第47話 トゥカイ村

神々の恐ろしい戦いが終わった後、俺はルークを抱きかかえたままライトくんを連れて再び夜明けの谷間を歩いていた。

ルークの様子を伺うと、すでに目を覚ましていた。


「おおっ、ルーク! 目を覚ましたか!」

「う、うん。ものすごい気配がして、ずっと前から起きてたんだけど、言い出せなくて……」


そうか。あれだけの騒音でも起きないから心配してたが、さすがにあの殺気には起こされたか。

今日は地味に災難だな。


「ん?」


何かルークの顔が赤いな。まだ調子が悪いのか?

顔を伺おうとしても背けられてしまう。

何故だ……はっ!


今気づいたが、俺はルークを全裸でお姫様だっこしていた。

何てことだ。俺の腕が生身の太ももに触れてしまっている。

急いでルークをそっと降ろした。


「ありがとう。こ、これ、服……」

「すまんっ」


俺はすみやかにルークから服を受け取り、あそこがひっかからないようにそっとズボンをはいた。

ノーパンなんて、小学校のプールの授業であらかじめ水着を履いていってパンツ持ってくの忘れた時以来だ。


途中でプルスが木に引っ掛かっていたので、降ろしてやった。フラマの殺気をもらってしまったのか、プルプルと震えていた。


それから俺達は、トゥカイ村に向かって黙々と歩き続けた。また雪とか神とかが降ってこない内に。


トゥカイ村についたのは夕方だった。

そして俺は、その村の名前が詐欺であることを思い知らされた。

何がトゥカイ村だ。全然都会じゃない。

たしかに人口は多いが、カナイド村とほとんど変わらないくらいちっちゃいど田舎だ。


「わぁ~、都会って感じだね」

「ひ、人がたくさんいます!」


ルークとプルスは人の多さに驚いている。

まあこいつらはあんな田舎にいたんだから、驚くのも無理はない。

元々前世でシティーボーイだった俺にはこのくらいの人混み……いや、やっぱり俺もあんまり人多いのは苦手だった。

ていうかすごい注目されてる。特に俺に対する村人の視線が痛い。もう帰りたい。


すると向こうからガラの悪そうな冒険者風の男がやってきた。

年齢は10代。黒髪。緑のマントを身に付けている。


「おいおい~。なんで魔物がいるんだ? だめだろ人間様の村に入ってきちゃあ」


うわぁ、見た目の通り性格悪いなぁ。

最近こういう勇者とか多いよなぁ。

でもこういうやつは、友達とかできないだろうな。


「どうした、オスロ?」

「おお、見ろよお前ら。魔物だぜ」


と思ったが、やつは一人ではなかった。

後ろからぞろぞろと仲間が現れた。

いかつい格闘家、チャラそうな弓使い、ひ弱そうなヒーラー、メガネっ娘の魔法使い、太ったタンク。

全部で六人の男女が俺達の前に集まった。


これはもしや……冒険者パーティってやつか!

やばいな。たぶん全員俺より年下だ。

俺は年下には強いが、年下の集団には弱いんだ。


俺とプルスがおろおろしていると、ルークが俺達をかばうように前に立った。


「……何だ? お前」

「ボクはルーク。彼らはボクの友達だよ」

「友達ぃ? そいつらがか?」


オスロと呼ばれる男が、ルークと俺達を交互にねめつける。


「ふ~ん。でもさぁ、魔物って危険だぜ? 人を襲うし食ったりもする。そんなのよりさ、俺達の仲間になれよ。その方がよっぽど安全だぜ?」


そして満面の笑みで、一番恐れていたことを言った。

この世界では人間にとって魔物は害悪だ。

将来勇者になるルークが、そんな俺達と一緒にいていいんだろうかというのは俺も常々思っている。

だが、ルークがこんな誘いに乗るような薄情なやつではないことも、俺にはわかっていた。


「悪いけど、君の仲間にはなれない。彼らは君の思ってるような者達じゃないし、ボクの友達を悪く言うような人と一緒に旅はできない」


ルークは清々しいほどきっぱりと言い放った。

わかってはいたが、俺はうれしくて大泣きしそうになる。


しかしオスロは違った。さっきまでご機嫌だった顔が、あからさまに不快な表情になった。見てるこっちまで不快だ。


「はぁ? 魔物が最悪なのは当たり前だろうがよぉ。まあいいや。俺の誘いを断ったことを後悔させてやる。そのお仲間を皆殺しにしてなぁ!」

「お、おいオスロ」

「てめぇら手ぇ出すなよ? 俺が一人でやるから!」


オスロが若者の間で流行ってそうな、いかつい剣をぶら下げてこちらに迫ってくる。

どうしよう。ここは俺も戦うべきか? いやでもルークは強いし大丈夫か。がんばれ!


「ボクの友達に手出しはさせない!」

「魔物をかばうやつは……魔物だぁぁぁ!」


オスロがルークに向かって剣をブンブン振り回す。

ルークは軽々とそれを避けきり、タイミングを見計らってまっすぐと一太刀を振った。

キーン! という音とともに、オスロの剣が地面に叩きつけられる。


「あっ」


それを拾う間もなく、ルークの刃がオスロの首に突きつけられた。

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