幕間3 手向けの酒、終わらぬ動乱

 葬儀が終わり、辺りが仄暗くなっていた。

 それにも関わらず、最早誰もいないジェラールの墓の前に、一人立ち尽くす人物がいた。

 その人影はどこからか酒の瓶を取り出すと、そのまま指一本でコルクを弾き、中身を墓石へとかけ始める。


「意外なことになったものだ」


 声を発した自身でさえ聞こえるかどうかの呟きを零し、人影はなおも酒瓶を傾け続ける。


「決着を付けるには、直接やり合うしかないと覚悟していたものだが。身内に足を掬われたな。非常につまらん結末だ」


 内容とは裏腹に、その声には怒りや不満が表れてはいなかった。その代わり、どうしようもない寂しさだけ、男の周りからは漂っていた。


「あの子飼い。悪趣味だけで飼っていたわけでは無さそうだな。思っていたよりも一癖二癖、ありそうだ」


やがて全ての酒が流れ終わった。男は持っていた空の瓶をその辺に投げ捨てて、迷わずその場を去っていく。


「まあ、相手が変わり楽になったと思うことにしよう。気持ちの話だがね」


 その言葉は最後まで誰にも聞かれることはなかった。



 そして一ヶ月後、遂に宰相が実力行使に出た。

 騎士団の第二師団と直下の兵を引き連れ、クーデターを引き起こしたのだ。

 城に占拠し立て籠もり、王族を人質にして。 


 ジェラールがいなくなったことで、宰相派は策に頼らず強引な手段に訴えた。

 それは、電撃的な夜襲として行われた。

 

 密かに警備に紛れ込んでいた獅子身中の虫が、夜中に城内で一斉蜂起し、同時に城外で密かに待機していた仲間を手引きした。

 単純な作戦だが、城の内外で同時に展開されると防ぎようがない。

 度重なる暗殺事件で、警備をさらに増やしていたのが逆に仇となった。

 

 ただ、アルノーにとっては狙い通り功を奏したのだが、それに気付く者など誰一人いなかった。 

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