第37話 TUEEEEEEEEEEの奴隷

「まちやがれ! そいつを殺すのは俺達だ!」


突然の怒鳴り声。誰だ俺の邪魔をするやつは。


「何だコラァ!」


勢いよく振り返ると、そこには三人の男達がいた。

坊主やモヒカンなどのいかつい髪型で構成されたムキムキの男達だ。

三人とも眉間にしわをよせ、手にはナイフやこん棒を持っている。

どうやらめちゃくちゃ怒ってるようだ。


「おいてめぇ!」

「はい!?」


坊主の男のあまりの剣幕に、俺は声が裏返る。


「お前じゃねぇ! そこの太ったてめぇだ! この前はよくも俺達をこけにしてくれたな……!」


坊主の男は、俺の前でやれやれしている男を指差した。


「やれやれ。俺何かしたっけ? 全然身に覚えがないけど」

「覚えがないだと? ふざけんじゃねぇ! あの時……俺達がこの村にとどまっている間、村人どもは何かにつけてお前のことをほめたたえやがった。俺達の目の前で、これ見よがしに! 何度も何度も! あの時の屈辱は忘れねぇ。お前もこの村も、むかつく村人どもも、全部ぶち壊してやる!」


坊主の怒りの声が村に響き渡った。

俺は理解した。きっとこいつらも俺と同じ、俺TUEEEEの犠牲者なんだ。

俺もさっきやられたから、その怒りはよくわかる。


「おぉ、なんと恐ろしい。まるで獣のようだ。どうか助けてください、勇者様!」


じじいが蚊みたいな弱々しい声で叫ぶ。

このじじい、むかつくな。


「やろう!」


怒りが頂点に達した男達が、じじいに襲いかかる。


「ひぃぃ」

「やれやれ(シュンシュン)」


しかし、奮闘むなしく男達はアトモスの一振で倒されてしまった。


「「「TUEEEEEEEEEEEEEE!!」」」


残酷だ……あまりに残酷すぎる。

こんなことが許されていいのか。誰かこいつに勝てるやつはいないのか?


すると倒れていた男達の体がピクリと動いた。

ゆらゆらと揺れる足で体を支えながら、ゆっくりと立ち上がった。


「そうだ、いいぞ! 立ち上がれ!」


俺はいつの間にか男達を応援していた。

もはやこの男達が最後の希望だ。


しかし、立ち上がった男達は思いもよらぬ言葉を口にした。


「ツ……ツエエ……ユウシャサマ、ツエエ……」

「ツエェ……」

「ツエェ~」


俺は絶句した。

一体何が起こっているんだ。

あの虚ろな目、まるで魂が抜けてしまったかのようだ。


「ふっふっふっふ。彼らもやっと、勇者様の偉大さに気づけたようですな」


異様な空気の中、言葉を発したのはじじいだった。

今までの弱々しい態度とは打って変わって、不気味な笑みを浮かべている。


そこで俺はあることに気づいた。

その不気味な笑みを浮かべているじじいの目が、男達の虚ろな目と全く同じだったのだ。

いや、じじいだけではない。

後ろにたたずむ村人全員が、同じ目をしていた。

俺は全てを理解した。


「そういうことか……ようやくわかったぜ、この村の正体が!!」

「はて? 正体とは何のことですかな、旅のお方?」

「とぼけるんじゃねぇ、このじじい! 最初から怪しい点はいくつかあった。魔物を歓迎する村人達、客も入ってないのに繁盛している商店。その時点ではまだ、ただの違和感に過ぎなかった。だが! その男達の証言で、全ての疑念が確信へと変わった! この村は、そこのやれやれ野郎を俺TUEEEEさせるためだけに存在している! どんな手を使ってるか知らないが、この村は定期的に魔王を呼び寄せ、そいつに倒させることによって俺TUEEEEを行っているんだ。旅人が来た場合は、村に招いて歓迎した後に何度も俺TUEEEEを見せつけ、激情したところを倒してさらに俺TUEEEEし、TUEEEEする要因へと強制的に引き入れる。そうして村人を増やしていく……それがこのクソみたいな村の正体だ!」


俺はじじいを指差し、探偵のごとく全ての真実を暴いてやった。

じじいは全てを暴かれたにも関わらず、その真実を否定することなく、不気味に笑った。


「ふふふふ。ははははは。お見事、お見事ですな、旅のお方。まさか、この真実にたどり着く者が現れるとは思わなんだ。その通り、この村は永遠にTUEEEEをするために存在している村だ……しかし、たどり着いたところでどうする? よもや我らをどうにかできるおつもりか?」

「くっ……」


たしかにその通りだ。

今すぐあのじじいをぶん殴りたいところだが、それをしようとすれば、あの男達と同じ結末を迎えるはめになる。


「どうです? 旅のお方。あなた方がこの村でTUEEEEに加わるというのなら、我々は喜んで歓迎します。それこそ永遠にいてもらって構いません。それが嫌というのなら、残念ですが明日にはこの村を出てもらいます」


じじいは勝ち誇ったような顔で、意味のわからない提案をする。


「冗談じゃねぇ! こんなイカれた村、今すぐ出ていかせてもらうぜ! いくぞ!」

「あ、うん……」


俺はルークとライト君を連れて村の外に歩きだす。


「そうですか。それはまことに残念です。TUEEEEは自分も他人も救われる最高の幸福だというのに。それを享受できないとは、なんと哀れな……」


じじいの言葉に、俺は我慢できず振り返る。


「いいか、よく聞きやがれ! たしかにそいつは強いかもしれないが、だからといって、お前らが強いわけじゃないからな! いくらそいつが俺TUEEEEしたって、お前らがTUEEEEしているわけじゃないからな!」

「な……何を!?」


そうして俺は、二度と振り返らなかった。

あんなことを言ったものの、俺だって俺TUEEEEを求めているし、誰かのTUEEEEを自分のTUEEEEだと錯覚することだってある。

結局俺達は、俺TUEEEEの奴隷なんだ。

俺も、あの村人達も、みんな俺TUEEEEの奴隷なんだ……。

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