第43話 侵略者

「な、何ですか!?」


壁や床を通っていた線が赤く発光し、部屋全体が赤に染まった。

このやかましい音は、何かの警告音のようだ。


「フィールズくん? フィールズくん! これは一体どうなっているのですか!?」


神は慌てふためきながら上を向いてわめいた。


「あぁ! まずい。まずいです、神様。今の一撃で、制御システムの一部がやられて、創城防壁そうせいぼうへきが消失しました!」


フィールズの尋常じゃなく焦った声が響いた。


「はぁ!? どうしてそんなことに?」

「だから~、神様のさっきのビームのせいですよ~」

「私のせいだと言うのですか!? 大体フィールズくん、あれほど中に誰も入れてはいけないと言ったのに、どうしてよりにもよって魔王なんかを入れてるんですか、しかも制御室に!!」

「そ、それは~、魔王だって知らなかったっていうか~」


神は人よりも情けない責任の擦り付け合いを始めてしまった。

さっきまでの威厳はどこにいってしまったのか。


「あ! 外界からの侵略者一体の侵入を確認しました! ここに転移してきます!」

「ここに!? 『ゴッド・エンゲージメント』を展開しなさい!」

「間に合いません~」


突如、不気味な閃光が部屋の中を包み込む。

そして俺達の目の前に、火星人のようなタコ型の生物が現れた。

もうついていけない。

ここは西洋風ファンタジーな異世界じゃなかったのか?

サイエンスファンタジーの世界だったのか?


「ニュプニュプ~」


タコ型の宇宙人は、緑色の触手を伸ばしながら神へとせまる。


「神であるこの私の前に転移してくるとは、いい度胸ですね。跡形もなく消し去って上げましょう」


神の体が宙に浮き、光を纏う。


「だめです神様! これ以上暴れられると、僕が壊れちゃう~」

「!」


フィールズの言葉に一瞬気を取られた神の体に、宇宙人の触手が絡みついた。


「いやあああ! はっ……離しなさい! 私は神ですよ!? ちょっと、どこを触って……あああああああ!」


そこにもはや神の姿はなかった。

触手にあんなとこやこんなとこを攻められる、ただの哀れなエロいお姉さんしかいなかった。

エロいけど、もう触手プレイは飽きちゃったな……。


「きょ、強制退去! フィールズくん、強制退去システムを起動しなさい!」

「やってみます~」


フィールズの頼りない声がした後、俺の視界が切り替わり、いつの間にか外にいた。

地面に足がつかない。

下を見ると、遠くの方に真っ白な地面が見えた。


どうやらここは空中のようだ。


「うわああああああ!」


お、落ちる! 落ちてる! 股間がヒューヒューする!

横を見ると、ルークやプルス、ライトくんも一緒に落下していた。

俺はルークを抱えつつ、プルスに叫ぶ。


「プルス! 擬態でクッションになれ!」

「わかりました!」


プルスはぐにゃぐにゃと姿を変え、ペラッペラの下敷きみたいになり、空の彼方へ飛んでいった。


「わああ~」

「バカヤロォォォ!」


俺達はなす術もなく落下し続け、地面に叩きつけられた。が、生きていた。

どうやら雪がクッションになって助かったようだ。


俺の上で寝ているルークも相変わらず熱は収まらないが、無事だった。

城に入ってからまだ30分も経ってないので、雪はまだ降り続けている。


少し離れたところで、雪の中からボコッと何かが飛び出した。

それは神だった。神は頭から雪をかぶって、下半身が地面に埋まりながら、肩をプルプルと震わせていた。

今日はこの人散々だな……。


「ニュプニュプ~」


気味の悪い声がして顔を上げると、空にタコ型の宇宙人が浮いていた。

しかも、さっきよりも体が巨大化しフィールズと同じくらいになっている。


「下等な侵略者の分際で、神の上に立ちますか……」


神はうつむいたまま、肩を震わせる。

やがてその震えは大地を揺らし、体から力という力が溢れだした。


めっちゃきれている。

謎のオーラで金髪の髪が逆立って、スーパーサ○ヤ人みたいになってる。


「ニュププゥゥゥ!」


それに刺激された宇宙人が、巨大な触手を動かして神へと襲いかかる。

神はおもむろに右手を天に掲げ、聞こえるか聞こえないかくらいの声で、『ゴッドハンド』とつぶやいた。


すると、神の手の前に巨大な光の輪が現れ、そこから解き放たれたとんでもない質量の魔力の塊が、全てを無に帰した。

タコ型の宇宙人はもちろん、その先にあるどんよりとした雲までも吹き飛ばし、晴れた空からさす陽光は、大地に積もった雪を溶かした。


何て力だ。めちゃくちゃすぎる。

俺は改めて目の前にいるのが神であるということを再認識した。

逃げよう。あんなチートに勝てるわけがない。

俺はルークを抱えてこっそりと逃げようとする。


「待ちなさい。逃がすと思いますか?」

「ひっ」


冷徹な声で呼び止められた。

神の顔は無表情だったが、溢れでるオーラは殺気で満ちていた。


「た、頼む、見逃してくれ。あんたの醜態は誰にも言わないから」

「大丈夫です。何もありませんでしたから。何も」


あ……だめだ。もうなかったことになってる。

今度こそもう終わりか。


「……なあ、神様。こいつらは何も見てないんだ。だから……」

「諦めるのはまだ早いんじゃないかな、グレン?」


その声の主は、不適な笑みを浮かべていた。

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