第46話 バストアップ
グレン達が去った後、森林のど真ん中に空いた巨大なクレーターに二人の神がたたずんでいた。
たたずむと言っても、彼女達は宙に浮きながら相対していた。
二人の間には、緊迫した空気が流れている。
一人はガチガチに緊張し、もう一人は表情の読み取れない顔をしていた。
そんな中、最初に口を開いたのは死神のような黒いコートをまとった魔神、フラマクルスだった。
「いやぁ、君が思いとどまってくれて、本当によかったよ、ヘレナ。君がその気になれば、本当に世界を終わらせてしまえるからね」
それを聞いたもう一方の神は、フラマのいつも通りの軽い口調に心の底から安堵したのか、即座に尊大な態度を取り繕った。
「え、ええ、まあ。私は神ですから、そのくらい造作もありませんが、それだと何の罪もない人の子達がかわいそうだと思いましてね。何せ私は神ですから!」
「うんうん。全くその通りだ」
フラマの相づちにごきげんになった神はやっといつもの調子を取り戻せそうだった。
「あと、さっきは悪かったね。私のわがままを聞いてもらって」
ビクッと神は肩を震わせた。
先ほどフラマが自分に向けて放ったあのとんでもない殺気を思い出してしまったからだ。
今まで彼女は自分に対して敵対はおろか反論さえもほとんどしたことがなかった。
あまりに怖すぎてチビッとやってしまったので、神は下半身が寒かった。
「……初めてですね。あなたが私に背いたのは。あの転生者の魔王は、それほどのものなのですか?」
そういえばフラマは、この千年間弟子をとったこともない。
いつも一人で神出鬼没、何を考えているのかよくわからないのが彼女だ。
「うん。グレンは私の大切な息子だからね。できるだけ温かく見守ってほしい。それに、彼は案外この世界の救世主になってくれるかもしれないよ?」
「は!? 何を言っているのですか!? 魔王に世界を救えるはずがないでしょう!?」
「じゃあ君は、今のこの異常な状況に、何か打開策があるのかい?」
「ぬぐぐ……」
痛いところを突かれた。
たしかにこの百年で、魔王は増えるし、雪は降るし、魔界には入れないしと、神であるにもかもかわらず把握できないことが続いている。
「こういう時には、場を乱してくれるイレギュラーが必要なのさ」
「……今さらですが、あれは本当に魔王なのですか? 一応王冠は持っているようですが。あんなものどこから拾ってきたのですか?」
「さてね……」
フラマは意味深な笑みを浮かべた。
こういう時の彼女は大抵何か企んでいるが、聞いても教えてはくれないことを神はわかっていた。
「ふん……まあ、とにかく面倒なことは起こさないでくださいね。私は忙しいのですから」
神は考えるのをやめた。
想定外のことが起こり続けているが、私は神だからなんとかなるでしょう、とそこは楽観的に考えることにした。
「そういえばフラマ、君に聞きたいことがあるんだけど」
「! 何ですか?」
「…………」
フラマは何も答えない。
「……?」
「……君の胸って、昔はもっと小さかったけど、何かした?」
「! 何て無礼な!」
神はプンプンと怒りながら天へと昇っていった。
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