第42話 降臨
まぶしい! 目が……、目がぁ!
その光はものすごく嫌な光だった。
神聖というか、全てを見透かされているような、後ろめたい気分にさせられる。
光は次第に薄れていき、やがて真ん中にある柱の前に人影が現れた。
「……女?」
今だわずかに光を纏うその人影は、女の姿をしていた。
髪は金髪ロングヘアー、純白の羽衣に包まれたその巨胸は、おそらくGカップはあるだろう。
顔は美しく端麗だが、性格は結構きつそうだ。
フラマの言葉が頭に思い浮かぶ。
この世界の神は人でなしだから、遭遇したら一目散に逃げた方がいい、というやつだ。
それは最初から思い出していた。
いくら美人の女神だろうとも、さすがに命の危険を冒してまで拝見する覚悟は俺にはない。
では何故逃げずに胸の大きさまでのんびりと観察しているのかというと、逃げることができなかったからだ。
凄まじい重圧感。膨大な力のかたまり。
その場にいるだけで、まるで巨大な手で押さえつけられたように、体が動かない。
これが、この世界の神か……。
「……フィールズくん。地上のものを拾うのはほどほどにと、あれほど言っておいたでしょう。また制御室に何か……」
神は俺に気づいてない様子で上を見上げて話していたが、途中で違和感に気づいたのかこちらに顔を向けた。
その瞬間、端麗できつそうな顔はもっときつくなり、俺も心臓を鷲掴みにされたみたいに息苦しくなった。
こいつはやばい。本当にやばい。
早く逃げなければいけないのに、体がまったく動かない。
「あなたは、何者ですか?」
神が俺に問いかける。
「僕は、偶然迷い込んだ魔物ですよ?」
「どこから来たのですか?」
「カペーユ地方です」
「名前は?」
「グレンです」
「種族は?」
「裸族です」
「らぞく? 聞いたことがありませんね」
怒涛の質問。もはやこれはお巡りさんの職質だ。
前世では俺も、外に出た時は必ず自転車の防犯登録を調べられたものだ。それほどの威圧感を感じる。
「ほ、本当に間違って迷い込んだだけなので、すぐに出ていきますね。それじゃあ……」
「待ちなさい」
回れ右して後ろのドアに向かおうとする俺の肩に、声の圧力がかかる。
「ナンデショウ?」
神は相変わらず射殺するような目で俺を見つめたまま、
「あなたがただの魔物でないことはわかっています」
「……ナンノコトデショウ?」
「とぼけるのはやめなさい。その赤い体に人のような見た目。あなたがフラマクルスによって異世界から転生してきたという魔王ですね?」
え!? バレてる!?
俺が魔王だということがバレている!
こいつはフラマを知っているのか?
あいつも一応神様だし、神友ということは……ないな。この俺に対する態度からして。
「沈黙ということは、正解ということでいいのですね。では、すみやかに駆除します」
えっ。
神の右手に、おだやかじゃない光が集まる。
「まてまてまて! たしかに俺は魔王だが、人畜無害な魔王だ! ほら見てくれ。パンツしか履いてないぞ!」
俺はパンツをチラチラ見せながら、自分が丸腰だということをアピールした。
パンツ以外はルークの上に置いてきたので、もはやまるだし一歩手前だ。
「……何故服を着ていないのかは知りませんが、魔王に無害な者などいません。それにこの部屋に入っているという時点で、あなたはどの魔王よりも有害ですよ」
「そ、それは、フィールズだ! フィールズが俺達を中に入れてくれたんだ!」
「違うよ~。僕は嫌だって言ったのに、彼は無理矢理僕の中に入ってきたんだ~。うわ~ん」
くそっ、語弊のある言い方をしやがって。
それにちゃんと合意の上で入ったはずだ。
……ていつの間にか右手の光が輝きを増している!
パンツの魔物と戦った時から魔力というのはうっすら見えていたが、この光は明らかに違う。
やつの魔力がローラースケートだとすると、この光はロードローラーだ。
魔力の質も量も別次元すぎる。
おそらくあれは間違いなく一撃で死ぬやつだ。
かといって、避けれるかどうかは正直怪しい。
装備はパンツ一枚。防御手段もない。
ならばやることは一つ。
俺は恐怖でこうちゃくした手を無理矢理動かして、パンツのゴムに指をかける。
覚悟を決めて、最後の装備を解除した。
「なっ……なな、何をしてるんですか!?」
丸出しになった俺の小さな魔王をもろに見てしまった神は、仰天しながら顔を赤らめた。
ビンゴだ。ちょっと隙を作るくらいの気持ちで陳列したが、まさかここまで動揺してくれるとは。
俺はそのままパンツを脱ぎ捨て、部屋のはじっこを時計回りで走り回った。
「くっ、この……!」
慌てた声とともに、巨大な光が迫りくる。
「うおっ!」
俺は前に飛んでギリギリで避けた。
ドゴォォンというミサイルでも直撃したかのような轟音が響く。
振り向くと、すぐ後ろに巨大なクレーターができていた。
「ひえぇ……」
やっぱり死ぬやつだった。
部屋の外に出ていたら、間違いなくルーク達に被害が出ただろう。
「今度こそ終わりです」
神が俺に右手を向ける。
万事休すだ。何とか一撃は回避したものの、他に策があるわけではない。
俺の旅も、ここで終わりか。あまりに唐突すぎて、何だか実感がわかない。
でも最後くらい、かっこよく死にたいな。
俺は震える足に力を込めて、神の前に堂々と立った。
何故か俺の魔王も立ち上がっていた。
おそらく生物としての、子孫を残そうという本能からだろう。
「死になさい」
辛辣な言葉とともに、神の右手に再び光が集まる。
神様の手で逝けるなら本望だ……そう思った時。
ウーウーウー!
やかましい音が部屋中に響き渡った。
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