第3話疑惑

黒川警部は広原巡査部長の運転で隣街に向かった。谷水清の奥さんから聴いた場所へ向かった。そこは、ラブホテル前の路地であった。

路地に一台車が止まっている。

広原は運転席のドアをコンコン叩くと、男が出て来た。

「どなたです?」

男はイケメンで背が高かった。

「警察の者です。お話よろしいでしょうか?」広原は警察バッジを見せた。

「は、はい。何があったんですか?」

「あの~、水原アキさんご存知ですよね?」

「い、いえ知りません」

黒川の問いに、谷水は否定した。

「ここは、暑いんで喫茶店いきませんか?お仕事の最中ですが……」

谷水は、

「大丈夫です。ちゃんとメモしてありますから」

三人は、ファミレスでアイスコーヒーを飲んだ。

「谷水さん。今夜のお仕事は何ですか?」

「浮気調査です。もう、この時間なら多少現場に居なくても大丈夫です。朝まで出てきません」

「ラブホテルの張り込みなんて、僕には向かないな~」

と、黒川が言うと谷水はクスクス笑った。

「で、刑事さん、水原アキさんって方がどうされたんです?」

「黒川で結構です。今夜、隣街の夏祭り会場でお亡くなりになりました」

「何でまた?」

「詳しい事は分かりませんが、心臓を撃ち抜かれて即死です」

「それは悲しい事件ですが、私と何の関係があるんでしょうか?」


広原は谷水に名刺を示した。

「これ、殺された水原さんの手荷物から出てきました。ご存知ない?」

「黒川さん、私たちは広く仕事してますんで、いちいち名刺を渡した相手を覚えていません。すいません、お力になれずに」

「そうでしたか。ご足労おかけしました。良かったら軽く何か食べものを」

「黒川さん、大丈夫です。夕飯はキチンと食べました。カップヌードルですがね」

谷水は黒川と広原を残して帰って行った。


「広原君、犯人はあいつだよ。きっと」

「な、何故です?」

「歯、歯だよ」

「歯?あ~いい歯並びでしたね。谷水さんは」

「バカ、歯にくっついてんの見なかった?」

「い、いえ」

「歯にね、青のりがついてたの」

「それが、何か?」

「き、聞き込みでね。死んだ水原と男が並んでたこ焼き食べてる時の目撃者がいてね。たこ焼きには、青のりでしょ?」

「ま、まさか~」

「まだまだ、証拠集めなきゃ。明日、谷水の身辺調査お願いね。今夜は帰るよ!」

二人はまた来た道を戻っていった。


谷水はバッグも持ち去るべきであったと深く後悔した。

オレの計画は穴だらけだ。今後、黒川という太った刑事はオレを疑うだろう。だが、オレがやったという証拠はないはずだ!

この浮気調査の当事者たちは朝の8時にしか出て来ない。それは、調査済みだ。安心しろ。谷水はしばらく、目を閉じた。


携帯電話のアラームで目を開けた。3時間眠っていたらしい。

すると、見覚えのある二人組の男たちがフロントガラスの向こう側に立っていた。

黒川だった。

谷水は車に乗るように合図した。

「おはようございます。谷水さん。缶コーヒーとサンドウィッチどうぞ。こっちの仕事は片付きそうですか?」

「後、30分すれば片付きます。このホテルから出た瞬間をカメラで撮ります。それで、十分です」

谷水はお礼を言って、缶コーヒーに口を付けた。

「昨夜から、ずっとお一人で仕事されてたんですか?」

「はい、そうです」

「調査されている人物がホテルに入った時間は分かりますか?」

谷水はニヤリとして、手帳を捲った。

「19:20ですね。それが聴きたかったんですか?」

「はい」

「ちょっと、動かないで!」

他人はエントランスから出て来た、若い男と40代であろう女性の姿を数枚、カメラに収めた。

「私は今から、事務所に戻ります」

「そうですか。お邪魔致しました。じゃ、我々も」

と、黒川と広原は車を降りた。

二人はラブホテルの事務所に行き、谷水が張っていたカップルの入室時間を尋ねた。

「黒川さん。確かに、谷水の言う通り19:20ですね。アリバイ成立ですね。だって片道1時間ですからね」

黒川はタバコを吸っていた。

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