第17話 対決

俺は覚悟を決めた。目の前の少女と戦う覚悟を。

だが、殺す気はない。

ルークは俺の心を救ってくれた恩人だ。

できれば死なせたくはない。

戦意喪失させればそれでいい。


俺とルークは対峙する。距離はおよそ2m弱。


こう見えても、生前の俺の実家は剣道の名門だ。

約400年の歴史を持つ由緒正しい剣術の流派、「柳田陰客流やなぎだいんきゃりゅう」。かの有名な「柳生新陰流」の本家の隣に住んでいた武士の妹の夫が一念発起して開いた「柳田流やなぎだりゅう」がその源流と言われている。


俺もギリ小1くらいまでは剣を習ってたから、多少は剣術の心得がある。

先手は譲ろう。まずはお手並み拝見だ。

俺は堂々と構え、相手の出方を伺う。


ルークは真剣な表情で、ゆっくりと剣を上段に構える。

そして次の瞬間、剣は俺の額の前で止まっていた。


「…………ん?」


剣だけじゃない。ルークもいつの間にか目の前にいた。

ブオオッ! と剣の圧が突風となり、俺の髪を後ろになびかせた。


…………………いや速っ。


え? 何これ速すぎない? どういうこと?

いつの間にか目の前にいたんだけど。全然見えなかったんだけど……。

高速で移動したってことだよね?

顔に、ものすんごい風がブオオってきたし。

え? この娘速すぎない?

え? 速すぎない?


トッ……。


ルークが後ろに飛び退る音で我に返る。

どうやら一歩も動かなかった俺を不気味に感じて、一旦距離をとったようだ。

実際は一歩も動けなかったんだが。


「……ふっ。中々やるな。いい太刀筋だ。だが、次はどうかな?」


やばいやばいやばい。

筋もくそも見えたもんじゃねえ。

つーかさっき当たってたら死んでたよな?

顔面真っ二つだったよな?

やべぇよ冗談じゃねぇよほんとにやべぇよ。


そうこうしているうちに、ルークが再び剣を構える。

くそ、次こそは……次こそは避けねば!


大丈夫だ。俺は魔王だ。その気になればきっと避けられる。

野球と同じだ。ボールだって、よく見れば当てられる。

そうだ、筋だ。切っ先をよく見て、太刀筋を見極めるんだ。


俺はルークの剣の切っ先をよく見た。

その切っ先はキラリと閃いたかと思うと、鮮やかな太刀筋を描いて俺の首筋にいつの間にか到達していた。


ブオオッ! と再び俺の顔に突風が吹く。

だめだこれ。避けれる気がしねぇや……。


「くっ……」


ルークが後ろに飛び退る。


「さっきから、どうしてボクの攻撃を避けないんだ? もしかして、手加減しているのか!」


避けてぇよ。できるもんなら俺だって、余裕な顔して避けてやりてぇよ……。

でも避けれないんだよ。目がついていけないんだ。


俺って本当に魔王なのかな……。

自身なくなってきた。

だが諦めるわけにはいかない。


「その通りだ。俺は今まで手加減していた。だが、お遊びはここまでだ。いくぞ……いいか、次は俺の攻撃だ。お前は二回も攻撃したからな。次は俺の番だ。お前は攻撃してはならない。これは絶対だ」

「く……わ、わかった……!」


よし、なんとか俺のターンに持ち込めた。

これで先制攻撃ができる。


俺は身をかがめ、クラウチングスタートの姿勢をとる。

そして心のスターターピストルの砲音とともに、足を踏み出した。


「うおおおおおおおおお!」


俺は雄叫びをあげながら、ルークに向かって全力で走る。

特にどんな攻撃をするかは決めてないが、全力で走る。


ルークの目の前に迫った時だった。

俺は何かにつまづいた。

たぶんガレキかなんかだったと思う。


「あっ……」


体が宙に浮く。

ま、まずい……!


俺の手はとっさに何かにつかまろうとして、ルークの短パンを掴んでしまった。


いかん! これは短パンが脱げてラッキースケベのパターンだ。それだけは回避しなければ!


宙から落ちゆく中で俺はとっさに判断し、すばやく手を引っ込めた。

しかし、俺の手はまだルークの短パンを掴んだままだった。


ビリビリビリッ! という何かが破れる音とともに、俺は地面に倒れた。

目を開けると、俺の手には破れた短パンが握られ、目の前には下半身の布面積が心もとない少女が立っていた。

短パンが消えて露わになったその布は、着ていたシャツの奇跡的な長さによって、見えるか見えないかくらいの状態で隠されていた。

だがしかし、もちろん俺には見えていた。

真っ白なスポーツ系の下着も、ぴちっと引き締まった太ももも、這いつくばっていた俺には全てが見えていた。


Oh……my hand.

なんてアンラッキースケベをしちまったんだ。


「う……うわああああああああああああん」


ルークは顔を真っ赤にして涙目になりながら、床に座り込んでしまった。

あまりに恥ずかしかったのか、持っていた剣もそこらに放り投げていた。

俺はその剣を拾い上げる。


あれ? これ……勝った?

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