第31話 共闘関係

村を出てからまあまあ歩いたと思う。

そこで俺は気づいた。

これからどこへ向かえばいいんだ?


というか、ここはどこなんだ?

相変わらずどこを見渡しても、のどかな草原が広がっている。

どこが北でどこが東なのかもわからない。

くそ、現在地くらいフラマに聞いておけばよかった。


「う〜ん、今日はすごくいい天気だね! 旅をするにはぴったりだ」


ルークは気持ち良さそうに伸びをしながらそんなのんきなことを言っている。


「あっ、ほら、ライトくんも楽しそうだよ」


ライトくんはぴょんぴょんと跳ねながら、ルークの横に並んだ。かと思うと、ルークの持っていた袋を引っ張りだした。


「? 荷物を持ってくれるの? ありがとう! 優しいんだね、君は」


ライトくんはルークの荷物を持ちながら、軽く跳ねた。

しまった……ここは紳士として、俺が持つべきだった。

なかなかやり手だな、ライトくん。


ルークとライトくんは、いつの間に仲良くなっていた。

魔物に対して分け隔てなく接するルークなら当然の結果か。


「さあて、まずはどこに行く? グレン。ボクは君の行きたいところへついていくよ」

「いや、すまん。俺もこのあたりには詳しくなくて、どこに行けばいいのかわからないんだ」

「そうなんだ。ちょっと待ってて、たしか袋の中に……あった」


そうしてルークが取り出したのは、古い紙切れだった。

中を開くと、そこにはこの世界の地図と思われるものが描かれていた。

巨大な縦長の大陸が二つ、対のように描かれていて、左がガイアナ大陸、右がテラウノス大陸と書かれている。


……読めるな。この世界の文字が、読める。

この世界に来てから、文字なんて見たことさえなかったのに。

もしやフラマが、あの球体の中にいるうちに胎教でもしたのか?

それだったらめちゃくちゃ教育熱心だな。


「今ボクたちがいるのは、このあたりだね」


そう言ってルークは、ガイアナ大陸の真ん中からちょい下あたりを指差した。

どうやら今俺達は、セイファー王国という国の南に位置するカペーユ地方というところにいるらしい。さっきまでいた村の名はカナイド村。

とにかく田舎の方なんだろう。


そして、北にそびえるバカでかい二つの山はバースト火山。

その間の夜明けの谷間を通って北上したところにあるのが、ゴッドニア地方。

ゴッドニアー。これはいかにも……


「なあ、もしかしてこのゴッドニア地方ってとこに、神がいるのか?」

「……うん。そこにあるゴッドマウンテンの上空に、神はおわすと言うけど」

「じゃあとりあえず、そのゴッドマウンテンとやらを目指すか。勇者は神に選ばれなきゃなれないんだろ? ここから一番近い人里は、夜明けの谷間を抜けた先にあるトゥカイ村か」

「グレン、いいの? 君は魔王なのに、勇者になるボクの手助けをして」


ルークは心配そうな顔で聞いてきた。


「それは、そうだな……でもほら、今は魔王もたくさんいるんだろ? こうして普通に歩いていても、いつ遭遇するかわからない状況なわけだ。だからそう、これは共闘関係だ。俺はお前が勇者になる手伝いをするから、お前は俺達を守る。これでどうだ!」


俺はどや顔でルークに言った。

本当は共闘関係じゃなくて、一方的に守ってもらいたいだけなんだけどな。

この先俺だけじゃ、どんな敵が来ても勝てる気がしない。ライトくんはたぶんサポート系だしな。


「……わかった! それじゃあ、握手をしよう」

「?」

「共闘関係ってことは、これから一緒に協力して頑張っていくってことでしょ? だから、友好の証に握手!」

「お、おう」


俺はルークが伸ばした手を取り、握手をした。


う、うわぁ。やべぇよ。

今俺女子と握手してるよひぃ~。

て、手が震えそうだぜ。やべぇ、なにも感じねぇよ。

手汗とか出てたらどうしよ。


ルークは俺と握手し終わると、ライトくんとも握手していた。


やべぇよ、握手しちまったよ。

握手童貞を卒業しちまったよ。

こんな薄汚れたライトハンドでルークの清潔な手に触ってよかったんだろうか。

ちゃんと洗ってたよな?


「それじゃあ、改めて、トゥカイ村を目指そう!」

「おお」


俺達は谷間の森に向かって歩き出した……が、その時。


プルプルプルプルプルプル。

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