低下する。


 良く見ると蛇の頭は焦げて、首が裂かれている以外は、特に傷は無い。

 頭部に雷でも食らったような焦げ跡と首すじに切り傷。


 何をどうやったらそうなるのかは解らないが。

 フェイスに異常が無いか見てみるが、いつものむにむにのふさふさのぷにぷにだった。

 ・・・。

 もにもに゜


 いつものようにペロンとでた舌が、褒めて欲しそうにしている。

 わしわしと撫でて、イーリスにも揉まれながらとろんとしている。


 実は、すごい生物に昇華し、筋力の最適化と頑丈さを獲得して、無敵の生物になっているのかもしれないな。

 この間はでかいワニを水中で格闘して狩るとか?

 この惑星の生物とは一線を隔す生物だとは思うが、まさかの進化だな。



 フェイスは家族・・・。

 眷属だとは思いたくない。

 だが、眷属の証明である、血のつながりを感じ、意思を共有して喜びを感じる。


 本来、眷属は、雇った使用人ではない。ましてや家族でもない。

 血のつながりがあり、意思を共有することが出来る奴隷なのだ。

 現実と向き合い、迎える準備をしなくてはならない。



 吸血鬼の数は多くない。

 眷属を含まなければ、1千万はいないだろう。

 原因としては長寿であるが、子を成しにくい事が挙げられる。

 生物として増えてゆく事に、本能を見い出せていないという説もある。

 また、仲間を能力によって増やす事が出来る為か、そういった欲が薄いという説もある。

 宗教的に『一度は必ず子を生せ』という義務的な習慣も無くは無いが、そもそもそのような義務が作られること自体に、本能へ訴える反発を感じる。

 中には吸血による仲間を増やすことが趣味であるような者も現れるが、それを生物の種として増えるといっていいかは別物のような気がする。

 しかし、ドロイドであるイーリスや眷属であるフェイスに、同族に対する愛情のようなものを感じている。

 これは私は狂っているからなのか。



 宇宙軍には5万隻ほどの大小のバトルシップと2万隻の移民船がある。

 私の船であった巡洋駆逐艦はその中の一つである。

 小型の宇宙船であるが、星間航行を可能にする原子エンジンを搭載し、水素があればいくらでもエネルギーを作り出せるリアクターが、居住者の生活を永遠に支える。

 補給すべきものはあるが、単一の元素でも有機物でも、何でも分子配列を豊富なエネルギーで変化させ、必要な元素があれば、何でも作り出せる。

 培養を経て生物を作り、家畜も作り出せる。

 一隻でそれらの機能を搭載した艦は、軍では最小クラスであったが、難易度の高い任務や戦いを生き抜き、高い評価を受けていたが、ついにこの惑星で役目を終える事になった。


 最後に軍に向け救難信号を送っているが、それは届くかどうかも、届いていても来るかどうかも分からない。

 距離があり過ぎて、何百年、何千年かかるかわからない。

 それまで、この美しい惑星が外敵からの侵略を受けないよう、そのときまで守る他無いと考えている。


 ここには私の指揮下に、私と共に永遠に生きる全てを統べるイーリスがいて、宙には一隻で世界を滅ぼして回れるドローンが数十隻いて、その先兵であるバトルドロイドが千数百体いる。

 彼らは劣化が無縁の者達であり。たとえ傷ついても修復し、すぐに任務に戻る。

 星間戦争にも使われる大量破壊兵器もドローンには搭載されている。

 もし、他の星系からの侵略があったとしても守り切れるように、船に乗せてあったものだ。

 それに不思議な眷属のフェイスが加わった。


 弱い者ならその重圧でおかしくなるだろう。


 船のリアクターが作り出せるエネルギーは桁が違っていて、誰しもその魅力に引き付けられるものであった。

 その桁違いのエネルギーを解き放つ数々の武器は惑星を滅ぼすほどなのだから。

 若い吸血鬼であった副艦長は悪いやつではなかったが、全能感により不安定になった。

 副艦長であり、主砲のガンナーであった彼は、道中で遭遇する惑星を破壊する衝動を抑えきれず、艦砲を打ち憂さ晴らしをしようとする始末だった。

 イーリスが船のパワーコントロールを行っていたため結局できなかったが、抑えるのに大変な思いをしたものだった。

 大柄な彼の吸血鬼のパワーをそのままで暴れられたら、抑えるのは吸血鬼の仲間でしか止められない。

 全員で止めたが、指令室がボコボコになってしまった。


 あの時にお気に入りのグラスとピッチャーのセットが割れて、作り直したっけ。

 あー。使わないで済むなら、船の武器は一つとして使いたくないね。

 便利道具としてなら良いけど。

 戦力の保持というリスクの回避方法を採るとはいえ、この世界では必要なかろう。


 と言いながら、ブラスターとソードを手放せないでいるのは、私もやはり武器に魅せられたジャンキーなのかもしれない。

 一度持つと離れることが出来ない力が武器にはある。

 眷属にしても、強力かどうか関係なく、一度持つと何かしら持ちたがる。




 風が数時間前とは嘘のように鎮まり、心地よい夜を迎えたようだ。


 被害の状態を確認するため、辺りを見て回る。

 辺りの木々で軟弱な地面の上に生えていた木が根元から倒れていた。

 ビークルの横の木が折れて倒れ、シートの上にの倒れている。

 幸いにも、破損個所はなかった。


 全ての小屋の浸水は免れていたが、溝で囲まれた部分を除いて、辺りは洪水の痕が残り、地面に堆積した泥や木、露出した岩などで様子は一変している。

 近くの小川は水が溢れて勢いを増し、荒れる川となってここにあったものをすべて流し、新しい場所であるかのようだった。


 フェイスは、蛇の肉を軒下に見つけると、イーリスに持って行く。

 安定の食いしん坊に被害なし。



 イーリスの希望で、キッチンの増設を考える。外で用意できる釜と下ごしらえをする台がいる。

 煙突のある屋根で、腰までの高さの壁がある小屋を建てる。

 またたくさんの石を運び込んで、石畳とかまどを組み、煙突を建てる。掘り出した粘土でかまどを綺麗に成型して上に石の板を乗せておいた。横には板を組んでカウンターを作った。


 木を切り分けてテーブルを2個作った。1個は調理用。1個は獲物を捌く。



 薬草の乾燥小屋や発酵室を仕上げてゆく。

 棚やテーブルがたくさん出来て、やり易くなったと思う。

 ガラスの瓶や蒸留器も欲しいところだな。


 朝を迎え、イーリスがフェイスと小川へ遊びに行っている間に森に入り、乾燥小屋を建てる。

 屋根の材料は相変わらず葦だが、そのうち木の皮だとか、陶器にしたいな。

 陶器を作るなら、レンガも作ったらいいな。


 木を切り分けては乾燥する。

 家が建つほどたくさん出来たからしばらく大丈夫だろう。


 夜になって帰ると、イーリスが石灰石を川から少しだけ持ち帰っていた。

 どうやらたくさん拾うことが出来るらしい。

 精錬や製薬でたくさん使うのでありがたい。

 綺麗な石英や砥石に使えそうな目の細かい石もたくさんあるという。

 日中にまた行くことにした。


 夜はのんびりした゜皆、好きなように過ごす。

 イーリスは川で拾った宝石らしき赤い石と砂金の粒を繋いでアクセサリーを作っていた。

 私もそれの真似をして、蛇の歯を切り、革紐で吊るして飾りを作る。

 フェイスに着けてやると、満足げだった。


 イーリスには何か合うものを見つけてやろう。

 彼女は見た目が華奢だし、所作がきれいなところがあるから宝石や金属類が似合うと思う、

 繊細な見た目が良かろう。



 長く生きる私には、今まで何もかも退屈であったが、見るものすべてが新しく感じるこの世界が楽しくてたまらない。

 進んだテクノロジーで何でも出来てしまうが、出来るだけこの世界で使用され、馴染んでいる物を使ってみたいと思っている。

 多少、強引に進めてはいるが、流石に差があり過ぎて受け入れられない部分もあるので、そこは妥協しているが。




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