第33話 海

「へぇ~、君があの時のスライムだったんだぁ」

「はい、まさかルーク様のお父様だったなんて、おどろきました!」

「ルークでいいよ」

「いえ、ルーク様は勇者様の子供なので、ルーク様です!」


俺の歩く後ろから、楽しそうな会話が聞こえてくる。

ルークはプルスとも仲良くなったようだ。


「君も勇者になるんだよね。じゃあ、一緒にがんばろう!」

「はい!!」


物騒な会話をしやがる。俺が誰なのかわかってるのか。

共闘関係ではあるけれども。


「おい、そろそろ谷間にはいるぞ」


そうこうしている間に夜明けの谷間に到着した。

谷間は森で覆われており、馬車が通れそうな道が一本引いてあった。

ここを抜けた先にトゥカイ村がある。


「気をつけて、この森に危険な魔物はいないけど、たまに山から強いのが降りてくるから」


ルークが周囲を警戒しだしたので、俺達も気を引き締める。

道中魔物に遭遇することもなく歩き続け、ちょうど谷間の中間くらいに来た時だった。


「ガルルルル」


前方から魔物が現れた。

首が三つある、人型の犬だ。


「ケルベェロスだ!」


魔物

ケルベェロス……首と睾丸が三つある人型の犬。三つの首を右、左、真ん中の順番に切り落とした後に、心臓を潰せば倒せる。しかし、三つある睾丸のうちのどれか一つを潰しても倒せる。


「ケルベロス!? なんでそんなのがいるんだ!」

「山から降りてきたんだ! 強いけど、落ち着いてあの睾丸を攻撃すれば倒せる!」

「また股間のやつかよ……」


俺達は臨戦態勢に入り、相手の出方を伺おうとした。

しかし……


「グルルル!」

「グルルルルル!」

「グルル!」


囲まれた。

やつは一匹じゃなかった。


「これは、まずいんじゃないか?」


前と後ろから二匹、両脇の森から二匹、計四匹のケルベェロスがじりじりと迫ってくる。


「ボクが前のやつを倒すから、そのうちにみんなは逃げて」

「バカいえ。お前がいなくなったら俺達は全滅だ」

「でも……」


その時、ライトくんが突然前のケルベェロスの睾丸につかみかかった。


「キャアアア!」


ケルベェロスは悲鳴を上げながら死んだ。


「今だっ」


俺達は全力で走り出し、ケルベェロスの包囲網を突破した。


「ナイスだライトくん! やはり俺の右腕はお前しか……ってライトくん? どこ行くんだ? そっちは山だぞ! ライトくぅぅぅぅぅん!」

「待ってグレン!」


俺達は何故か山の中に指で走ってゆくライトくんを追いかけた。


「おーい、どこまで行くつもりなんだライトくん」


ライトくんは振り返ることなく、草木をかき分けてどんどん山の中へと進んでいく。

一体どうしたんだライトくんは。

魔物の玉をもいだせいでテンションが上がっちまったのか?


いつの間にか、周りの木々や木の葉の色が緑から黒に変わり、あたりが一気に暗くなった。足元の草の量もさっきより多く、歩きにくい。


「ルーク、いまどこらへんかわかるか?」

「……わからない。こんなとこボクも来たことないよ」

「? 普段から山に入ってるんじゃないのか?」

「うん。でも、いつもの山と何もかもが違うんだ。木々の色とか、土の匂いとか、全然違う山に来たみたい」


どういうことだそりゃ。そんなことあるのか?

でも毎日山で修行していたルークが間違うはずはない。


「! 出口です!」


プルスが叫んだ。


「出口……?」


んなバカな。さっき山に入ったばかりだぞ?

そんなに坂を登った感覚もないし。

だが、たしかに暗い木々の間から光が見えた。


俺達はその光へと早足で歩く。

そして、森を抜けた先にあったのは、海だった。

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