第2話登場

現場は騒然となった。楽しい夏祭りの最中に境内に警察が押し寄せ、年に1度の夏祭りが台無しになったが、夏祭りは中止されることもなく、現場の周辺だけが事件に胸を弾ませる野次馬の餌食になっていた。

そこで、現場の指揮を取るものがいた。

広原慎一巡査部長である。

手荷物から、死体の身元が判明した。また、現場検証にも立ち会い広原はてんてこ舞いであった。

そこに、長身で太った男が現場検証を眺めていた。

スラックスに青い半袖シャツの男だ。

男はブルーシートで目隠しされた、女性の遺体に近付いた。

男の肩を広原は叩いた。

「君、どきなさい!」

男が振り向いた。広原は唾を飲み込んだ。

「し、失礼致しました!黒川警部」

男の名は黒川幸介で刑事課の人間である。強行犯の担当で、彼は変わり者として有名である。

「広原慎一君だっけ?そろそろ僕の体つきを覚えろよ!そんなんじゃ、うちでやっていけないよ!」

広原は、ハッ!と返事して遺体の身元の説明をした。

「え~っと、被害者は水原アキさん、21歳です。そこの私立大学の学生さんですね。死因は銃で心臓を一発。即死ですね。死亡推定時刻は19:15頃です。銃声が聴こえたそうです。携帯電話は見つかっていません」

黒川は遺体の遺留品を物色している。

「仏さん、妊婦なの?」

「さ~、どうだか分かりません」

「広原君、これみて!」

「あっ、御守りですね。それが?」

「君は、全く注意力ないね。バカ」

「す、すいません。何ですか?」

黒川は御守りを指差し、

「安産祈願」

「は、犯人は男ですかね?」

「さ~、どうだろうねぇ~。広原君、携帯電話無くなってるから、顔見知りの犯行だね。なんか、手帳とかない?」

広原は遺留品から、数枚のカードを黒川に手渡した。


「これなに?」

「ポイントカードじゃないですか?」

「バカ。この谷水探偵所って」

「事件と関係ありますかね?だって、こっちには、精神科の病院のカードもありますよ!」

「広原君、このカードの関係先を今夜中に全て洗ってよ!」

「ハッ!」

黒川は、広原に指示して聞き込みを開始した。すると、直ぐに水原アキが男とたこ焼きを食べている姿を見たと言う老夫婦の証言を得た。後はさっぱりだった。みんな、本当にお祭り騒ぎで他人に興味が無いのだ。


「黒川さん、どこにいるんですか?探しましたよ!一応、カード関係は調査済みです。明日、交遊関係を洗います。あっ、焼きそばですか?」

「はいっ、君の分」

「あ、ありがとうございます」

二人はパトカーのなかで焼きそばを食べた。

「カードは関係なかった?探偵事務所の方は?」

「一応、当たりましたが面識はないそうです。女性の所長さんでした。副所長さんは、旦那さんらしくて、探偵事務所って儲かるんですかね?」

「さぁ、で副所長にはあたったの?」

「何故ですか?」

「普通は、探偵事務所のカード持って無いよ。だって、カードの名刺は誰だっけ?副所長になってたじゃない」

「あ、一応、奥さんに副所長の事聴きましたが、仕事みたいでしたよ!」

「何の仕事?」

「浮気調査らしくて」

「場所は?」

「ここから、車で1時間の場所です」

「行ってみようよ!」

「何故です?」

「一応ね、一応」

黒川警部と広原巡査部長は1時間かけて隣街の谷水の仕事場所へ向かった。


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