07#大混乱ラッシュ
なにが起きた。
混乱する頭はぐるぐると思考を動かしているのに、体は冷たい
覚えがあった。警察署で事情
「ゴン、ゾ……アンタ……」
ジェーンの声が聞こえた。舌が
「悪いな。けれど
そして足が去っていく。手を
視界の
そこから数分
「ジョン、再起動! ゴンゾーを追いかけるわよ!」
カタカタ、とキーボードを乱暴に打つ音が
そして
残された少年は指先から少しずつ動かす。
思考が
上体を起こした頃、周囲は人に囲まれていた。人種は様々だが、全員が白のスーツで統一されている。
「貴様がラグーンの弱みだな?」
「ボス……標的はタワーに
「取り引き材料は必要だろう。手足を折って、歯でも
情報が
街全体が
自分の体を見下ろせば、黒い学生服のせいか
大半は土や
入学して二週間。ここまで汚れてしまうとは、入学式の時には思っていなかった。
「とりあえず
腕を
元からベニヤ板のような
男達が悲鳴を上げ、立ち上がろうと
支柱の中でもど真ん中の柱を拳で折る。まるで積み木が
見上げれば街の
走る速度は運動部には負ける程度。それでも
「……」
五年間住んだ街。人通りが少ない道や、簡単な
帽子を胸に
狭い路地に積まれた
不可解な
目の前を横切った
「……っ、はぁ……ぜぇ……」
息を
頭の中は混乱が続いていて、解決策など一つも思いつかないままだ。
言葉にできない感情が毛玉のように胸に引っかかり、
「どけ、
「うっせぇ! 夢を
喧嘩の声。その中に聞き覚えのある単語。
無視して進もうと思い、アパートの裏手から走り出そうとする。
「ふざけんな! あの
悲鳴にも似た、
「なのに裏切られて、利用されて……」
「知らねぇよ!!」
続けて小さな体が転び、それを
「ジェーンがパパの夢を叶えるの! 世間に、パパは
路地に
ヤクザの三下達に見下されながらも、
「
「お前さんのパパは、運が悪かったのさ。またチャレンジすればいい」
「そうそう。いつか運命の
悪あがきを続ける幼女に、男達は笑いながら
それでも手を伸ばして進もうとするが、小さな手の
「やめとけって。これ以上は
男達の中でもリーダー格の中年が、煙草を吸いながら最終通告を
革靴で幼女の手を
「っ、ぐぅ……マ、マと……同じこと……ないで、っづぅ」
父親を信じてくれなかった母親が、家を出た日。
その時から成長しなくなった体のまま、ジェーンは父親を支え続けた。
苦節十年の大作を横取りされ、運が悪かったから諦めろと言われて――。
「いつかじゃない! 今、パパの夢を叶えなきゃいけないの!」
手の甲から足が
銃を取り出そうと構えた男は腹を殴られ、体がくの字になって電柱へとぶつかる。
一分もしない内に男達が倒され、立っていたのは一人の少年。
「……なんで?」
顔を
助けてもらう義理すらない。むしろいい気味だと笑われてもおかしくない。
それだけのことをした自覚がある。なのに少年はジェーンへと手を伸ばした。
「思い出したから。困ってる人は助けるもんだって」
「なにそれ?
「まあ最初は無視するつもりだったんだけど」
あっさりと見捨てようとしたことを告げながら、イノリは
「家族が大事な気持ちは一緒だなって」
「……」
「だから助けた。それだけ」
少年の馬鹿さ加減に
けれど
家族を
ジェーンの気持ちを勝手に重ねないで。
どれだけ苦労したかも知らないで、ふざけたこと言わないでよ。
その全部が口の中で消えてしまって、目元が熱くなっていく。
理解されないどころが、聞いてすらもらえなかったこと。
夢を追っているのだから、好き勝手遊んで楽しいだろうと馬鹿にされた日々。
実の家族――母親すら呆れて、離れていくような父親の夢。
ろくでなしだとわかっていても、ジェーンにとっては
そんな父親なんて捨てろと言われても、
「じゃあ俺はクロを助けにいくから」
幼女の手をあっさりと離し、そのまま走り出そうとする少年。
しかし背後から学ランの
「待ちなさい、馬鹿雑魚! アンタの走行速度じゃ
「でも車は……」
街の混乱のせいで、道路では
バスや電車を使ったとしても、
「ジョンを再起動させるから! その背に乗れば速いわよ!」
「……なんで?」
魔女帽子を
幼女の耳が赤くなっていることも気づかず、不信感から
「
「えー……それだったら俺は先に走って……」
「あー、もう! 目的地に
「まあ別に、断る理由はないけど」
よくわからない展開にイノリが
自転車くらいの大きさである鋼鉄の大型犬は、
少年が乗ったことを
動物型遊具を二人乗りしているような構図。
「うわっ!?」
「ジェーンに掴まって! そうすれば落ちないから」
ちゃっかりと耳型の握り手を掴んでいる幼女。ますます動物型遊具のように見えたが、文句は言っていられなかった。
眼下に広がる街を見下ろす構図に、不安定な
「びゃっあ!? ちょ、いたたたた!?」
顔を赤らめたのも
「せめて
「お色気とか言って平たい胸を押しつけたくせに今さらじゃねぇ!?」
「忘れろぉおおおお! 後で覚えてろよ、ざぁあああこ!」
「どっちなんだよ……」
赤面したり
「あ、んっ……」
「どうした?」
「別にっ!
風でツインテールが顔に当たるイノリが
右手でばたばたと動く魔女帽子を握りしめる少年は、次第大きくなっていく赤い塔を見上げる。
夕方には
「最上階に魔術陣がある。でもその起動方法を知っているのは、ジェーンとゴンゾーだけ」
「え?
「ネットの
塔の周囲は道路や広場が増え、ビルが減っていく。
ビルの屋上や壁を
そして
「んだ、ごらぁっ!?」
「てめーも
顔面
熱も現象も、
「んがぁっ!?」
人々の頭を
「
足場のない空中に跳躍した大女は、
そのまま体がくるくると回転し、アスファルトの地面に頭から落ちてしまった。
「やるじゃん、雑魚のくせに」
「その口の悪さ直せよ」
魔術に対してはジェーンが、物理的な攻撃にはイノリが。
鋼鉄の大型犬に乗った二人はそれぞれの得意分野で敵を
足を止めぬままに、
外側から
「ゴンゾーの
「無効化したら、他の奴らも
地上は夜という理由だけでなく、多種多様の人が集まったせいで黒く
それは
「ジェーン達だけを無効化すればいいのよ。能力はイメージ次第なんだから」
少年の
能力開発は、脳を
効果
思い出していた矢先、体が
柔らかい反発が体全体を覆ったが、すぐに消えてしまう。
そして赤い塔の最上部近くまで辿り着いた
煙も熱もなかった。ただ体を
体が宙に浮き、手がジェーンの腰からも離れていく。無防備な
「ジョン!」
幼女の声に忠実な大型犬は、トラバサミのような口で学ランの裾を
首が千切れる勢いで頭を
「こんな高さ、雑魚じゃ死んじゃうもんね。本当……ざぁこ」
幼女と大型犬が吹き飛ばされるのを
手の平を支えに起き上がれば、硝子の
展望台のようだった。あちこちに固定された望遠鏡が置かれ、
騒ぎのせいで
止まったエスカレーターに腰をかけている人物がいた。
「あー、自己
闇の
ゆらゆらと揺れる煙が室内を満たすことはないが、確実に臭いを付着させていく。
「えー、塔都警察署の
月光や星明かりで照らされる場所を
「
「クロはどこだ?」
ゴンゾーは煙草を口に
「俺を倒して進んでみろよ、学生くん」
「わかった」
都の中心地、真っ赤な塔で戦いが始まる。
その
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