黒川警部の事件ファイル

羽弦トリス

第1話犯行

二人の男女は神社の石段に座りたこ焼きを食べていた。

その日は夏祭りだった。人々は手に色んな食べものを持ち歩いている。子供たちは、キャーキャー出店の前で騒いでいる。

男は谷水清といい探偵事務所の副所長である。

女はアキと言う女子大生である。

「キヨシ君。私は絶対別れるの嫌だからね。お腹の中には、あなたの子供がいるんだから」

キヨシはたこ焼きにつま楊枝刺し、口に放り込んだ。

「何度も聴いた。オレに何をしろって言うんだ。金も渡したろ?」

アキはムッとした感じで、キヨシにバッグの中から封筒を渡した。キヨシに渡された金が入っている。

「そう言う事を言ってるんじゃない。オレに何をさせたいんだ?」

「私と結婚して!奥さんとは別れて!」

キヨシはタバコに火をつけ、

「探偵事務所の所長はかみさんなんだ。別れたら、オレは副所長を辞めなくちゃいけない。今さら、職を変えるのは無理なんだ。オレのものは全部かみさん名義だから、全てを失なうんだ!」

「キヨシ君。私、絶対諦めないからね。こっちにはお腹に子供がいるんだから。明日にでも、キヨシ君の探偵事務所へ行ってあなたの奥さんに直談判するから」

「アキ!分かってくれよ!」

清はアキの顔を見詰めて、

「絶対、悪いようにはしないから、おまえだってキャバクラで男と遊んでるじゃねぇか!」

アキは目を丸くして、

「あなた、私をなんだっていいたいの?明日、明日は必ず探偵事務所へ行くから。奥さんとはお別れね」

「かみさんとは、おさらばか……」

「自業自得でしょ?」

清はベルトにあるものを挟んでいた。

「ねえ、アキ。神社の境内の裏行こう。人目につくと、大事な話しも出来ないし、さっ行こう。大事な話しがある」

アキはめんどくさそうに、

「ここで話せばいいのに!」

清はアキの手を引き、人目の付かない境内の裏側に移動した。

「アキ、僕の事は諦めてくれっ!頼む!」

「頼むで済む問題なの?あたなの子供もいるのよ!」

ここで、アキの運命は変わった。

「そこを何とか、頼む!でなきゃ……」

「でなきゃなんなのよ!」

清は冷酷な表情になった。

「君を殺さなきゃいけなくなる」

「お、脅しにはのらないわ」


パンッ!



清は銃の引き金を引いた。銃声に気付く者が何人いるだろうか?

谷水清は夏祭りの雑踏の中に紛れ込んだ。

銃声を聴いた巡回中のガードマンが境内の裏手を見回った。

そこには、冷たくなったアキの死体が横たわっていた。

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