第9話 サバイバル
楽しみもいいが、近辺の調査も必要だ。脅威は感じられないが、敵性生物だけが脅威ではない。
発達度合いにもよるが、文明も知って理解し、馴染むことも必要であろう。
衝突前の船からの分析では、文明はさほど進んではいないように見えた。
各地への広がりはあるものの、高度に発達した都市はないだろう事はわかる。
その詳細はそのうち、船から脱出する前に放ったドローンが詳細を教えてくれるだろう。
後でドローンへ指示を出し、この近辺からの調査を優先させ、あるだけのドローンを大気圏外に待機させることとしよう。
武器は小型のブラスターで十分だろう。補給もしなくてはな。
ポッドで持ってきた荷物を、ここから移動して木々の中へ隠そう。
機材は、下に見える岩の中を空洞にできたら、そこへ隠そう。地下へシェルターを作るのも良いかもしれない。
暗器タイプのブラスターをポッドに詰め込んだはずだ。出してドロイドに装備しておこう
まとまりは無いが、そんなことをいろいろ考えながら熊を捌く。
こんな獣臭いやつの血など・・・。
先ずは血抜きをしなくてはいけない。
血を吸って生きる私たちにはこだわりがある。
臭い部分の肉は捨て、柔らかい部分やうまみの濃い部分のみを切り取って、調理して食べたいのだ。
生で食べる時もあるが、それは生肉を獣のように腹を満たすというわけではなく、飽くまでも美食として食べる時だ。
そんなのは、血に狂った変異種や下等な吸血鬼の飢えた死に損ないがすることである。
血に飢えているわけでもないが、においには敏感なので、さぞ旨かろう部分と、臭くて食べられない部分を感じる。
私たちにとっては、それは重要なことである。
例えば、この特に獣臭さを放つ脇腹の骨についた肉など、ゴミ以下でしかない。
かといえば、足の付け根から腹に向かって伸びる肉などは、特にいい匂いがしていて、私の食欲をそそる。
これを熟成させて程よく焼けばさぞうまかろう。
背中の肉もいいが、後ろ脚の内側の肉も・・・
「あっ!今、肉のこと考えて浸ったるでしょ。」
してやったりな態度でドロイドが指摘してくると同時に、こちらへ来て手伝い出す。
「なんだよ。うまそうな肉だからって独り占めなんかしないぞ。」
ドロイドには必要ないものだが、こういった場合にする反応は面白い。
前回は「私の肉の方がおいしいに決まってます。なにせ、1000年も生きた生き物なんですから。」だっけか。
なぜ張り合うんだ?その時の狩のパーティーは和んだものだったな。
さて、今回はどうだ。
「うーん。独り占めしてくださって結構。私はこちらの肉をいただきますから。」
と、一番おいしそうな部分の肉を剥ぎ取っている。
ん?わかるのか?
今、一番喰いたいと思ってた部分だぞ。
「もう少ししたら、この肉で食事を用意いたしますね。その代わりですが、ポッドの方をお願いします。瓦礫の重量が大変で・・・。
ビークルは足の損傷が激しくて使えません。
ですが、ミニガン、通信機、電池、シールド、レーダーは使用可能でしたので、走行形態でセットしなおして物資を積んでおきました。
あと、ポッドの通信機、リアクター、電池、ジェネレーターは生きていますので、共に積んて置きました。武器と生活物資、ご趣味のガラクタ(音楽用の旧世界のアンプ)、
フフッ
食料は瓦礫の下にあります。」
おいっ。
と途中で文句を言おうとしたが、まぁ、これだけ進めてくれたのだから文句はない。
むしろ上出来であると思う。
ぜんぜん納得はしてないけど。
「ありがとう。頼んだぞ。ソードはある?瓦礫も埋めて隠したいからな。」
「はい。ポッドのシートへ置いてあります。レーザーの残量の確認のみです。セルは瓦礫の下ですので。」
「わかった。酒もあったはずだ。一緒にやろう。」
「お酒は大人になってからですよ。」
「こんなこどもがいるかよ」
と言いながら、邪魔になるポッドの外殻をソードで切る。
ソード自体は良いのだが、切った時の躯体の発する高熱の煙と光が肌を焼く。
シートにソードと共に置いてあった、長い手袋を履いて続ける。
重い破片は小さく切り、瓦礫はあっという間に解体されて、車両を引き出して物資もも回収した。
物資のコンテナから新しい服を選び、着ておいた。
こういうものは、紳士としてきちんとするべき事である。
どうやってこの破片を隠そう。
この世界にとって、完全に遺物でしかないこのポッドや壊れたビークルの部品は、ゴミではあるが露出することはできない。
穴掘って埋めるわけにはいかんな。
上空からドローンのレーザーで焼くか。
使える金属だけ取っておき、調査の後で処分しよう。
上空のドローンに指示を送った後、地質の調査と惑星の成分から、今の文明で使われていると思われる金属を予想して切り分けていく。
インゴットにしておけば、武器を再度構築する場合にも、生きていくための道具としても使えるはずだ。
それに、今ある機材に使える部品は残しておこう。
意外と残せる部品が少なかったため、ほとんどがインゴットか処分するためのゴミとなった。
アフターバーナーを炉の燃焼器にして、リアクターを用いて下から高熱で金属を炙る構造にした。
周囲の岩や粘土を利用して炉を建ててゆく。
リアクターの作る熱は調節が可能だ。最高温度は核融合の65%まで作れる。たいていの金属はたやすく溶かしてしまうだろう。
外側の石組みを組んでは粘土を詰めて、炉の内側はポッドのシールドで崩れないように積み上げた。
シールドは燃えててしまうが、石組みを痛める不要な温度から守ってくれるはずだ。
そんなことをしているうちに夜が来た。
寒暖差や温度湿度は生物に適した条件であることはわかっていたので、空調などの装備は用意していない。必要なら現地で調達する事にしてもいたし。
一旦は炉を作る作業を中止して、私物のテントを張る。
ドロイドは食事を運んでテーブルに並べているところだった。
先ほどからいい匂いがしていた。
獣はそれまで眠っていたが、いい匂いがしだしてからは、仲間になったかのように近づいてきていた。
ドロイドはそれに気が付き、捨てる予定であった肉の塊をを骨ごと与えていた。
すぐに食べる様子はなく、じっと座って待っているところから、以前、飼っていた犬の事を思い出す。
よく分からないが、すでにペットになっているような・・・。
明り用の焚火が辺りを照らし、吸血鬼とドロイド、獣の姿を照らす。
この奇妙な組み合わせは、今までには無かった。
そして、ドロイドの言ったガラクタの奏でる音楽が流れ始めると、また違って見えるのは不思議なものだ。
ドロイドは食事をしないが、食事を用意した。
私は食事を楽しむ。食べ始めると、獣も食べ始めた。
獣は私と食事がしたかったようだ。
肉はうまかった。
少し淡白ではあるが申し分ない旨味があった。その辺りに生えていた草の根だが、スパイスの風味が効いていて、熟成していない肉ではあるが、十分腹を満たしてくれる。
ドロイドは私の様子を見て、満足げな微笑みを見せた。そして、余りの熊の肉や採れた草で保存食を作りながら、ドローンからの情報をまとめているようだ。
食事中、獣の方へゆっくりと歩み寄り、食べていた熊の肉が無くなりそうなところへもう一つ肉を足してやる。
柔らかい肉を飲み込んだ後、骨をかじり出した。
その様子をドロイドと酒を飲みながら見つめていた。
なんかもう、犬にしか見えん。
近くに寄りなでてやるが、骨に夢中で気にも留めていない。甘える表情すらしている。
これはもうペット決定だな。
慣れた理由は未だ解らずでいるが、もうどうでも良い気がしてくる。
それに、仲間は多い方がよい。
故郷では保安ドロイドが多数いたが、この地では今のところ、戦うことを嫌うドロイド以外いないのだ。
回復が不十分だったので、珍しく疲れてはいるが、本来は夜が活動時間だ。
夜は吸血鬼の力が増し、すべてを支配する。
周囲の敵性生物たちは、威嚇をしなくとも、恐怖を感じている事が一つ一つ伝わってきていた。
これでこの周囲の生き物がここへ来ることはもう無いだろう。
夜だが、疲れていた事もあるので少し眠ろう。
「何かあれば起こしてね。」とだけ言いテントに入る。
ドロイドは後からついてきて、
「はい。また後で。」と言い、テントの入り口を閉めてくれた。
テントは温度と湿度を保つためのものだが、本来は吸血鬼に必要のないものだ。
このテントは軍の支給品などではなく、趣味で作ったものだ。
自然にあるものを採取してきた素材を、ドロイドが織って作ったもので、支柱は現地調達が基本の面倒な仕様にしてある。
そういう趣味だと言う他ないが、長く生きていると全てがつまらなくなって、余計な物を捨ててしまった結果、こうなった。
ドロイドと採取しては悩んで作り、何度か作り直して今に至る。
青く染めたのはドロイドが採取した青い色の草だからだった。
最初は黒ばかりだったものだが、ある時から明るい色も使うようになったな。旅立つ前の部屋は味気ない色だけだったがが明るくなったものだ。
大地からのエネルギーを自然と吸収できるので、余計なことを考えずにゆっくりと横になる。
いつの間にか眠り、この大地のエネルギーはとても気持ち良かった。
昔の土を被り眠った、野蛮な時代を思い出す。
戦いにまみれ、疲れると暗き森に入り、穴に入り眠る。
確実な回復を必要とする場合はそうやって眠る。
安全でない場合は、身内と眷属が護衛をするが、身内の裏切りで殺された者もいたっけか。
だが大地の祝福を受け蘇った者の力が荒れ狂い、世界を滅ぼすかと思う程であったな。
荒れ狂う狂気の怨念と魂が我が城を襲ってきた時は、逃げるしかなかったが、奴を罠を張り打ち取った時は安堵したな。
傷ついた私も森の中で眠って、目覚めると時は時代を超えており、棺が半分土に埋まり、周囲は沼になっていた事もあったな。
泥炭の中で眠るのも悪くはなかった。
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