第15話 愉快な仲間
俺達は、再び城に戻って泊まることになってしまった。
まあ、もう一泊しようと思ってはいたんだが。
王座の間にフラマの姿はなかった。
ほんの今さっきまで、そこの王座にふんぞり返ってたはずなのに、影も形もなくなっていた。
まさかあの魔神、こうなることが分かっていたのか?
だからあんなニヤニヤしてたのか?
そして現在、王座の間は魔物達に占拠されていた。
みんな俺についてきて、そのまま居座ってしまったのだ。
俺は魔王として何とか王座だけはキープし、今はその上に座って、魔物達を眺めている。
しかし改めて見ると、本当にいろんな魔物がいるな。
ゴブリンやオークなどの定番なやつはもちろん、人間の手みたいなやつとか、顔のついたモンブランとか、よくわからないやつもいる。
何だか一気に異世界感が増してきやがった。
「ギャアアア」
「キィキィ」
「グルルルルル」
「チュピチュパ」
「グソッグソッ」
それにしても、騒がしい。
ガヤガヤギャーギャー、何の話題で盛り上がってるのか知らないが、とにかくうるさい。
ここは俺の生まれた場所なのに。
まるで、部屋に入れた不良が全然帰ってくれない時の気分だ。
いや、そんな弱気でどうする。
俺は魔王だ。
こんなチンピラどもさえ黙らせられないで、どうして世界を支配できる。
しかし、こんなに盛り上がってるのに水を差すのは、いくら魔王でもさすがにNGか。
よし。ここはあえて、輪を乱すのではなく、輪に入ることにしよう。
考えてみれば、こいつらはもう俺の手下……これからもともに戦う仲間、いや、ファミリーだ。
ファミリーとの親睦を深めるのも魔王の役目。
俺は王座から立ち上がり、魔物達の輪に近づいてゆく。
ふぅ、緊張するな……。
でもきっと大丈夫だ。
肝心なのは、最初の一歩。
その一歩さえ踏み出せば、あとはもうベストフレンド、ベストファミリー。最高の関係を築けるはずだ。
俺は勇気を持って話しかける。
「よう、お前達! 何をそんなにギャーギャー騒いでるんだ? 俺も仲間に入れてくれ!」
「「「………………………………」」」
沈黙。壮絶な、沈黙。
何だ? 時が止まったのか?
魔物達は何も言わず、ただ俺のことをじっと見ている。
その目には感情というものが一切なく、凍えるほど冷めていた。
だめだ……この空気、耐えられねぇ。
「わ、悪かったな! 気にせず続けてくれ……」
魔物達は何事もなかったように、また騒ぎ出した。
再び部屋の中が賑やかになった。
はぁ、ちょっとこいつらとは仲良くなれないな。
いや、今のは俺も悪かったか。
楽しく話してる途中によく知らないやつが入ってきたら、たしかにああなるか。
もしかしたら、俺が魔王だから、いきなり話しかけて怯えさせちゃったのかもしれない。
まあ、こういうのはゆっくりと時間をかけてやっていこう。
そうすれば、こいつらも心を開いてくれるはずだ。
「やめろ! やめろぉ!」
部屋の端で悲鳴が聞こえた。
見ると、プルスが魔物達に輪のように囲まれて、四方八方から小突かれていた。
まったく、これだから不良は。
いくらプルスがど突きたい顔してるからって、いじめはいかんだろ。
こういうのを許してしまうと、後々集団としての秩序とかに関わってくるからなぁ。
仕方ない、助けてやるか。
「おいお前ら、そいつをいじめるのはやめてやれ」
俺が魔物達に言うと、奴らの中からブーメランパンツを履いた魔物が出てきた。
「いじめ? 何を言ってるのですか、魔王様?」
またこいつか。このパンツもっこり男。
こいつは俺の手下になりたいとか言っておきながら、態度が全然下手じゃない。
おそらく俺をなめくさっているのだろう。
ここは一度、ビシッと言っとかなきゃならんな。
「いじめてるだろ、どう見ても。魔物同士、仲良くしてやれ」
すると、パンツの魔物がため息をついた。
「はぁ、魔王様。それはあまりにも愚かな勘違いです。これはいじめではなく、人間から身を守るための訓練です」
「は? 訓練?」
「やつらは卑怯で愚かな生物です。我々魔物を殺すためなら、平気で卑劣な手段を使ってきます。魔法を使って罠にはめたり、一匹に対して集団で襲いかかってくることもあるでしょう。これはその時のための訓練です。我々は、この弱いスライムを鍛えてやっているのです」
「だからって、よってたかってそいつをいじめることは……」
「訓練です」
「いやでも……」
「訓練、です」
「オッケー、わかった。程々にな。がんばれよ、プルス!」
もう、ほんとこいつやだわぁ。苦手だわぁ。
顔と股間と筋肉、全部で威圧してきやがる。
プルスはプルプルしながらうるんだ目で、俺に助けを求めている。
そんな目で見るなよ……やっぱ助けた方がいいかな。
でもまたあいつに言いくるめられそうだな。
「そうだ。魔王様、村にはいつ攻め込みますか?」
「ん?」
「この城の近くに村があります。人間の村です。あそこを滅ぼしてしまえば、我々はここら一帯を支配することができます。いつにしますか? 夜中か明け方であれば、人間どもは眠っているので、楽に事が進みますが」
何をこいつはそんな物騒なことを、さも当たり前に言ってるんだ。
もしかしてジョークか? ブーメランジョークか?
相手が眠ってる間に襲撃って、卑劣なのはお前じゃないか。
「いや、今の所そんな予定はな……」
「そうはさせないぞ!」
突然声が響いたかと思うと、王座の間の巨大な扉が勢い良く開け放たれた。
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