第18話 やばい流れ

「お見事です、魔王様! まさか相手を辱めることで戦わずして勝つとは。まさに魔王にふさわしいお手並みでございます!」


パンツの魔物が拍手しながら大げさに叫んだ。

このパンツもっこり野郎め、絶対バカにしてやがる。


でもまあ勝ちは勝ちか。

ルークも何故か戦意を喪失してるし。


「しかし、これで魔王様にもおわかりいただけましたね。人間は滅ぼすべき我々の敵だということが。あの村は明日にでも潰し、我々の新たな拠点としましょう」


またこいつはそんなことを。

お前がそんなことを言ったせいで、ルークに勘違いされるはめになったってのに。


「まてまて、早ぇよ話が。これには色々と事情があってだな」

「魔王様、あなたも見たでしょう? 人間どもは我々の城を襲撃してきた! これは魔物への宣戦布告だ!!」


パンツの魔物の顔面がみるみる歪んでいき、鬼のような形相になった。

なんか嫌な予感がする。


「いや、今回のことに関しては人間と魔物とかではなく、個人の問題であって、決して大事にするようなことでは……」

「人間は滅ぼすべきだ! そうだろぉ、お前ら!!」


「「「うおおおおおおおおおおおお!」」」


いや聞けよ……。くそ、完全にやばい流れに持ってかれた。

たしかに俺は魔王になったが、そんな野蛮なやつじゃなくて、もっと頭とか使って内政的な俺

TUEEEEEをする魔王になりたいんだ。

いきなり村を滅ぼすとかそんなのごめんだ。

何とかここは穏便な方向で済まさなければ。


「待て、お前たち。人間は有用な生き物だ。畑で作物を育てたり、武器を作る技術も持っている。ただ滅ぼすよりも、支配というか、お互いに共存とかした方が、うまくやっていけるぞ」


俺はルークがいる手前、できるだけ甘い言葉を使ってしまった。

しかし、それがあだとなった。


「共存? 魔王様、そりゃないだろ! はははは、なあ、お前ら!」

「「「ぎゃははははははははははは!」」」


むかつくなぁ、こういう大勢を乗せる感じ。最初から思ってたけど。

てかこいつ、ついにタメ口使いやがったな。


「魔王様、魔物と人間は、共存なんてできないんですよ。第一、人間などという愚かで脆弱な生き物と、共存などする理由がない! 人間なんていうやつらはぁ! 俺たち魔物のエサになるか、ぶち殺されるためだけに存在しているんだ! グギギギィ!」


パンツの魔物はまるで獣のようにうなりながら、牙をむき出しにした。


こいつ……なんてイカれた顔をしてやがる。

人間に親でも殺されたのか?


「大体魔王様、あなたは何なのですか? 魔王と名乗っておきながら、人間を排することにまったく積極的でない。それどころか、共存などという言葉で我々を混乱させる! この小娘とも親しいようだ。魔王様、あなたは魔物と人間! 一体どちらの味方なんだ!」

「それは……」


正直なところ、俺にもよくわからない。

たしかに、今の俺は魔物だ。

それは今日、村で痛いほど思い知らされた。

それでも俺は元人間で、その記憶も昨日のことのように覚えてるし、ていうか魔王になってまだ一日しか経ってないしで、正直実感がわかないのだ。


「あんたは、怖いんだろ? 人間を恐れてるんだ!」

「はぁ?」

「怖いんだ! 人間に狩られるのが怖いんだ! あんたは臆病者だ! 臆病者の魔王だ!」


な、なにをぉ……?


「「「わあああああああああああ!」」」


魔物達が騒ぎ出す。


「オクビョウ! オクビョウ!」

「オック! オック!」

「オクビョウ……ドウテイ……」


カチン……。

俺の頭に、一気に血がのぼった。


「うるせえこのウンカスどもがあああああ! 上等だ! 戦争でもなんでもやってやるよ! てめえら全員ついてきやがれ!」

「聞いたかお前らぁ! 明日の早朝、村を襲撃する! 人間どもに地獄を見せてやれ!」


「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」


……やってもうた。

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