第3話 どうしてこうなった?

 私は落下の衝撃で気を失っていたようだ。

 気温や明るさからして、長い時間は経っていないようだった。


 気が付いて目に入ったのは、目の前にある美しい大きな湖の広がる岸壁だった。

 赤く焼けた空に、水面が輝いていて、湖面の上を鳥が群れで飛び、湖の周りには木々が生えて、多くの生命の息吹を感じる。

 前面が壊れてしまったバイザーの枠から見える光景は、すべてがキラキラと輝いて魅入ってしまった。


 ここにたどり着いたという喜びでいっぱいだった。


 ここまでの惑星間航行も悪いものではなかった。

 たまには生物も現れたし、雄大な景色とゆっくりとした時間を満喫できたのだ。


 ここはいい、こんなにも唯々、生命を感じる事は宇宙にいる間は無かった。

 このように、生命の営みに感動することができるのは吸血鬼であるらかもしれない。


 しかし、体の自由が効かないほどのダメージを負って、動けない困った状態にあるのはすぐに分かった。

 戦争を経験し、爆撃も受けた事もあるので傷を負うのは初めてではない。

 しかし、身を亡ぼす寸前であるかとも思えるほどの状態で、未知の場所で横たわるのはまずいとしか言いようがない。


 回復して装備の点検もしないと・・・


 だが、本来の能力を生かすエネルギーが失われてしまうほどのダメージを負ってしまったらしい。


「くそう・・・。」


 連れてきたドロイドは、ポッドから投げ出されて転がっている。動く気配もないし、壊れてしまったのだろうか。

 後で直してやろう。あいつはドロイドの中でも特にお気に入りだったしな。

 落ち着いたら、穀物でも果実でも、酒を造って、あいつと飲み比べしてみよう。


 状況が見えてくると、ダメージが大きすぎて動けないことがわかる。

 吸血鬼である私は、周囲ものを知るのに視る必要はない。意識を広げれば、目で見るように知ることが出来た。

 先ず、体の大部分が無い。吸血鬼であるが故、死なないでいるだけのことか。

 腕が無い。というか、胸から下がポッドの中で転がっている。体の胸から下は投げ出された時に湖の方へ転がってしまっていた。

 ヘルメットを被った首だけの状態で、生きている方が生命としては奇跡な方なのだから。


 どうしてこうなった?


 さすがに、自分でも引く状態であるが、どうにもならない。

 こんな状態で敵性生物に出会いたくないな。


 能力を使って使えるものがないか探るが、近くに使えそうな装備もない。

 敵性生物の気配は少しづつ寄ってきていているが、まだ障害となるまでには少し時間があるだろう。それまでに動けるようにならなくては。



 能力が少しづつ戻ってくる・・・。

 私の能力に周囲の物を触れずに動かせる力がある。

 大きさに比例してエネルギーを使うため、少し時間がかかるだろうが・・・。


 思ったよりも順調にエネルギーが集まる。

 どうやらこの惑星には吸血鬼である自分にとって、エネルギーの供給がしやすい環境になっているのかもしれない。


 よしよし。まずはポッドの中にある体からいくか。

 腕と足欲しいなぁ。

 あ。胴体と足があんなところにあるんだった・・・


 自分の胸から上の部分を引き寄せる。

 今は弱い力しかないが、集中して自分の方へ寄せていき、磁石でくっつけるように首を付けると、細胞を時間をかけ再生させ、血管をつなぎ、傷口を塞いでゆく。

 かなり消耗したが、体の一部を付けた事で能力を戻す速さが早くなってくる。

 心臓が戻った事でその効果も大きくなった。


 次は胸から下だ。外で転がっている。

 能力は万能だが、エネルギーが枯渇しそうなので、ここは敢えて物理的に腕の筋肉で這ってゆく。

 思ったよりバランス悪い。うまく這ってゆけないが、少しづつ回復しながら進む。

 さすがにこんな経験はない。経験ある人いたらどうやったらいいか教えてもらおう。

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