第14話 もっこり
「さて、プルスの名前も決まったことだし、あとは、この城を出るか……」
「どこに行くんですか? 魔王さま?」
プルスはきょとんとした顔で聞いてくる。
「さあな、どこか遠い場所さ。俺を知ってる人間のいないような……」
俺は遠くを向いてたそがれた。
窓がないので、壁しか見えなかったが。
「どこかにお引越しするということですか?」
「まあな。俺を知ってる人間のいない、遠い場所にな……」
「魔王さま、このお城の近くに村がありますよ! あの村に住まわせてもらうのはどうですか?」
プルスが明るい笑顔でクソみたいな提案をしてきた。
「しばくぞお前。住めるかあんな村」
「えぇ!」
「あそこには……辛い思い出があまりにも多すぎる……」
「魔王さま……」
またあの苦い記憶を思い出してしまった。
ここにいると、辛いだけだ。
あいつも来るかもしれないし、早くここを離れよう。
「フラマ、俺はここを出ていくぞ」
「うん。じゃあね、グレン」
「おう」
あっさりだな。ものすごくあっさりしてる。
もっと何かないのか。寂しいな。
しかしここを離れないということは、やはりフラマもここに住んでるのか?
聞いても教えてくれなさそうだな。ニヤニヤしてるし。
まあ、いいか。
「いくぞ、プルス」
「はい! 魔王さま!」
俺達は王座の間を後にした。
外はすでに日が暮れ始めていた。
夕焼けが、どこまでも続く草原を赤く染めている。
俺は何だか切なくなった。
ていうかもうすぐ夜じゃん。
今から旅立つのはちょっときついな。
やっぱもう一泊だけしてこうかな……。
「あなたが、新たに誕生したという魔王様ですね?」
「え?」
突然横から話しかけられた。
声の方向を向くと、そこには大勢の魔物がいた。
大小さまざまなたくさんの異形達。おそらく30匹はいるだろう。
俺は内心びっくりしすぎて大声でう○こ出そうになった。
なんだこいつら……。
「あなたがこの地に誕生するのをずっと待っていました。どうか我々を、あなた様のしもべにしてください!」
魔物達の先頭に立つ、全身紫色の悪魔みたいな魔物が言った。
おそらくこいつが一番強いんだろう。
同じ悪魔のような見た目でも俺とは違い、頭にはいかつい角、腰のあたりからは獣の尻尾が生えている。
格好はほとんど全裸なのだが、何故かブーメランパンツのような際どいパンツだけ身につけている。
えげつないほどムキムキなのもあって、まるでボディービル大会のボディービルダーのようだ。
しかし、その筋肉よりも気になるのが、異様にもっこりしている股間だ。
ブーメランパンツを突き破りそうなほど、もっこりしている。
なんだこれ。C級のソフトボールでも入っているのか?
すごいなこれ。大丈夫かな。
今にもはち切れそうだけど、大丈夫かなこれ。
あれ? ちょっと今動いたような……。
「聞いておられますか、魔王様」
「……はっ。聞いてる聞いてる。聞いてるよ」
あぶねえ。俺としたことが。
野郎の股間なんざ、ガン見してもなんの得にもならないぜ。
「では、我らをしもべにしてくださるのですね?」
「…………」
俺は魔物達の顔ぶれを見る。
どいつもこいつもすげえ悪そうな顔をしている。
不気味に笑ってるやつとか、何かガンつけてるやつもいるし。あんまり印象良くないな……。
「一旦ちょっと、考えさせてくれ」
俺がそう言うと、パンツの魔物が眉をひそめた。
「何を考える必要があるのです? 我々は間違いなく、魔王様の強力な配下となります。あなた様が、おろかな人間を殺せと命じれば、我先にとやつらを殺しましょう!」
「いや、俺はあんまり大勢なのが好きじゃないっていうか、少数精鋭がいいっていうか」
「そうだろお前らぁ!! 魔王様に従うよなぁ!?」
「「「うおおおおおおおおおおおおお!」」」
魔物達が大声で歓声をあげる。
うわぁ。やだわぁ。
こういうやつ苦手だわぁ。
全然話聞かないじゃん。
めっちゃゴリ押してくるじゃん……。
「どうですか? 我々をしもべにして下さいますよね? 魔王様?」
パンツの魔物が目で圧をかけてくる。
さっきより距離も近い気がする。
あとめっちゃもっこりしている。
「魔王様?」
「オッケー、わかった。しもべにしよう」
「ありがとうございます」
仕方ない。
普段の俺なら断るが、今はちょっと疲れてるし。
よく考えたら、手下はたくさんいたほうがいいしな、うん。
「では、この城を拠点としましょう」
「え? でもこの城、もう出ていこうと思ってたんだけど」
「魔王様、我らはみな雨風をしのぐ場所を持ってないのです」
「でも、この建物結構ボロボロだし」
「あなた様は、我々に地べたで寝ろと言うのですか!?」
「よし泊まろう。今夜はみんなでここに泊まろう」
まったく。強く押されると断りきれないのが、僕の悪い癖。
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