08.決闘1


「一騎打ち……ですか?」

「そ、俺から一対一(サシ)の勝負で勝てたなら全てチャラにしてやるよ。ただ……」


 次の言葉まで少々の間があく。

 ジョセフは余裕そうにニヤリと笑い、さらに続けた。


「もしお前が負けたなら……その時はそこにいる女二人だけじゃ済まねぇかもな」

「一体何をする気で?」

「そりゃあ言えねぇな。そうなってからのお楽しみってことで」


 憎たらしいそのアホ面を向け、俺を煽るジョセフ。

 

 ま、企みなんて探らなくても分かる。だって顔になにかやりますって書いてあるのだから。

 もちろん聞いたところで答えるわけがないことは承知の上。話が通じるような相手でもない。

 だがメロディアたちがいる以上、下手な真似ができないのも事実。


(正直こんな奴ら眼中にないのだがここは……)


 奴らのルールに乗っ取って行動することにする。


「どうだ? お前にとっちゃ悪い提案じゃないと思うんだが」

「……ああ、悪い提案じゃない。むしろ願ったり叶ったりだ」

「ふん、やけに自信ありだな。じゃあ提案を受け入れるってことでいいんだな?」

「もちろん、構わないぜ」


 俺はその提案を受け入れ、明日にとある場所にて決闘(デュエル)が執り行われることになった。

 ルールは一対一の無制限マッチ。武器使用、魔術使用なんでもありという分かりやすい内容だ。


「……じゃあ明日、さっき話した場所に集合だ。時刻は正午、もし遅れたらその時はお前の不戦敗や」

「分かった」

「ふっ、身の程知らずな男だ。せいぜいその後ろにいる女どもと最後の夜を楽しむといいさ。はっはっはっは!」


 A級パーティーの長とは思えないほど下品な高笑いを上げる。他のメンバーたちからも所々で笑い声や罵倒するような声が聞こえた。

 ジョセフは蔑むような横目で俺たちをチラッと見ると、仲間たちを引き連れその場を去っていった。

 

「―――身の程知らずはどっちだ、この外道が」


 今はその怒りの感情を心中だけに留めておくことにする。

 そして明日、俺は彼らから指定された場所に足を運ぶこととなった。


 ♦


 ―――冒険者宿『アレスの鉄槌』2階自室


「すまんメロディア、指導の約束があったのにも関わらずこんなことに……」

「謝らないでくださいレギルスさん。それに、私たちがいたばかりにあんなことに……」

「いや、そんなことはない。謝らなければならないのはこっちの方だ。本当にすまない」

「何があったの。あの人たちは一体何者?」

 

 クローレの問いに俺は静かに答える。


「あの冒険者集団は俺が元所属していたパーティーのリーダーとそのメンバーだ。一昨日辞めたばかりだけど」

「なんで辞めちゃったんですか?」


 そう聞くのはメロディアだ。

 なんでか、と言われても中々答えられるもんじゃない。俺だってプライドはある。

 赤の他人にボロクソに言われて平然とできるほど俺は大人ではない。


「まぁ色々あってな」


 ただこの一言で理由を片づける。

 メロディアもクローレも何かを察したのか二人とも悲しそうな顔で俯く。

 その姿を見ると俺はすぐに、


「ま、まぁ俺は気にしていないから大丈夫だ。だからあまり気を遣わないでほしい」

「は、はい……」


 微妙な空気になってしまったのでとりあえず弁解。俺なら大丈夫だアピールを二人にしていく。

 

「レギルスさんは明日のお誘いに行くのですか?」

「ああ、提案を受け入れたからな」

「でも相手はA級冒険者なんでしょ? どう考えてもE級冒険者のあなたには勝ち目なんて……」

「いや、レギルスさんなら大丈夫ですよ」


 メロディアはクローレを遮り、真剣な顔でそう言う。


「な、なんでそんなことが言えるのよ。普通に考えたら……」

「私は見たんだクロ。あの日、私たちがトロールに襲われた時に助けてくれた時のレギルスさんの力を。本当に凄かった、回復術師とは思えないほどの俊敏性と攻撃への切り替えの速さだった。正直その辺りにいるA級冒険者以上の実力を持っていると私は思っているわ」

「そ、そんなに……?」

「うん、だからレギルスさんなら大丈夫。私はそう信じる」


 メロディアは決して嘘はついていなかった。クローレもその話を聞いて疑うことをしなかったのだ。

 俺はそんなメロディアの必死な様子をつい見入ってしまった。

 するとメロディアはすぐに俺の視線を感じたようで、


「あ! ご、ごめんなさいレギルスさん。私、凄く偉そうなことを……」

「気にするな、逆に励まされたよ。ありがとうメロディア」


 慌て始めるメロディアに微笑みかけながら頭に手を乗せ、優しく撫でると、


「ふぇ!? れ、レギルスさん!?」

 

 変な声が出てしまい、顔を真っ赤に染めるメロディア。

 俺はすぐさまメロディアの頭から手を引っ込める。


「あ、すまん。頭を撫でられるのは苦手だったか?」

「い、いえ! ちょっと驚いただけです」

「そ、そうか……」


 やばい、つい撫で癖が出てしまった。

 ガキの頃はよく小動物を撫でるのが好きで次第にそれは人にも向いていった。聖域に住む後輩賢者見習いの女の子にも何かあればよく頭を撫でていた。

 自覚はないがそれが俺にとっての快感……ということで癖になってしまったのかもしれない。


「悪いメロディア、これからは気を付ける」

「べ、別に私は気にしていないのですので……」


 少々たどたどしく話すも許してくれた。

 ああ、ホントにメロディアが優しい子でよかった。今のご時世、女性の身体に触れただけで役所に出頭しろと言われるくらい物騒だ。

 こんな時に追放なんてされたらたまったもんじゃない。


「―――これから気を付けよう……マジで」


 脇ではクローレが悔しそうにこちらを見ていたがその理由は分からなかった。

 

「じゃ、そろそろ寝ようか。どうせボルは帰ってこないだろうし。二人はこっちで寝てくれ、俺は物置部屋で寝るから」

「そ、それはさすがに悪いです!」

「そうよ、ここは本来ならあなたたちの部屋なんだから」

「いや、でも……」


 一緒に寝るなんてことはできない。そんなことをしたら一歩間違えれば犯罪者だ。

 大の大人が少女二人をサイドに固めて寝るなんてどこの娼婦会館かとツッコミが入るくらい。

 だが二人の考えは俺の想像を遥かに超えてきたのだ。


「れ、レギルスさん!」

「な、なんだ?」

「一緒に寝ましょう、というか寝させてください!」

「は、はぁ?」

「わ、私も……覚悟くらいはできているわ」

「はいぃぃぃ?」


 まさかの向こうからのお誘いに驚愕。しばらく俺は何も言い返すことができなかった。

 俺はそのまま無理やり二人に押し倒され、両肩をホールドされる。


「ではおやすみなさいレギルスさん」

「おやすみ」

「おいおいおい、ちょっと待てぇい!」


 ―――zzz……


 ま、マジかよもう寝てるし……


 俺は少女たちと寝床をともにする以前の問題に二人の寝るまでのその速さにただ唖然とするのみだった。

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