第32話 魔物出現

ん?何だ?


プルプルプルプルプルプル。


プルプル音がするぞ?


「あのぉ……魔王様……先日は魔王様が一人で戦っていたにもかかわらず、お助けできなくてすみません。次こそは頑張りますので、もう一度僕にチャンスを下さい!」


スライムが現れた!


「魔物だあああ! 殺るぞおおお!」

「うえ~ん」


俺はたまたまエンカウントしてしまったスライムに、殺りにかかる。


「ま、待ってグレン! 彼はもしかして、君の知り合いなんじゃ……」

「殺るぞおおおおおお!」

「うえ~ん」



「大丈夫?」

「はい……ぐすっ」

「君はグレンの友達? そういえば、城に一緒にいたよね」

「僕は、魔王様の、手下でした……でも……僕は……うぅ」


結局俺はルークに止められ、あと殴っても殴ってもダメージが通らなくて、スライムを仕留め損なった。


くそ、ブヨブヨしやがって……。


「グレン、彼は君の手下だったって言ってるよ?」

「いえ、違います。彼はもう手下でもなんでもない、ただのすれ違いスライムです。魔王がピンチの時に助けに来ないスライムなんて私は知りません」

「うぅ……ごめんなさい……ぐすっ、ぐすっ」

「だからって、殴ったりしたらかわいそうだよ」

「…………」


ルークは俺を批難するような目で見てくる。

そんなことを言ったって、俺があんなにピンチの時に、こいつが助けに来なかったのは事実だ。

たしかに偽装の時は役に立ったが、肝心な時に使えなければ手下としての意味がないのだ。


「それに、彼だって本当は君を助けたかったんだと思うよ? ごめんなさいって謝ってるし、もう一度仲間にいれてあげようよ」


そんなことあるはずがない。

こいつは、勇者になりたいので手下にして下さい、と魔王に言うようなやつだ。

きっと俺をなめ腐っているに違いない。


「魔王様……もう一度、僕を手下にして下さい! 今度こそお役に立ちます!」


プルスは頭を下げた後、俺をキリッとした顔で見上げる。

お前……よくそんな顔で、そんなできもしないことを言えるな。

この流れならいける、とか思ってるだろ。

現実を見せつけてやるわ。


「残念だったな。お前の後任はすでにいる。有能な俺の右腕、ライトくんだ」


ライトくんは俺の差し出した手を固く握った。

それもちゃんとルークの荷物を優しく降ろしてからだ。

っぱライトくんだわ。


「そ、そんな……」

「じゃあ、友達から始めようよ。手下じゃなくて、友達から! そうしたら、お互いに認め合うことができると思うよ!」


ルークが希望に満ち溢れた顔でそんなことを言った。

いきなりどうしたんだこの娘は。

何を言ってるか全くわからない。


すると、プルスが改まった顔で俺を見上げた。

そして俺の目を見ながら、


「友達から……始めませんか……?」


俺はプルスに拳を振り下ろした。


「しゃしゃるんじゃねええええ!」

「うわ~ん!」


もう一度俺はスライムを殺ろうとしたが、またもやルークに止められた。


「くそ……」

「グレン、彼はきっと、君と同じ優しい魔物だよ。どうかもう一度、彼を仲間にいれてあげて……お願い」


ルークはまたあのまっすぐな目で俺を見て頼んできた。

く、この目は……この汚れのない青い瞳で見つめられると、どうしても断りきれない。


「……もう一度だけ、チャンスをやろう」

「! ありがとう、グレン! よかったね、君……名前は何て言うの?」

「プルスです……魔王様が名付けてくれました!」

「そうなんだ。ボクの名前はルーク。これからよろしくね、プルス!」

「はい!」


しまった。全然許す気がないのに許してしまった。

やはり俺はあの目に弱い。


「おい、プルス。言っておくが、お前はまだ正式な手下じゃないからな? 非正規雇用の手下だからな?」

「はい! わかりました!」


本当にわかってるのかこいつ。

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