第22話 前夜

深夜。

全てが闇に覆われ、多くの生物が寝静まる頃。

城内には不気味な静寂が漂っていた。

翌朝の襲撃に備え、体を休める者。何者かを警戒し、息を潜める者。興奮し、浮足立つ者。

様々な気配が闇の中に渦巻いている。


そんな中、王座の間には数匹の魔物達が集まっていた。

コソコソと悪巧みをするように、王座を囲んでいる異形達の中には、ブーメランパンツ以外は何も身に着けていない、悪魔のような容姿をした魔物ーーパンツの魔物もいた。


というか、座っていた。

当たり前のように、王座に座っていた。


「ちっ、まさかあんなのが魔王とはな。あんな根性なし野郎が……ちっ」


その態度は、先程までの自分の主へのものとは打って変わった、あまりにも無礼なものだった。


「まあいい。やつに求めるのは魔王の位だけだ。それ以外はどうでもいい」

「タベテイイ? アイツ、タベテイイ?」

「タベル! タベル!」


パンツの周りの魔物達が、次々にうなる。


「だめだ。あいつは魔物どもをまとめる飾りとして必要だ。あの村には厄介なやつが住んでいる。もう老いて力はないと思うが、まとめてかからなければ痛手を負うかもしれん。だが、村を手に入れたあとは食っても構わん。殺す時は俺がやる。やつを殺して、この俺が魔王になる! クックックックッ」


パンツの魔物はニタリと口角を上げて、不気味に笑った。


「あんなやつよりも、この俺の方が魔王にふさわしい。お前らもそう思うだろぉ?」

「ソウダ! ソウダ!」

「コシヌケ! アイツハ、コシヌケ!」

「その通りだ。あいつは腰抜けだ! それにあいつは喋り方もムカつく。きっと何も考えずに喋っているに違いない。そういう喋り方をしている。体が赤いのもまぬけだ」

「ドウテイ! アイツハ、ドウテイ」

「そうだ。あいつは童貞だ。クッハッハッハッ」

「ギャハハ」

「ガハハ」



魔物達のあざけり声が城内に響く。

俺はその様子を扉の隙間からのぞき見ていた。


「何だよあいつら、めちゃくちゃ言うじゃん……すげぇ悪口言うじゃん。最悪だわ……んだよ童貞って。みかけで判断すんなよ。童貞だけど」


俺は肩をおとしながら王座の間を離れて、階段を降りる。


それにあのパンツ野郎……。

あいつが一番言ってたな。

体が赤いのがまぬけってなんだよ。紫はまぬけじゃないのかよ。


そして何よりも、やっぱり最後には俺を殺すつもりのようだ。

薄々気づいてはいたが、それでも初めてできた仲間達だ。

俺は信じたかった。


さて、これからどうするか。

逃げてもいいが、あいつらはどちらにしろ村を襲うだろう。まあ、今頃ルークが村人を避難させてるだろうし、なんの問題もないんだが……どうしようか。


「……明日考えよ」


明日のことは明日の自分に任せる。

迷った時は、これが一番だ。

王座の間は完全に占拠されてしまったので、今夜は食堂で寝ることにした。

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