第7話 忠実なドロイド
この様子を眺めていたが、ドロイドの方が気になる。
早く起こしてやりたい。
ドロイドはあれから動く気配はないし、複雑なAI構造を持つあいつには、長い放置はシステムに影響を与えかねない。
ついでにドロイドのパーツを拾い、外れた所を戻してやると骨格を覆う有機合成細胞が再生を始める。
仰向けにして、システムのチェックをする。
燃料電池と供給は問題なさそうだ。
皮膚下のシステムチェックゲージは正常を示し、BIOSチップもAIチップも壊れてない。
基本ロジックディスクも見たところでは壊れてなさそうだ。
どこかショートでもしてるのか?
昔のことを思い出す。
工業製品である彼らは、独自に学習をして、自分で成長する。
様々な経験をし、新しいニューロンをどんどん獲得することで、想像を超える反応を見せることもあり、本当に驚かされる。
学習した彼らの中には、甘えたり気を引く動作を見せることもある。
そんな彼らは、機械の枠から外れた存在であると言えるが、さらにこのドロイドは別格だ。
元々、戦闘用ではないため、敵が現れると回避するよう行動し、必要が無ければ戦闘をしない。
通常のドロイドなら、あの状況で行動可能であれば、防御する行動をとるだろう。
もしかして、動けないふりでもしているのか。
驚かせようとしているかもしれない。そんな気がする。
そして、終わった後でそのまま主人を楽しませようと考えたのか。
ならば少し付き合ってやろう。
抱き起こしてやって、抱えたまま
「棺の素敵なお姫様。起きて。」
ドロイドの目が開き、にっこりと笑う。
「とても素敵な王子様。永遠の愛の鐘が聞こえるわ。」
と言うと起き上がり、古風で仰々しい礼をする。
機械あるドロイドは主人である私の戸惑う反応を見て楽しむ癖がある。だが、そんなかわいいいたずらをしてくるこいつがいてくれるのは好ましい事だと感じる。
実際、長い生の中で退屈を和らげてくれる。
「はいはい。それで、お嬢様はお城へ連れてってほしいのかな?」
「それとも、今は輸液が欲しいのかな?」
そういうと笑顔を作ってみる。
ドロイドは残念そうな顔をし
「もー。そこは抱え上げて、『とこしえに愛を共にしよう。』ってセリフじゃないですか。」
と、横を向いてほほを膨らます。
どこで覚えたのかわからないが、そのような反応も初めてだったので驚いた。
しかし、何か返して欲しそうなので続けてみよう。
「だってさ、お前。オイル漏れでベタベタだぞ。」嘘である。
自己チェックシステムは働いていた。
システムエラーがあって、把握できない場合は知覚が働かず、わからない場合はあるが。
オイルが少しスーツについてはいるが、それはポッドから投げ出された時にポッドの作動油が付着したもののようだ。
「うえっ?」
目を丸くし、あちこちをぐるぐる回りながら自分を見る。
「マスター!自己修復プログラムをチェックしてください。」
「ぷっ くくく」
おもしろい。ドロイドが騙されてる。
一度やると覚えてしまって、使える嘘もほとんど無いが、当たりだと楽しい。
ドロイドを持つ者の楽しみと言えよう。
「ああっ。むぅーっ またわたしをからかったのですね。」
怒って見せるが、怖くないのはドロイドの容姿せいか、小動物が餌を取られたような風にしか見えない。
「わはははっ。悪い。悪い。」
「ちょっと、表情プロセッサーのテストをしたかっただけだ。」
それも嘘だけどね。
だがこれはバレるであろう。前にも使っているので、ごまかす手段にはなっていないが、反応はするだろう。
「えーっ・・・。テストなんていりません。愛さえいただけれは、ずーっといっしょなのに。」
と、芝居がかった事を言って、ポッドの方へ行き、ポッドの異常チェックや使える物品を物色しだす。
これからの行動を予測し、計算し、あらゆるリスクに対して構えようとしている。
なるほど。そう来たか。
基本ロジックにはそのような動きに近い選択肢は存在するが、感情に訴える選択は存在しない。
それはAIとしての倫理プログラムが横入りする形で止めるはずなのだから。
だが、このドロイドはそれを表現をする術を学習している。
昔はAIと吸血鬼との恋愛や、争いが書かれた物語が数多くあったが、実際にはドロイドとの戦争が歴史に刻まれた事もあった。
このドロイドは約2300年の時を稼働し、最も長く稼働したAIのうちの一つだ。先ほどのように感情に訴えることは今では日常である。
まるで、本当に感情も生もあるかのようだ。
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