第9話 おじいちゃん(強)
「おおっ!?」
俺は驚いてひっくり返りそうになった。
何だこのじいさんは……。
いつの間に座ってたんだ。全く気づかなかった。
「お前さんは、ルークの友達かね?」
面食らう俺に、じいさんはゆっくりと聞いてきた。
おそらく、ルークの言ってたおじいちゃんだろう。
見た感じかなり高齢のようだ。
白っぽいガウンから覗く手は、ひからびたようにしわっしわで、腰が悪いのか背筋が45度くらい曲がっており、ひどく小さく見える。
目もほとんど開いてないし、半分くらい逝ってるんじゃないだろうか。
「まあ、そんなところだ」
俺は魔王らしく堂々と言った。
こんなじいさんからすると、いきなり家に魔物が現れて、気が気じゃないだろうな。
だが魔王である俺に、そういった気づかいはできない。
じいさんだろうと、容赦はできないのだ。
「ならばお前さんに一つだけ、言っておかねばならんことがある」
「?」
なんだ?
この家から出ていけ、とか?
残念だが、もう少し腹が落ち着くまでいさせてくれや。
「もし孫に指一本でも触れたら、貴様の脳天からとわたりをかち割るぞ」
「え?」
じいさんは老人とは思えないドスのきいた声でそう言うと、指をまっすぐ伸ばした手を細い腕とともに振り上げ、そのままテーブルに振り下ろした。
凄まじい轟音が鳴り、食卓テーブルが真っ二つに両断された。
スキル
『手刀』:開いた手を刀のように相手に打ち込む打撃技。上級者は木の枝や岩を両断することができる。
一体何が起こった。テーブルが割れた。
このじいさんがやったのか?
こんなヨボヨボの、ほとんど昇天してそうなじいさんが?
いや、現実を見ろ。俺は確かに目撃していた。
このじいさんが素手でテーブルを真っ二つにするところを。
だから俺の体はこんなに震えている。
だから俺の息子はこんなに縮み上がっている。
「グレン? 服を持ってきたよ。君が着られそうなものを選んだつもりだけど、入るかな?」
ベストタイミングでルークが来た。
「ああ、ありがとうルーク。ものすごく気に入ったぜ。早速着させてくれ」
ルークからすぐに服を受け取る。
今は洋服でもなんでもいいから身を守れるものを身につけたかった。
「あれ? おじいちゃん、また机を壊しちゃったの? もう、だめだよ。机は大事にしなきゃ。あ、グレン。おじいちゃんと、もう会ったんだね。この人がボクのおじいちゃん。すごく優しい人なんだよ!」
優しい? 何が? 優しく殺められるってこと?
「おじいちゃん、彼はグレン。村の外れで出会って、服を着ていないようだったから、うちに連れてきたんだ。おじいちゃんの昔着てた服、あげてもいい?」
じいさんはブルブルと頷いた。
「ありがとう! それじゃあ……あっ、グレン着替えるんだよね。ボクは奥の部屋で待ってるね……!」
「いや待て、待ってくれルーク。俺をこのじいさんと2人にしないでくれ!」
俺が言い終わる前に、ルークはそそくさと奥に引っ込んだ。
しまった。選択肢を間違えた。
とにかく服を着よう。身を守らねば。
ルークが持ってきたのは、半袖の黒くてピチッとした、トレーニングウェアみたいなものだった。
動きやすいし、意外と厚みもあって、ちょうどいい。
でもパンツは派手な星柄のブリーフ。
もっと他になかったんだろうか。
……くそっ、焦りとブリーフが久々なので、履きにくい!
「お前さんは、ルークの友達かね?」
「!?」
じいさんがさっきと全く同じことを聞いてきた。
うそだろ……まさか、ループしているのか?
「ならばお前さんに一つだけ、言っておかねばならんことがある……」
「いや、おじいちゃん。わかったから。それさっき聞いたから」
「もし孫に指一本でも触れたら……」
「触れない! 指一本触れない! おじいちゃん! ほんとに!」
「貴様の脳天からとわたりをかち割るぞ」
「うおおおお!」
じいさんが手を振り下ろす。
凄まじい轟音が鳴り、床が真っ二つに両断された。
スキル
『手刀』:開いた手を刀のように相手に打ち込む打撃技。達人は大地をも両断することができる。
だめだ。この家にいたら、間違いなく俺は死ぬ。
このじいさんに殺られる。
てゆーかこええよ。
何だよ脳天からとわたりをかち割るって。
「大丈夫? すごい音がしたけど……」
ルークがおそるおそる奥の部屋から顔を出した。
助かった。孫であるルークならこの何でも裁断マシンを止められるはずだ。
「うわあっ! ご、ごめん。まだ着替えの途中だったんだね」
下半身を見ると、俺の息子がまだ丸出しだった。
俺は急いでパンツとズボンを履く。
「大丈夫だルーク、もう履いた! 全部履いた、ホラ!」
「ほ、ほんと?」
ルークが再び顔を出す。
「どうだ、完璧だろ?」
俺は完璧に健全な姿をルークに見せつける。
「……うん! すごくよく似合ってるね。大きさはどう?」
「ぴったりだ」
「そっか」
ルークは部屋から出てきて俺の姿を見たあと、割れた床に気がついた。
「あれ? おじいちゃん、また床を割っちゃったの?」
いやまたて……毎回こんなことが起こってるのか?
どうなってるんだこの家は。
「お前さんは、ルークの友達かね?」
悪魔の問いが聞こえた。
「ひいい! また始まった!」
「そうだよ、おじいちゃん。彼はグレンって言うんだよ」
怯える俺をよそに、ルークはのんきに俺の二度目の紹介をする。
「だめだ、ルーク! その会話を続けさせるな。その会話を止めるんだ!!」
「? どうしたの、グレン?」
「ならばお前さんに一つだけ、言っておかねばならんことがある……」
「だめだ……もうおしまいだぁ!」
その時、外で叫び声が聞こえた。
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