第45話 魔神の恐怖
そんなラッキータイムもつかの間だった。
「このっ!」
強力な光の魔力が全方位に放出され、ウサギ達は一斉に振り払われた。
「アヒ~」
散らばったウサギ達はそのまま三日月へと吸い込まれ、ドアがバタンと閉まった。
「はぁ、はぁ……よくも、よくも神であるこの私に、邪神の淫呪などをけしかけましたね……」
神はまだ体をビクビクさせながら、フラマを恨めしそうににらむ。
「いやぁ、一回絶頂したら落ち着くと思ってね。しかし、やっぱり君、エンゲージメントを使ってなかったんだね。ちょっと出し渋りすぎじゃないかな?」
「ぜっ、絶頂などしていません! ……神の力は神聖なものです。そう易々と人の目に触れていいものではないのです。天国の維持とかもありますし」
そんな神聖な力を空とか大地にぶっぱなしてたわけか。言ってることめちゃくちゃだなこの神様。
「そんなことよりも! フラマクルス、どうしてあなたが魔法を行使できるのです。魔神排斥機構はどうなってるんですか! フィールズくん!」
すると、フィールズの代わりに答えるようにフラマが
「それに関してはちょっと工夫をしていてね。まあ、故障ではないから安心しなよ。それで、どうかな。グレンを許す気になってくれたかい?」
「許しません。あなたも、そこの魔王も。むしろここまでの冒涜と屈辱を受けて許すはずがないでしょう!」
再び神の魔力が上昇していく。
「おい、フラマ! 振り出しに戻ってるぞ! もう帰っていいか!」
「う~ん、ヘレナ」
フラマが神の名前を呼ぶ。
「何ですか! 神です!」
「これ以上グレンに危害を加えようと言うのなら、あの城を壊す」
「!!」
フラマの発言に神は驚きを隠せていなかった。
「な、どっ、どうやってフィールズくんを壊すというのですか! 彼には『ゴッド・エンゲージメント』を与えてあります。いくらあなたでもあれを破ることなどできないでしょう! ふんっ!」
神はドヤ顔で腕を組んでいる。
さっきから設定がたくさん出てきてよくわからないが、そのよく耳にする『ゴッド・エンゲージメント』って何なんだ。
「『ゴッド・エンゲージメント』。神の有する七つの権能の一つ。内にあるものを癒し庇護する無敵の結界。たしかに、さすがの私も外からはどうすることもできない。では、内側からならどうかな?」
「どういう意味ですか?」
「彼はどうやら地上の物を拾う癖があるようだね? その時に私の使い間を何匹かお邪魔させてもらったよ。彼らは私の命令一つで盛大に自爆してくれる。さすがにそれは困るよね?」
神がにらむとフィールズは「すいません~」と小さく言った。
「本気……なのですか?」
「うん、本気だよ」
フラマの目は本気だった。
いつもニヤニヤしている顔が、今は笑ってない。
「ぬぐぐ……ぬぐぐぐぐぐ……」
神は口をへの字に曲げて唸り、そして
「わかりました……いいでしょう。そこまで言うのなら……もうこんな世界、終わってもかまいません!」
「!?」
「こんな恥ずかしい汚点を残すくらいなら、もうこんな世界は消し去ってしまった方がいい! 私には天国がありますし。そう! 天国さえあればいいのです! あとは何もいりません! どうせ全ては天に帰るのですからね!」
うそだろ……とんでもないこと言い出したぞこいつ。
もうこれ邪神だろ……。
神が両手を高く掲げ、まるでこの世全ての元気を集めたかのような光の球体を造り出した。
「はい、おしまいです。みなさん天国で会いましょう。これでやっと、天国の人口減少問題に終止符が打てます。ですがその前に、転生者の魔王。そう、あなたです。あなたをまず殺します。天国にも地獄にもいかせません。魂ごと歴史から消し去ります。その後で私の記憶も消し去ります」
神は俺に絶対殺す宣言をしてきた。
しかたない。フラマ、何とかしてくれ!
俺は心の中で叫んだ。
「ははは、これは参ったな~」
魔神は笑う。
「いや、参ったな~、じゃなくて……」
「でもヘレナ。グレンを殺したら……私は君を許さないよ?」
その瞬間、周りの空気が凍りついた。
俺は自分の体がバラバラに切り裂かれたような感覚に陥った。勢いよくほとばしる血までもが鮮明に見えた。
しかし、俺の体には傷一つない。
これは、殺気だ。一瞬殺されたと錯覚するくらいの、凄まじい殺気。
自分に向けられたものではなかったが、俺は恐ろしくてその場から動くことができなかった。
そんな殺気をもろに食らったあのお方は、額に大量の汗を浮かべながら、怯えた顔で固まっていた。
いつの間にか光の玉も消えている。
「ヘレナ」
「!!」
神が驚いてビクッとする。
「神である君に対するグレンの無礼と狼藉を、創造者である私が詫びよう。すまなかった」
フラマが丁寧に頭を下げた。
……あれ? 俺だけのせいか?
「どうか彼を許してくれるかな?」
「ハイ」
神は頭をカクッと前に倒した。
半ば恐喝みたいな感じだったが、これで一件落着か?
それにしても、フラマが俺のためにここまで怒るとは。
しかも頭まで下げるなんて……もしかして、俺のことを結構ちゃんと想ってくれてるのか?
「グレン」
「はいっ!?」
フラマが突然俺を呼んだ。
「もう行ってもいいよ。後は私がやっておくから」
「あ、ああ……いくぞ、ライトくん」
俺は石のようになった足をなんとか動かしながら、その場を後にしようとする。
「グレン」
「!」
再び呼ばれて恐る恐る振り返ると、フラマが俺を見ていた。
「……私はちゃんと、君のことを大切に想ってるよ」
魔神は今まで見たこともないくらい優しい顔をしていた。
「お、おお」
俺は照れ臭さと恐怖心が半々でその場を後にした。
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