第48話 フリとオチ

……弱い! あんなにイキってたのに、弱い!

今までの言動が全部フリだったんじゃないかってくらい、弱い!!


オスロは何が起こったのか分からないようで、目をぱちくりとさせていた。


「ええと、剣はしっかり握った方がいいと思うよ? あと一太刀にもっと力を込めた方がいいと思う」


だめだルーク。それは剣をまともに扱えてないと言っているのと同じだ。

自分が負けたことと、ダメ出しまでされてしまった事実に気づいたオスロの顔が怒りと屈辱で歪んでいく。


「ふざけんじゃねえええええ! このクソガキッ。まぐれで調子乗りやがって!! お前らやっちまえ! やつらを殺せえええええ!」


オスロは飛び出るほど目ん玉をかっ開いてキレ散らかした後、ものすごい勢いで仲間の後ろに引っ込んだ。

仲間達は困った表情をしながら前に出てくる。


……今ならいける。

やつらはリーダーがやられたことで完全に動揺している。

きっとまともな連携もとれないだろう。


「ここは俺に任せろ」


俺はラスボスのごとくやつらの前に立ちふさがった。

ルークは心配そうな顔をしながらも、任せてくれた。


「おいお前達! 今お前達の目の前にいるこの俺は、ただの魔物ではない、魔王だ! そう、今からお前達は魔王と戦うことになるんだ! それを覚悟した上で、死にたいやつからかかってこい!」


俺は絶望感を出すために、声を低くして言い放った。

やつらの間にどよめきが起こる。


「ま、魔王だって!?」

「どうしてこんなところに魔王が……?」


くっくっく。怯えているな。この俺を恐れているな!

最高の気分だ。年下の絶望した顔を見るのは。

これでやつらは戦意喪失だ。


『ファイア』


ところがどっこい俺の顔面に火の玉が飛んできた。

あっつい! 顔が、顔がああああ!

俺は急いで顔についた火を手ではたく。


火の玉を飛ばしたのはメガネっ娘の魔法使いのようだ。

攻撃はそれだけでは終わらなかった。

弓使いの弓が俺の太ももを射貫く。


「ギャッ」


いつの間にか接近していた格闘家が俺の顔を殴打する。


「ブッベッ」


怒涛の攻撃。見事な連携。

何よりも効いたのが、太ったタンクの盾による連続の太ももパーンだった。

こんなに熱心にパーンしてくるなんて、俺の太ももに何か恨みでもあるのか。

ダメージが限界突破した俺は、膝から崩れ落ち、地面に倒れた。


「ぐあああああ! もう降参だああああ!」


なす術もなく完封された。見事なフリとオチだった。


「グレン!」

「すまんルーク。やっぱり俺には無理だった。後は頼む……」

「ギャハハハ! 何が魔王だよ! そこらの雑魚と変わらねぇじゃねーか!」


オスロが前に出てきて俺を嘲笑った。

たしかにその通りだが、お前にだけは言われたくない……。


ルークが何も言わずにオスロ達を見据え、剣を構えた。

そして、フッと姿を消した。

その場にいる誰もがルークを見失う中、俺には見えていた。

ルークがやつらの間をすばやく駆け抜けていく姿が。


何度もあの瞬間移動を見てきてわかったが、どうやらあれはそこまで瞬足で動いているわけではないようだ。

どういう原理かわからないが、ルークはすばやく動くと同時に気配を消している。それにすばやさも相まって、一瞬で姿を消したように見えるということだ。


消えたルークが移動した先は、オスロの目の前だった。

オスロは面食らって目玉をキョロキョロさせる。


「は? えっはっ……うおおおおお!」


混乱しながら剣を振り回す。


「あっ」


が、またも剣を叩き落とされてしまう。


「…………」


刃を首に突きつけられる。見事だ。

さっきと寸分狂わない完璧な流れ。俺も見習わなくちゃな。


オスロはまた目をパッチリ開いて、思考を停止している。

この後どうすんだ……と思っていたら、ルークが剣をおろして振り返った。


「もう、やめよう。人でも魔物でも、友達が傷つくのは悲しいことだよ。君たちだってそうでしょ?」


そう訴えるルークの顔は、どこか悲しげだった。

大切な友達を失ったルークだからこそ、その言葉は重みのあるものだった。


オスロの仲間達も、ルークの言葉に心を動かされたのか、すでに武器をおろしていた。


「くそああああああああああ!」


突然オスロが目玉をギョロギョロさせながら奇声を上げた。

そしてそのまま走り出し、村の奥へと消えた。


「オ、オスロ!」


仲間達も慌てて後を追う。

俺達は訳もわからず、呆然と立ち尽くした。

何だったんだあいつは……。

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