第2話 ある惑星へ

 時が流れ、戦いに明け暮れていた私に、自由を手に入れる機会が訪れる。

 それは、未知なる星域への単独での航行というものだった。

 まだ敵の勢力範囲と確認されていないため、戦闘は少ないと思われる方面への航行となっていた。


 私の船は比較的新しいクルーをたくさん必要としない小型駆逐艦であった。

 クルーのほとんどはドロイドであり、戦闘特化された強力な機械は、不安定な吸血鬼よりも頼りになる。

 指揮官や航海士等の判断が必要な職業は、その限りではなかったが。


 戦うために生かされた私だが、強大な力を持つ祖先の血を引く事もあり、身分は貴族である。

 貴族には、戦いを優位に導く能力を持つ場合があり、私もその例外ではない。

 その能力で理不尽とも言える激しい戦にも生き残ってきた。




 任務内容は、近隣星系の探索と、宇宙コロニーの移住計画を実行可能な惑星の調査である。

 必要があれば敵の殲滅、占領も含まれる。

 クルーは、副艦長、航海士、調査班2名、私の私物である多角管制システムを搭載するドロイド、艦の維持に必要なドロイドが200体である。

 艦に収納されたドローン60機、ドローンに搭載されたバトルドロイド2000体、調査隊のビークル2両、戦車2両、多目的に働くドロイド300体を搭載している。



 移住可能な惑星もいくつか報告し、更なる任務で未開の星系へとたどり着いた。

 運悪くそれまでに航行するうちにたまたま敵と交戦し、船のパワーパックに故障があった。

 応急の処置で復旧はするも自由に航行のための十分なエネルギーを失って、帰還への最短コースで運任せで進む。

 しかし、目的の場所が到着する前に戦闘によって、全て破壊されていた。

 燃料の補給をした私たちは、他の候補になっていた惑星に進路を変更する。



 進路を変えて航行していたが、敵の勢力の及ぶ範囲であり、ガス雲や小惑星帯等が進路にあった為、確実な航路は無かった。

 航行の為の燃料は補給したものの、更なる敵に遭遇し、艦はメイン推力エンジンとシールド、障害物回避システムを全て失った。


 その影響は計り知れず、飛来する小惑星や敵、宇宙ゴミも全てマニュアル操作やドロイドで対処しなくてはならなくなった。

 本来であれば撃沈扱いか良くて航行不能の扱いである。

 引き返す余裕はなく、ダメ元で救難信号を送って報告しておくが距離や障害物、敵の存在によって救助は困難と判断するだろう。



 コントロールを失ったが船の軌道が目的点に進路に舵っていたのでそのまま向かう。

 何とか目的の美しい惑星の近くまで来れた。


 しかし、質量の大きい小惑星が衝突コースで飛来する。

 破片が直撃して慣性制御システムが壊れてしまった。

 そして、制動が不十分なまま惑星に接近し、その惑星の衛星である小惑星の一つに衝突する事故が起きた。


 よくもこれだけ次から次へトラブルがあるものだ。



 衝突した船と小惑星は軌道を変え、惑星の軌道から外れていく。

 同時に船は火災で居住区を失い、機関室の爆発で船体がくの字に曲がり、艦橋を失って、船外に放り出された吸血鬼のクルーは死んだ。

 生命力の桁違いな私だけは、何とかドロイドと格納庫へたどり着き生き残った。


 船は惑星の重力に引かれて落下しながら加速し、ついには重力の加速で星の軌道外へと弾かれるだろう。その前にこの惑星へ着陸すべく脱出したい。

 今、この期を逃せば、船と漂流するしかないのは確実である。



 質量も地大き過ぎず、大気も安定し、生命を維持できる惑星だとは判っていた。

 星系に近づいた時、まだまだ未開の惑星ではあるが、文明のようなものがあるのは観測してあった。

 たどり着けさえすれば何とかなる。そうするしかない状況なのだ。


 すぐ脱出ポッドの用意をしたのだが、ポッドも破損していた。

 大気圏へ降下するための物理シールドにわずかではあるが損傷がある。

 大気の抵抗に耐えることが出来ないと思われたが、完全な修復に当たる時間は到底ない。

 短時間で出来る簡単な修復だけして、武器や簡易食料と私物の一部を積み込んでドロイドと乗り込む。


 船は惑星から離れたところで最大の加速を得る。その時、残りの燃料を使用し、恒星へ落下する軌道へ乗る。百数十年のうちに落下し、塵も残らないだろう。


 念のため、惑星の軌道上にドローンと物資ををできるだけ残すよう、船から出す指示をしておいた。

 切り離し出来る船の区画を、艦内のドロイドと共に、もう一つの軌道上の小惑星に移動するようにしてある。

 地上への支援が必要な場合がある場面も出てくるかもしれないからな。



 最適な軌道を待つ余裕もなく脱出する。そして、降下を始めると、重力がポッドを地上に叩き付けようと引っ張るのを感じる。

 大気圏に入るとドローンを盾にて少しでも負担を軽くする。

 無理な降下コースのため、スラスターで軌道を変えながら降下してゆく。

 だか、やはり物理シールドの一部が外れてしまった。

 エネルギーシールドでは防ぎきれない大気の摩擦熱が外殻の一部を変形し、船体の温度が少しずつ上昇していく。


 ドローンの通常の突入コースではない、ポッドの降下コースに、盾になっていたドローンが熱の限界に達していく。

 最後に制動をかけてポッドの下面を押し上げて、落下速度を落としてくれて、大気圏外へ離脱していった。


 もう少しすれば制動をかけて衝突回避コースに入るのだが、しかし、再び降下し始めたポッドは、温度が再び上昇していく。

 間もなくほとんどの機能が停止をし始めて、降下ではなく落下している状態だ。

 燃料が足りなくなる可能性があるが、制御機器の温度が限界になる前にスラスターの逆噴射を全開にしてみる。


「もうどうにでもなれ。」


 外殻の温度が冷え始めて、機能が戻り始めた。

 全てのシールド壊れたわけではないので、細かい制御が効かなくても何とか軌道修正出来るだろう。


 だが、軌道修正はしたが、着陸に必要なスラスターの燃料は足りないかもしれない。

「使いすぎたかも・・・。」

 脳裏には故郷でよく聴いた悲しい歌が流れ始めた・・・なんてこった。


 スラスターは早めに開いて、衝撃を吸収できそうな海でも落下することを願おう。


 何とか地上へ衝突は避けたかったが、無事では済まないだろう。

 再び温度が上昇し始めるが、あと少しでスラスターを全開にする高度まで下がっている。

 全開にして降下を試みる。


 ゆっくり落下し始めた・・・

 やった。予定の着陸位置はかなり外れてしまったが、何とかなりそうだ。

 位置をドローンと通信しながら割り出してみると、大陸の端へ着陸しそうだ。

 海の浅いところへでも着水してほしい。条件が悪いと終わりだ。


 しかし、運悪く少しばかり海へは届かないようだ。スラスターも位置を修正出来るだけの燃料は無い。

 降下は木々の少ない岩山の中腹へ降下し始め、スラスターを開いて速度を落とす。

 が、あと僅かのところでスラスターの燃料が切れ、ポッドは速度を落としきれずに落下し、バランスを失って地面に衝突してしまった。

 落下の衝撃でバウンドし、斜面を転がり落ちて行き、岩に当たってポッドは半分に千切れて斜面に横たわる。

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