第49話 罠
オスロ達がさっそうと去った後、残された俺達はとりあえずその場を離れることにした。
カナイド村の時みたいに追いかけられたら面倒だ。
足の傷をルークに手当てしてもらい、すぐに歩き出した。
村の中を歩いて改めて感じるが、やはり人目がつらい。
みんなチラチラと俺のことを見てくる。
まるで全裸で歩いてるみたいで恥ずかしい。
「どこかに身を隠したいな。宿とかないのかこの村」
「どこかにあるんじゃないかな?」
宿はすぐに見つかった。
だが、そこで重大なことに気づいた。
「金がない!」
宿に泊まるなら当たり前のように金が必要だ。
今まで必要なものはもらってばかりだから気づかなかった。
「お金ならあるよ!」
ルークが袋の中をごそごそとあさり、金色の硬貨をじゃらじゃらと取り出した。
「おじいちゃんが持たせてくれたんだ」
「でかした!」
俺はそいつを拝見する。
形は丸い。大きさは500円玉くらいだが、厚さがペ
ラペラなせいで重さは五円玉くらいだ。
色もはげていて黄金の輝きが失われている。
表面に美人な女性が描かれていた。
どこかで見たことがあるような……。
「全部で50ゴッドくらいあるよ。これだけあれば宿には留まれると思うんだけど……」
ゴッド……神……はっ。
俺はとんでもない真実にたどり着いてしまった。
硬貨に自分を描かせて、単位もゴッド……何て自己顕示欲の高い神なんだ。
「おじいちゃんに感謝しなきゃ。元気にしてるかな……」
ルークは遠い目で郷愁に浸っていた。
俺は正直あんまり思い出したくなかった。
宿の下の酒場に入ると、おやじたちがなめ回すように俺を見てきた。
その視線をかいくぐりながら、やっとのことで受け付けにたどり着いた。
俺は力を温存しなければいけなかったので、ルークが予約を担当する。
「すみません、宿は空いてますか?」
受け付けのおやじはチラッと俺達を見た後、
「悪いな、お嬢ちゃん。うちは魔物は禁止なんだ」
「えっ、どうしてですか?」
「……いいかい、お嬢ちゃん。その魔物達が他のお客さんに噛みついたり、そこらへんでうんちしちゃったら大変なことになっちゃうだろ? そうなったらお嬢ちゃん責任とれるのかい? とれないだろ?」
犬か俺達は。このくそおやじ、プルスやライトくんならいざ知らず、この俺までペット扱いするとは。
「そんなことしないよ!」
とルークは反論するも、おやじは頑として首を縦に振らなかった。
くそ、これもう魔物差別だろ。レイシストめ。
仕方なく外に出ようとすると、人混みの中からやつが現れた。
オスロだ。ものすごく嫌な笑みを浮かべている。
「へへへへ。残念だったなぁ。魔物に泊まる宿はねぇんだよ~、野宿でもしたらどうだ?」
ほんとに嫌なやつだなぁ、わざわざそれを言いに来たのか?
もしかしてこいつの仕業なんじゃないか?
「へへへぇ~」
オスロはそのまま人の中に消えていった。
それから泊めてくれそうなとこはないか探して回ったが、誰も俺達を受け入れてくれなかった。
「どこか泊めてくれるところはないかなぁ」
途方にくれながら村の外れの居住区っぽいところを歩いていると後ろから「フェッフェッフェッ」
オスロが不気味な笑みを浮かべて前屈みに立っていた。
何だよこいつは気持ち悪いな……。
オスロは突然その不気味な笑いをやめたかと思うと、上を向いて叫んだ。
「魔物だああああああ! 村の中に魔物がいまああああああああす!」
こいつまじか。
「しかも魔王でえええええす! ここに魔王いまああああああああああす!」
「ひい~」
周りの村人達が逃げてゆく。
まて、まってくれ!
俺よりもこいつの方が危ないだろ!
「おい、静かにしろ!」
俺はオスロを黙らせようと肩をつかんだ。
「ああああああああ! 噛まれたああああああああああ!」
首をぶんぶん横に振りながら、さらにバカでかい声で叫ばれた。
「なんだなんだー」
「魔物かー」
村の中心部から武器や鎧を身につけたおやじ達が集まってきた。
「くそっ、逃げるぞ!」
俺はルーク達を連れて、村の外へ逃げた。
魔王転生冒記 吉皮 @kichi800
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