第11話 慰め

「ふっ……はっ……くそっ! マントが……くそっ」


王座の前、気持ち悪いウサギのキャラクターが前に乗ってる小さなおまるの上で、俺は四苦八苦していた。

大を催した俺に、フラマが創造魔法だかなんだかで、赤ちゃん用トイレを造ってくれたのだ。


なので俺は、フラマの前で堂々としていた。

普通なら女性の前で、そんなことをできるはずないんだが、何故かフラマの前では平気だった。

血がつながってるからか、それとも一回イッちゃったからか?


でもできれば、普通の洋式トイレを造ってほしかった。

マントが邪魔で、やりづらい。ついたらどうしようとか思ってしまう。


「マントをとってすればいいんじゃないかな」


フラマの助言にはっとして、俺はマントをとって再び構える。とてもやりやすかった。


「それにしても、村では化物とおそれられた上に、優しくしてくれた娘は、勇者を志していたとは。散々な目にあったね。かわいそうに」


俺はトイレをしている間に、これまでのことを話した。

意外にもフラマの反応は同情的なものだった。

俺が話している時は常に胸を揺らして相づちをうち、話し終える頃には悲しそうな顔をしてくれた。

内心ではどう思ってるか知らないが、かわいそうとか言ってもらえるだけで、もうなんかだめだった。


「フラマ、その胸に飛び込んでもいいか? あとよければ、優しく包み込んでよしよしとかしてほしい」


俺はダメ元で言ってみた。


「いいよ」

「いいの!?」

「はい、おいで」


フラマは両手を広げて、俺を見ている。

……え? ほんとにいいの?


「私も少し反省したんだよ。生まれたばかりの君に、ちょっと厳しくしすぎていた部分もあったからね。抱擁くらいしてあげるよ。なんなら、おしめを変えてあげようか。甘えられるのは、今だけだからね」


抱擁のみならず、おしめもだと?

そんなの、また変な性癖に目覚めてしまう。

一体何があったんだフラマさん。


でもこんなチャンスは二度とない。

ハグだけでもしてもらおうかな。

いやでも、何か……。


「や、やっぱりいいや」


断ってしまった。

受け入れられたら、それはそれで恥ずかしい。


「おやおや、恥ずかしいのかい? 思春期ってやつかな?」


フラマがからかうように言ってくる。


「ち、ちげーし! う○こに集中したいだけだし!」

「いくじないなぁ。そんなんで本当に童貞を卒業できるのかい?」


ぬぅ。痛いところをついてくる。

でも、たしかにその通りだな。

胸くらい揉みしだかせてもら……。


「仕方ないなぁ。じゃあ、頭でもなでてあげよう」


そう言うと、フラマは俺の前に降り立って、頭をなでてくれた。


「よしよし。よくがんばったね、グレン」


フラマの手は冷たく、火照った頭には気持ちよかった。

俺は心のライフポイントは少しだけ回復した。

ついでに息子も元気になってしまった。


「そういうつもりでなでたわけじゃないんだけどね」


フラマは俺の息子を見て、苦笑いした。



「なあフラマ、俺も勇者になれないのか?」


俺はトイレットペーパーをぐるぐるしながら、フラマに聞く。


「魔王として生きていくんじゃないのかい?」

「まあ、そうなんだけど。昼は勇者で夜は魔王みたいに、兼業とかできないのかなって……」

「君は本業もままならないままに、兼業を始めようと言うのかい?」


とフラマは呆れた顔をした後、


「残念だけど、無理だね。勇者は神に選ばれた者しかなれないんだ。いくら正規の魔王でないとしても、君が選ばれることはないよ」


フラマはハッキリとそう言った。

やっぱりだめか。魔王と勇者どっちもなれればすべてが丸く収まると思ったんだが、そんなうまくはいかないか。

あと俺、正規の魔王じゃないんだ……まあなんとなくわかってたけど。


「例外的に、魔物で勇者だったり、勇者から闇堕ちして魔王に近い存在になったのはいたんだけどね。どっちも重複して持ってるのはいないかな。勇者と魔王のつがいでも誕生すれば、両方の才能を持つ者くらいは生まれるかもしれないけど、それは彼女が許さないだろうなぁ」


フラマはブツブツとそんなことをつぶやいていた。

そして急に我に返って、俺の後ろを見た。



「……おや、客人が来たようだね」

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