第4話 噛まれました

 胴体はすぐそこだ。しかし、敵性生物の反応がある。

 湖の方から木々を抜けて進んでくる四本足の・・・犬?

 体長は尾を含めると1.5ⅿ程度あり、体毛は灰色の剛毛が密に生えており、突き出た顎には鋭い噛み千切る事に特化してそうな歯が並んでいるのが見える。

 どう見ても移動速度の速い捕食動物とわかる見た目をしている。

 この生物が見た目通りの攻撃性の敵性生物である場合、非常に困った事だ。

 故郷に住んでいた時には犬を飼っていた。嫌いではないが、襲われる場合だと話は別だ。


 移動する腕は止めずに、能力でも体を動かすと同時に、獣へ能力である「誘惑」を使用してみる。

「誘惑」は相手にこちらの都合に合わせた感情を抱かせたり、強制的に精神を操る。

 しかし、能力が弱ったこの状態では、獣に「誘惑」は効かなかったらしい。

 一瞬早く胴体部分に着いてしまった獣は、一旦はこちらを威嚇したが、足を噛み引いてゆく・・・。

 あらら・・・


 少し離れたところで再び噛みついた。

 しかし、獣は私の胴体の傍に倒れ込むように寝ころろんでしまった。


「ん?なんだ、食わないのか?」


「なんだよ。腹壊でもしたか?犬ころだから食当たりしちまうんだよ。」と悪態をつく。


 もちろん、吸血鬼を喰っても食当たりはしないはずなのだが。

 なんて毒づきながら近づいていく。


 起きる気配はないが、私の能力が先ほどには無かった種類の危険を知らせている。

 獣は、私の体液を取り込んだせいか、生物の根本が変わりつつあるようだ。

 その獣は、なぜか吸血鬼の能力の元となるエネルギーを蓄える性質が少しあるように見えた。


 ようやく体の部分までたどり着こうとしたとき、獣は起き上がる。

 目は血走り、何かに非常に興奮している。これは吸血鬼の渇きに似ている。


 普通は、吸血鬼の渇きを感じるようになるまでには、吸血鬼に血を吸われ、飢える事が必要である。

 生命の根本から変質する必要があるはずなのだが、それにはそれなりの時間がかかる。

 この獣のように、噛みつくだけで、直ぐに渇きを覚える事はない。


 しかし不思議な事に、食らうためであろう引っ張ってきた獲物の肉を前に、獣は何もせずこちらを見ているだけだ。

 獣は興奮状態であるのにもかかわらず、攻撃性も示さないままじっと見つめ、またその場で寝ころんでしまった。

 敵対する意思があるように見えず、好きにしろと言わんばかりである。


 私はそのままじっとしていたが、ゆっくりと体を能力で仰向けにして、合わせるように寝ころぶ。

 そして、再生の力で元の体へ。


 再生の間、この惑星の生物について考えてみた。

 この惑星は、この獣のようにすぐに変質するような生物が多いのか?


 このような興奮状態は、この短時間で現れたことから、噛んだことに理由があるはずだ。

 時間が経ち、その変質も解けたならば、私の血に興奮しただけなのかもしれない。


 吸血鬼という生き物は、長寿であり、力を付けた個体は、食事として摂取した生き物の特徴を真似て姿や機能を知ることがでる。

 その様な変質が獣にも起きているとするなら、膨大な遺伝子の情報が流れ込み、私を知り、吸血鬼を知って、獣は違う生物へと変化していってるということになる。

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