03#包帯男
空から街を見下ろして、その「果て」が視界に入る。
赤い
それは細長い
煙突を
けれど
そして
近くに似たような街は存在していない。空から見通しても、他の生活圏は見当たらない。
ただ白い
どれだけの高度を飛んでいるのか、イノリにはわからなかった。
けれど街の
「なあ、街の外はどこかに繋がっているのか?」
「もちろん。西には食都、北には
相変わらずクロートに
塔都から
どこへ行くのだろうか。それを知る前に、トタンの屋根に足が着いた。
「
「時間短縮のためじゃなかったの?」
「それもある。相手が
クロートの言葉が
背後から転びそうだったが、それ以上に
包帯で全身を
たたらを
屋根の
右足が
屋根からぶら下がる形で停止したイノリは、今いる建物が倉庫だと気づく。
ちょうど視線の先に小窓があり、
放置された段ボール箱の山。それを
包帯の表面には筆でびっしりと文字が
そして「目」の文字と視線が合った。背筋をなぞった
五メートル近い高さから落ちたが、受け身をとってコンクリートの地面を転がる。
またもや学ランに埃がついてしまったが、小窓と
包帯男は二メートル近く、イノリは見上げる状態で
包帯男の手には包帯が巻かれているだけだ。
クロートは倉庫の中に捨て置かれたのか、近くに気配はなかった。
「お前がフィガロ?」
問いかけるが、返事はない。
文字の「口」が書かれた包帯周囲がもごもごと動くが、声は小さすぎて聞こえない。
包帯男の動きはぎこちなかった。油を差していない自転車のチェーンの方がまだ
「クロートはどうした?」
じりじりと後退しながら、なおも
敵の
「……」
包帯男は口を
自らが
あまりの速さに思考が追いつかず、直感だけで
「うおっ!?」
一つで終わらない。二つ、三つと瓦礫が
避けている内に包帯男が歩み寄ってくる。歩行速度は
車二台がかろうじて並べられる道は曲がり角が多く、
しかしイノリは壁に隠れなかった。
なにせ「
包帯男の射線上から
「ちょっとは話し合うとかないのかよ!?」
常に口部分の包帯が動いているが、布地に
新たに投げられた瓦礫により、また別の倉庫に穴が空いた。
積まれた段ボールが道を塞ぐように転がり落ち、
着色が
「売れ残りとはいえもったいない!」
そう思っても地面に
赤い川のようにイノリと包帯男の間を横切る飲料水。一歩
ビー玉程度の大きさだったが、額に当たって
右目の横を伝い、
「……」
包帯男の背中には「十六号」と書かれていた。
真意はわからない。けれどいい意味ではない気がした。
学ランの
地面を転がるペットボトルを一つ掴む。
中身が残っているのを
それを察知した包帯男が
「っ!」
ペットボトルを
そして――
「!?」
初めて包帯男に感情のようなものが
瓦礫を殴り落とし、ジュースの川を
右手の拳は
瓦礫を投げても、今のように落とされたら距離を
全身を隠す包帯に描かれた文字。それを消されては――。
声にならない
苦しそうに顔を上げた少年の腕を掴み、骨を折ろうと力を入れる。
瓦礫さえ
指がそれ以上
鋼よりも少年の体の方が
けれど濡れた右手は
完成度の低い
墨で描かれた文字が
「っ、あ、ぁあ、ぁあぁあぁぁああああ!!」
ようやく包帯男の声を聞いたイノリだが、ほぼ息を止めているに近い状態だったので
口の中に柘榴と桃の味が混ざり合っていて、
「っげほ、がはっ! 鼻に逆流するかと思った!」
鼻の
瓦礫を投げて倉庫がいくつか倒壊したせいで、周囲に
けれど地面を転がる包帯男に聞かなければいけない。フィガロの手先か、
「ぁあああああ!」
「なあ、悪いんだけど話を」
ぼこぼこと
けれど両手は文字が滲んだ目や鼻を
「返せ! 私の目、鼻、ごぶっ、きゅ、口ぃっ!!」
文字が溶けた
自らが吐き出した血で腕の字を濡らすと、包帯男の腕がだらりと力をなくした。
それを激しい痛みで近くした男が叫び続け、少しずつ赤で体を
「な、なんだよ……これ」
包帯男の腕の包帯を引き千切る。声にならない悲鳴が上がったが、気にしていられない。
それさえも
「心臓だけは! 心臓だけはぁああああ!!」
左胸の包帯に「心臓」と書かれた文字。
喉や
一箇所でも濡れて文字が消えれば、
包帯をじわりと濡らしていく
それが少しずつ足や肩へと広がって、男を苦しめた。
「ま、待ってろ! 今、クロートを」
探しに行こうとして立ち上がり、砂埃を
運転席には
「……けて、……た……て」
泣くことはできない。ただ声を出すが、布地に遮られる。
背中に「十九号」と書かれた男は、
望まずとも、包帯が勝手に操作する。
必要な
全ては
ハンドルを握りしめながら、ぶつかった
アクセルからは足を離していた。けれどそろそろバックして、遺体を確かめなくてはいけない。
前輪
ギュルルルルルルル……。
空回りする音。全く後退しないトラック。
十九号はエアバッグを
砂埃が
「う、おりゃ、ぁあああああ!!」
トラックの前方部分、鋼鉄の車体に両腕を
血塗れの男が気絶しているのを横目で見下ろし、イノリは運転席にいる包帯男を
「アンタも、同じか!?」
なにを言われたのか、
けれど少年が
濡れるわけにはいかない。この文字を失えば、全身を
涙ながらに
力強く頷く。少年の善良性を信じるしか、もう道はない。
「……けて」
口をもごもごと動かして、何度も
届かないとわかっていても、魔術師の
「助けて」
トラックは荷台と運転席を連結するタイプのものだった。
しかし、だからといって。
なのにイノリという少年は、包帯男が乗っている運転席を引き千切った。
魔術師フィガロの狙いは「
「クロート!」
記憶はない。
けれど新たに生まれることだってあるだろう。少なくとも、少年にとっては
「こいつらを助けてくれ!」
叫んで、包帯が体を巻き取った。
足を、腕を。あらゆる部位に
「
運転席の中にいた包帯男は、その声に
強くなりたい願いを
それはガラガラヘビよりも
「ヒイロ研究所の残留物のくせに」
それは美しいエルフだった。
男か女かもわからない
色素の
白衣を着ているが、ボタンは閉めていない。その下は包帯を緩く巻いているだけだった。
しかし包帯の色は黒い。あらゆる箇所に墨で記録を残し、余白を埋めてしまった。
「お前は……」
「魔術師フィガロ。最強を追い求める者さ」
そう言ってフィガロが微笑むと、イノリの体を
少しずつ木乃伊のように動きを封じられていき、引き千切れないかと力を
だが包帯には墨で「無効」と書かれていた。それだけであらゆる手段を封じられている。
「私は魔王コレクションには興味がないからね」
「ぐっ!?」
首に絡みついた包帯が、気道を
息苦しさで口をはくはくと動かすイノリを、フィガロは
「願いを叶える
イノリの全身が包帯で覆われる。
美しい勝利の
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