第24話 決戦

「うおおおおおおおおおお!」


遠くで雄叫びのような声が聞こえる。

そして、それに続く、魔物達の狂ったような声。

明らかに追従する声ではない。

あれは、魔物達が獲物を追いかける時の声だ。


我が主は、魔王様は、魔物達に襲われている。


追いかけられる自分の主を見て、プルスはそう確信した。


「うう……僕は、僕はどうすれば……」


助けなければ、魔王様を、助けなければ。


気持ちではそう思っていたが、心の奥底では自分の力ではどうにもならないことはわかっていた。

だからプルスは、その場から動くことができなかった。

体をプルプルと震わせながら、彼が走っている廃城の方を、ただ見つめることしかできなかった。


「ごめんなさい……! 魔王様……」



「うおおおおおおおおおおおおお!」


俺は走る。とにかく走る。少しでも魔物達を村から遠ざけるために、走る。


でも、これからどうする。

村から遠ざけたとしても、俺が殺されてしまえば意味はない。

むしろ、俺がやつらに食われたら、たぶん魔力だかなんだかを吸収されて、やつらをさらにパワーアップさせてしまう可能性がある。

だが、このまま逃げ切ってしまうと、やつらはおれを諦めてまた村を襲うだろう。

つまり、この状況を打破するためには、俺が殺されずに、かつやつらを全員倒し切る必要があるということだ。


無理だ。そんな方法はない。

いくら俺でも、あんな数相手に勝てるはずがない。

何とか打開策を考えようにも、走りながらだとなれないブリーフが尻に食い込んで頭が回らない。

誰か助けてくれぇ……。


その時、俺の肩に何かが乗った。


「!?」


見ると、乗っていたのは手マモンだった。


「おお! お前も一緒に戦ってくれるのか! もしかして、お前はただの右手じゃなくて、伝説の魔神の右腕だったとか、そういう展開か!?」


手マモンは俺の問いかけには応えず、ある方向を指さした。

その方向には、廃城があった。

さっきまで泊まってた城だ。


「! そうか」


あの城に籠城すれば時間も稼げるし、何か戦う武器も見つかるかもしれない。


「ナイスだ! 手マ……いや、お前はもう立派な仲間だ。名前をつけてやらなきゃな。変な言い間違いをしそうだし。そうだな……右手だから、ライトくんにしよう。お前は今日からライトくんだ! 行くぞ、ライトくん!!」


新しく仲間になったライトくんとともに、俺は城の中へと入っていった。


「ハァ、ハァ……ふぃ〜、ひぃえ〜」


王座の間の前。

俺は城に入ってから大広間を全力で駆け抜け、階段を全力で駆け上がったので、息が上がりに上がっていた。


「ハァ、ちょっと休憩。肺が死ぬ……」

「ワアアアア」


しかし、息を整えている暇もなく、もう魔物達が城の中に入ってきた。


「くそっ、はえぇ! とりあえず王座の間に隠れるか……ん? ライトくん?」


ライトくんは逃げようとせず、何故かその場でピョンピョン飛び跳ねている。


「何してるんだ、ライトくん! ピョンピョン跳ねて遊んでる場合じゃねぇよ、逃げるぞ! おい、ライトくん! ライトくん? ライトくぅぅぅぅん!?」


……いや、まてよ?

ライトくんは俺に何かを伝えようとしているのかもしれない。

ピョンピョンと、テンションアゲアゲ。

みんなでパーティ、仲直り。違う。


そうこうしているうちに、魔物達が大広間の中心まで迫ってきた。まずい。


天井からパラパラとガレキが降る。

こんなところで戦ったら、ボロい城だからぶっ壊れるかもしれないな。


ん? ピョンピョン跳ねる。ガレキ、落ちる。


「これだ!」


この城はボロい。特に天井は、ちょっと歩くだけでガレキが落ちてくるほどだ。

ということは、もっとでかい衝撃を加えれば、天井が崩れ落ちて、やつらを一掃できる!


「ナイスだライトくん! さすがだライトくん! よし、さっそくいくぞ……はぁっ!!」


俺は両足に力を込め、思い切り飛んだ。

ゴォン!

そして思い切り天井に頭をぶつけた。


「ゲェッ!」


忘れていた。俺の身体能力は魔王だった。

古びた城に、凄まじい衝撃が走る。

そして……。


ドドドドドド。


天井が、崩れてゆく。

崩れ落ちたガレキによって、魔物達が押しつぶされる。


しかし、それどころではすまなかった。

地鳴りのような音とともに、城が揺れる。


「ま、まずい。城が崩れる! 逃げるぞ、ライトくん!」


俺はライトくんとともに階段を下る。

そんな俺達の前に、数匹の魔物が立ちふさがった。


「タベル! マオウ、タベル!」

「ゴハン! ゴハン!」

「どけぇ、てめぇら!」


ドドドドドド。


再び天井が崩れ落ち、魔物達に巨大なガレキが降り注ぐ。


「ピギャッ」

「ビチ……」


グチャッ、という嫌な音とともに魔物達がガレキに押しつぶされ、ブシャッとすごい量の血が飛び散った。


「うわグロ……」


あまりのグロさに吐きそうになっていると、俺の頭にも巨大なガレキがぶち当たり、そのまま意識を失った。



気がつくと、俺は草原にいた。

目の前にはガレキの山があった。

城は完全に崩れてしまったようだ。

ちょっと足踏みをして、天井の一部を落とそうと思っただけで、ここまでするつもりはなかったんだが……。


トントン、と誰かが俺の背中を叩く。

振り返ると、ライトくんがいた。


「……ライトくん。まさか、お前が俺を助けてくれたのか?」


ライトくんは親指を立ててグーをした。


「うおおお! ありがとう、心の友よ! お前こそ真の仲間だ!」


俺はライトくんと熱い握手を交わす。


「これで……魔物を全員倒したってことだよな? おお、やべぇ。俺すげぇ、俺TUEEEE!」

「やってくれたな」


怒りのこもった声が聞こえた。

驚いて振り返ると、少し離れたところにパンツの魔物が立っていた。

表情の読み取れない無感情な顔をしていたが、その声には怒気がむんむんこもっていた。


「お前、生きてたのか……!」


パンツの魔物は顔を怒りで歪めながら、ガレキの山を見た。


「ちっ、せっかく苦労して集めた俺の手下どもを殺しやがって。こんなに人間よりも殺してやりたいと思ったのは、てめぇが初めてだぜ。一体なんだ、てめぇは。結局人間の味方か?」


そうして、もう一度俺に冷たい目を向ける。

当たり前だが、あのまったく敬うつもりのない敬語はもう使わないようだ。

俺は身体に異常がないか確認しながら立ち上がり、パンツの魔物に向き合う。


「……別に味方ってわけじゃない。ただ俺は、お前らの思い通りになるのが気に食わなかっただけだ」

「気に食わなかっただと? はははは! やっぱりてめぇは腰抜け野郎だ! 魔物ならば、人間を殺すのは当たり前のことだ! それができないのなら、てめぇに魔王を名乗る資格はねぇ!」

「なんとでも言え。俺はもう、お前たちの魔王を名乗るつもりはないからな」


パンツの魔物は、もはやこれ以上の問答に意味はないと悟ったのか、感情を捨てた冷たい表情になった。


「失敗だったぜ。てめえなんかを魔王に選んだのは、本当に失敗だった。最初に見つけた時に、殺しておくべきだった」

「ハズレを引いちまったな、パンツ野郎。お前が選んだのは、失敗が大得意な魔王だぜ!」


俺は勢いよく言い放ち、やつを見返す。


「そのようだな……」


パンツの魔物も禍々しい殺気を放ちながら、俺を睨みつけた。


俺とやつの間に、殺意と敵意が交差する。

これから始まるのは、生死を分けた戦い。生き残るのは一人だけ、勝者のみだ。

邪魔する者は、誰もいない。

互いの純粋な力をぶつけ合い、勝敗を決する。


ああ、最高だ。この緊張感。魔王としての血がたぎる。

この時が来るのを俺は待っていた。


「てめぇだけは、ぶっ殺す!」

「こい! パンツ野郎!」


パンツの魔物が手に力を込めた。

すると、やつの指からシャッ! と音を立てて巨大で鋭利な爪が現れた。


「えっ! そんなのアリか!?」

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