第15話 鉄の時代

 目標は決まっている。

 鍛冶屋と薬屋だ。


 薬屋はイーリスの主な仕事になるが、それには私の能力が役に立つ事だろう。

 採取し、加工し、調合するに当たり、割合を決めるのは薬効がどこまで出るかを知る必要があるが、私は試す必要はなく判ってしまうからだ。

 一定の品質の物を作っておけば、調合は正確な最適な割合を知ることが出来、臨床の実験など必要はないし、調べる必要がない。

 能力でカビから抗生物質や神経毒だけを抽出もできる。

 本来は戦争で敵の都市を壊滅させるために使われていた吸血鬼の能力であったが、応用できるところは多岐にわたるものだ。

 薬の元となる物質を含む植物や鉱物、菌や鉱物を仕入れては加工するのがイーリスとなり、表面上は彼女が薬師となって見える事だろう。


 鍛冶屋は私の仕事が主になる。炉を建て鉄を作り、ハンマーを振るい、削り、体裁をする。

 だが、イーリスの方が鉱物の分析には向いていて、電子顕微鏡並みで観察することが出来、電子抵抗を分析して含まれる金属の割合や配列の構造をある程度分析できる。

 それは刃物や先端工具、バネや電子部品には便利な能力である。

 この世界でなければ、仕事は反対にした方が効率がよさそうだ。

 だが、私の知識でも十分オーバーテクノロジーなのが問題だろう。


 やり過ぎはいけない。

 村で学んだはずではあるが、せっかく作る物は良いものが作りたくなる。

 目の前の資源をわなわなと震えながら考えている。


 ここは村から2日ほどの酸化鉄の露出した山にいる。

 しかし、辺りに製鉄に必要な燃料は少なく、木は少ないし、石炭の鉱脈も近くには無い。

 この場所でリアクターを利用して溶かしてやろうかと思ってはいたが、どのみち小屋や荷車、作業台等も必要なので近くの森へ移動し、そこで製鉄することになるだろう。

 ある程度目星がついたところで、湖の元の場所へ戻る。



 小屋へ戻る前にフェイスが合流してきて、全身で喜びを表現して飛び込んでくる。

 しばらく会っていないかのように惜しんで抱えついて離れない。

 そのままビークルに乗り込んで移動し始める。

 その間、フェイスがあれやこれやと話しかけては撫でてもらって満足げにしている。

 そのフェイスが体重が増えていることに気が付く。

 なんかこう、ぽっちゃりしてるというか、足が短くなったというか、それはそれで愛嬌があるのだが。


 イーリスが作る料理の味見を手伝う事は日常で、イーリスが気に入らなかったりすると、フェイスが処理するという大事な用事らしい。

 フェイスは自ら用事を買って出て、黙々と消化する。

 文字通り。

 このおかげで、パンの味は飛躍的に向上し、芳醇な味と安定した柔らかさを獲得している。

 肉に合うソースは、毎度のことながら新しいものが登場し、どれも間違いがない味に仕上がっているのは、試行錯誤とフェイスの誤の後の処理が手伝っている。

 このところの甘味の登場は、まだ材料の種類の数が揃っていないが、フェイスの口当たりから甘い匂いをさせるようになった。


 フェイス・・・。

 顔の肉が余ってるぞ。

 顎の肉をつまんで横へ伸ばしてみる。

 顔を挟んでマッサージしてみる。

 ・・・。

 たまらん。


 顔をむにむにしてると、フェイスも前足で私の顔を挟んでむにむにしてくる。

 !

 ふおおおおっ。

 爪を引っ込めた柔らかい肉球がむにむに当たってる。

 たまらん。


 ビークルがオートモードの間はフェイスを十分満喫できた。

 イーリスは、むにむにし合って溶けている私たちの方を見ながらクスクス笑っていた。



 湖の近くで建てた小屋では、次の薬草や茶の葉が乾燥されていて、干し肉と試験の酵母がたくさん並んでいる。

 酵母はある程度風味の良い物だけを残し破棄する。


 ここから先ほどの森へ一時的に移動し、鉄を得るつもりだ。

 ビークルに全ての荷物を積み込んで向かう。

 3キロ離れた時点で、上空のドローンからレーザーキャノンで残った金属や樹脂を焼こうというものだ。

 蒸発しきれずに飛散しようとするものは、ブラスターで焼く。


 そろそろか。

 ポッド落下地点の見える丘に3キロ地点がある。そこでビークルを止め、指定した座標を見ていると、一筋の赤い線が降り、爆発が見える。そして次の瞬間、青い光の筋が何本か降り、小さい爆発が起こる。

 遅れて爆発音が聞こえ、衝撃があった。

 小さい連続した爆発音も起こり、それ以降は何も起こらなかった。




 鉄鉱石が採掘できる地点からすぐ近くの木の多く生えた場所でキャンプを張る。

 鉄を得る為には時間と手間がかかる。

 シェルターになる小屋や作業場、炭や道具の保管する場所、薬草の乾燥小屋、発酵、製薬それぞれに場所と小屋を用意するつもりだ。

 先ずは木を伐り、資材の確保をしなくてはいけない。レーザーソードで伐採し、切り整えてから運んでは隅に積み上げる。

 一日目でおおよその資材は整えられた。



 整地と土台となる石や地盤を固める作業をしていた。

 この辺りは肥沃な土壌の為、木などは腐りやすい性質がありそうなため、石を大量に運び込む必要があったが、それほど離れていない場所に小川があり、そこから運び込んだ。

 杭を立て、石を組んでゆく。

 時間はかかったが。頑丈な造りとなっていく。シェルターと発酵、乾燥、製薬の保管庫はしっかりとした造りにしておいた。


 イーリスは苔の塊がたくさん生えて堆積した場所を見つけていて、大量のタンニンの溜まる水たまりや、丸太小屋の隙間を埋める詰め物になる苔をたくさん持って帰って積み上げる。

 果物や、獲物の分布も調べてくれていた。


 3日目からは、石組みの残りと乾燥小屋の建築にかかる。造りは簡単な三角のテントのようなものだ。柱を組み、池の葦を乗せて括る。重ねておけば、雨漏りも無い。下から防虫効果のある草を燻しておいた。

 これで、食料や薬草の乾燥は可能となるだろう。


 しかし、フェイスが臭いと嫌がっていた。


 屋根用の板や構造材用のダボ、整理用の棚を作る木を切り分けて、製材して乾燥させる。


 ここまでで10日かかった。

 途中で狩をしたり、サボって水浴びしたりしていたのもあるが。



 やっとシェルターにかかる。

 ドローンの観測からまた嵐が来そうだからだ。とはいえ、今回はまだ丸3日猶予があるので、慌てずに作る。


 ベッドが2個。1個はフェイス用だが。イーリスはそもそもいらないらしい。

 食事のテーブルと椅子が2つ。

 暖炉とキッチンを兼ねた宇宙船薪オーブン。

 武器や道具を収める木箱

 それだけしか置くことは無い。

 この小屋で寛ぐことがほぼ無いと思われるからだ。

 作業もここで行うことは基本的にないだろう。

 嵐や雨が降れば、篭って酒を飲み、肉をかじる。

 飽きれば、寝てしまえばよい。



 丸太を組んでは切りそろえ、また組んでいく。

 途中タボを打って頑丈にしながら建てる。

 オーブンの排煙も石組みで作った。粘土を詰めた簡易なものだが、石を頑丈に組んで崩れないようにしてある。


 今度は扉も作った。

 生木に近い木だが、ちゃんと組んでダボで固定して、蔓で括ってあるので、嵐にも耐えるだろう。

 梁と小屋組みで1日、次の日には葦を全棟分切ってきて、括って運んだ。

 夜には、発酵、乾燥、製薬の丸太組と小屋も組んだ。


 3日目は急いで屋根を仕上げてゆく。仕上げてから中に乾燥させている木材を運び込んで雨をしのぐ準備にかかる。


 ビークルも森の中へ入れてシートで被う。食料やテーブル、リアクター、武器、酒、そのほかの雑貨や道具も持って入り、とりあえずは準備が整う。


 まだ時間があるので、作業小屋建設用の木材も製材して乾燥させる。


 その作業の間に炭を作る釜の構造も考える。斜面を利用して自然に上に熱が伝わっていく、石や粘土の釜がいいかもしれない。

 なんとなくしか覚えてはいないが、遺跡でそんなところが発見されたという記事をデータでみたことがある。

 鉄を還元する炉や、他の金属をを添加する炉も考える。

 この世界の鉄はまだ歴史が長くないようだから、製鉄に使用する燃料は大変な量になるであろう。

 それは一人で用意できるものではないと思うから、今回は高周波加熱器とリアクターの力を借りることにしている。

 少しだけ作っては見るつもりだが大変だろう。





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