第34話 TUEEEEEEEEEE村

海が広がっていた。川や池ではない。

広くて大きな海が、目の前に広がっていた。


「……は?」

「わぁ~、海だ! ボク海は始めてだよ!」

「いやそうじゃなくてな。俺達は山にいたはずだよな? 何で海が出てくるんだ?」

「そ、そうだね。なんでだろう」


地図で見た限りでは、谷間は内陸にあったはずだ。

どんなに出る方向を間違えたって、海が現れるはずがない。


俺は元来た方向を振り返る。

そこには暗闇のような森が広がっていて、奥の方には黒い山が見えた。

おそらくさっき見たバースト火山とはまったく違う山だ。

一体どうなってるんだ。


今までずっとノンストップで歩き続けていたライトくんは海辺でいきなり止まり、左の方向を指差していた。


「あれは……村か?」


その方向には小さな漁村があった。

浜辺では大勢の男達が網を引っ張って漁をしている。


「……あの村に行けってのか?」

「行ってみようよ!」


ルークも、ものすごく行きたそうな顔をしている。

ここまで俺達を導いたのはライトくんだ。

ライトくんが指差す先には大抵、俺にとって良い結果が待っている。


「よし、行ってみるか」


海が広がっていた。川や池ではない。

広くて大きな海が、目の前に広がっていた。


「……は?」

「わぁ~、海だ! ボク海は始めてだよ!」

「いやそうじゃなくてな。俺達は山にいたはずだよな? 何で海が出てくるんだ?」

「そ、そうだね。なんでだろう」


地図で見た限りでは、谷間は内陸にあったはずだ。

どんなに出る方向を間違えたって、海が現れるはずがない。


俺は元来た方向を振り返る。

そこには暗闇のような森が広がっていて、奥の方には黒い山が見えた。

おそらくさっき見たバースト火山とはまったく違う山だ。

一体どうなってるんだ。


今までずっとノンストップで歩き続けていたライトくんは海辺でいきなり止まり、左の方向を指差していた。


「あれは……村か?」


その方向には小さな漁村があった。

浜辺では大勢の男達が網を引っ張って漁をしている。


「……あの村に行けってのか?」

「行ってみようよ!」


ルークも、ものすごく行きたそうな顔をしている。

ここまで俺達を導いたのはライトくんだ。

ライトくんが指差す先には大抵、俺にとって良い結果が待っている。


「よし、行ってみるか」


俺達は現れた漁村へと歩き出した。


「あ、あれって『船』だよね! あの人たちは、海賊?」


ルークが海で漁をする男達の乗っている小舟を指差して言った。


「いや、魚取ってる村人だろあれは。海賊船てのは、もっとでけぇよ。たぶん……」


ルークは「そうなんだ」と関心したように頷いている。

海は始めてとか言ってたし、あんまり知らないんだろうか。その割には海賊は知ってるようだが。


そうこうしてる間に村が近づいてきた。

俺の頭に少し不安がよぎる。

初めてカナイド村に足を踏み入れた時、村人達は俺を「化け物だ」「まるだしだ」と恐れ、嫌悪した。

また前回みたいに拒絶されたらと思うと、ちょっと気が滅入る。

いや、ていうかよく考えたらこのパーティ、ルーク以外みんな魔物じゃんか。

このまま村に入ったら、間違いなく大パニックが起きるな。やっぱり帰った方がいいんじゃ……。


すると村の方から、白髪のじいさんが歩いてやってきた。

村長だろうか。顔には何故か笑みを浮かべている。

まさかルークのじいさんみたいな好戦的年寄りか?

と身構えていると、


「ようこそいらっしゃいました、このTUEEEEEEEEEE村へ。私は村長のアゲゾウと申します。あなた方は旅のお方ですね。長旅でお疲れでしょう。宿を用意していますので、どうか今日は泊まっていってください」

「!?」


恐れられるどころか、めちゃくちゃ歓迎されている?

どういうことだ!?


「やったー! ありがとうございます!」


ルークは元気にお礼を言った。

礼儀正しくてえらい。じゃなくて。


「おいまて、じいさん。俺達はこいつ以外みんな魔物だぞ。魔物を村に入れていいのか?」


俺は思わずじいさんに聞いてしまった。

たしかに俺は意志疎通のとれる魔物ではあるが、こんなに歓迎されるような見た目はしていない。


「この村では、人であろうと魔物であろうと、快く受け入れるようにしているのです。それがこの村の決まりなのです」


じいさんは穏やかに微笑みながら言った。


「では、宿まで案内しますので、着いてきてください」


そして村の中へと歩き出した。

みんなが続く中、ルークが俺の方を振り返った。


「行こう、グレン」


……いいのか? こんなあっさり招かれていいのか?


村は外見に反してめちゃくちゃ発展していて驚いた。

そこらじゅうに商店や飲食店が立ち並び、劇場などの娯楽施設まである。

村というよりも、まるで巨大な商業施設だ。


そしてさらに驚いたのが、村人達が俺やプルスを見てもまったく動じないことだ。むしろ笑顔で挨拶とかしてくる。

気持ち悪いほどの歓迎ムードだ。

対してルークも挨拶を返したりしている。

おかしいと思ってるのは俺だけか?


「なあじいさん、この村、名前なんて言ったっけ?」

「TUEEEEEEEEEE村でございます、旅のお方」


ツエエ?

どこかで聞いたことがあるようなないような……何か、ひっかかる単語だな。


「こんなに店が多くて賑わってるってことは、もしかしてここ、観光地か何かか? 客は全然いないようだけど」

「いえ、見ての通りこの村は山と海に囲まれた辺境の地にありますので、旅人などめったに訪れません」

「え? じゃあ何で……」

「到着いたしました。ここが本日の宿でございます」


じいさんは突然古民家みたいな建物の前で止まり、俺達を中へ通した。


家の中は和室っぽい造りになっていた。

木の床が敷かれた十畳くらいの広い空間を壁で仕切って二部屋にしていて、手前の部屋にはいろりが置いてあり、奥の部屋には布団が敷いてあった。


古くさい感じの部屋だが、床も壁もシミやほこり一つ見当たらないほどピカピカだ。毎日手入れを欠かさずにしているのが見てとれる。

まるで誰か来るのを見越して造られたかのようだ。

旅人などめったに訪れないと言っていたのに。


「わぁ~、ボクん家より広いよ!」


ルークははしゃぎながら部屋のなかを見渡していた。

そんなことはない。どっこいどっこいだな。

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