第41話 先っちょだけ

だめだ……頭がついていかねぇ。

何でこんなとこに城が? 何で浮いてる? 何で顔がある……もしかしてこれは、寒さでおかしくなった

俺の頭が産み出した幻覚なのか?


「お~い、君、大丈夫~? すごい真っ赤だよ~?」


そんな俺の気も知らずに、城は間の抜けた声で俺に語り続ける。


「魔王さま! ルーク様が!」

「!」


やばい。再び吹雪にさらされたせいで、ルークの容体が悪化している!


「ハァ……ハァ……」

「しっかりしろルーク!」


くそ、こうなったら幻覚でも何でも関係ねぇ。

イチかバチかだ!


「おい、城! 俺達を中へ入れてくれ!」


俺は城に向かって大声で叫んだ。


「えぇ~、無理だよぉ。僕の中には誰も入れちゃだめって、きつく言われてるんだ」

「お前がかまくらを壊したからこんなことになっちまったんだろ! 責任とれ!」

「え~、でも~」

「頼む! ちょっとだけ! 先っちょだけでいいから!」

「う~ん……ちょっとだけだよ?」


よし! 先っちょだけはどこの世界でも通じた!

城はふわふわと降下し、木々を倒しながら俺達の前に降り立った。

俺は急いでルークを抱き抱える。


「どうぞ~」


巨大な扉が開き、城が俺達を招き入れた。



城の中は、豪華な外見とは真逆に汚かった。

広い部屋の中がゴミやガラクタで埋め尽くされている。


「きったなぁ」

「ひど~い」


俺はそこらに転がっている棒きれや鎧をどかして、ルークをそっと床に寝かした。

プルスが心配そうにそばによる。

どうやら眠っているようだ。しばらくは大丈夫だろう。


「しっかし、何でこんなガラクタばっかなんだこの城は」


俺はよくわからない女性の人形を拾いながら言った。


「それはね~、人間の捨てたモノを拾ってたら、いつの間にか溢れてきちゃったんだよね~」


アナウンスみたいな声が頭上から響いた。

どんだけ拾ってんだよ。まだきれいなパンツとかあるし、干してたやつ勝手に持ってきたんじゃないのか?

まあ、そんなことはどうでもいいか。


「とりあえず、中に入れてくれたことに感謝する。助かった。よければ教えてほしいんだが、お前は一体何者なんだ? 何で城がしゃべって空を飛んでるんだ?」

「僕の名前はね~、フィールズというのだよ~。どうして空を飛べるのかというとね~、それは僕がとてもえらい城だからなんだよね~。えっへん」


だめだな。名前しかわからなかった。

まあそこはそういうもんだと納得しとこう。


「ねぇねぇ、それよりさ~、その娘の名前は何て言うの? その横たわってる娘」

「? こいつはルークだ」

「ふ~ん……」


フィールズは何故か黙り込んでしまった。


「もしかして、人間に興味があるのか?」

「……え? うん。人間の女の子はかわいいなぁ~って思うけど」


城のくせに人間の女がタイプなのか。

そういえば、さっき落ちてたパンツも女性ものだったな。


「じゃあ、今まで女の子を中に入れたこともあるのか?」

「えぇ~、ないよ~。誰も入れるなって言われてるし、見られたくない部屋もあるし……」


見られたくない部屋? 大量の下着でもあるのか?

気になるな。


「見られたくない部屋ってなんだよ? 何を隠してるんだよ?」

「言えないよ~」

「言えよ言えよ~」

「言えないよ~」

「おっ、もしかしてこの部屋か? このドアの向こうか?」


俺はちょうど目の前にあったドアの取っ手に、手を掛ける。


「あ! そこは違うよ! そこはだめ!」


フィールズが焦った声で止めてくる。


「え~? 違うってなんだ? 何があるんだよ~?」

「そこは本当にだめなんだ! 本当に入っちゃだめ!」

「えへぇ~?」


俺はちょっと悪のり気分で、フィールズの制止を振り切ってドアを開けた。


ドアの先にあったのは、なんというか、SFな部屋だった。

壁も床も天井も全てをメタルシルバーな色で統一されていて、その表面には4、5本の細い線が緑色の光を放ちながら駆け巡っている。

部屋の真ん中にはガラス張りの丸い柱が立っていて、その中には青く発光する正方形の何かが浮いていた。


「うわ~、怒られるよ~。絶対怒られるよこれ~」


呆然としている俺の頭上で、フィールズが絶望の声を上げる。

とりあえず俺は一つだけ聞いておく。


「なんで?」

「僕はあのお方の命で、外の世界から侵略者が入ってこないようにバリアを張ったり、この世界から悪い神様を外に追い出す役割を担ってるんだ。この部屋には、そのような機能を実行するための全てがつまってる。だから僕の中には誰も入れちゃだめだって言われてて、この部屋はもっとだめなんだけど……だめなんだけどぉ!」


俺は声を振り絞って、最後の質問を口にする。


「……あのお方って?」

「この世界の、神様だよぉ~!」


次の瞬間、強烈な光が部屋の中を包み込んだ。

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