第8話 招待

「おい……おい、ルーク。どこまでいくんだ?」


ルークに引っ張られて歩き続けた俺は、すでに村の外まで来ていた。


「あ、ごめん。トイレに行きたいんだよね」


ルークはようやく俺の腕から手を離す。


「いや、トイレはいいんだが……よかったのか? あいつは」

「うん。さっきはごめんね。カオルは、根はいい人なんだ。グレンにあんなことを言ったのも、きっとボクを心配してくれてのことなんだと思う」


ルークはちょっとしょんぼりした様子で言った。


この様子を見るに、ほんとに幼なじみなのか?

付き合ってるなんてことはまさかないだろうが、それでも小さい頃から一緒だったってことは、何か変態的なことをされている可能性もあるな。


「そうか。なあ、ルーク。あいつに変なこととかされてない? どっか触られたりとか、なんか見せつけられたりとか」

「? カオルはそんなことしないよ。何でかわからないけど、昔からカオルは、ある一定の距離から近づいてこないんだ」


そうなのか。

接近禁止命令でも出されているのか?

だが一応通報しといた方がいいと思う。


しかし、本当にこいつはお人好しだな。

俺みたいなよくわからんやつのために幼なじみ(?)と喧嘩したり、家に招いたりするなんて。

俺はルークがちょっと心配になってきた。


「見えたよ! あれがボクのうちだよ」


ルークの指差す方向を見ると、草原の真ん中にぽつんと、小さな木造の家があった。

周りを柵で囲まれており、中には薪や藁なんかが積まれている。

牛も一頭いる。ムキムキの強そうな牛だ。

ルークが柵の中に入り、牛に駆け寄る。


「ただいま、ブルケイオス!」

「ンオオオオオオオオオオオ」


そしてまた玄関の方へパタパタと駆けてゆき、こちらを振り返る。


「おいでよ、グレン! おじいちゃんを紹介するよ」

「いや、俺は……」


ルークは子供みたいにウキウキした顔でこちらを見ている。仕方がない。


家の中は見た目と同じくらい質素だった。

台所、食卓テーブル、食器棚と、必要最低限のものが置いてある。


「何か飲み物飲む? 牛乳と水があるけど」


ルークは台所に立ちながら聞いてくる。


「じゃあ、牛乳で頼む」

「わかった! じゃあ、そこに座って待ってて! あ、トイレは外に出て、裏に回ったとこにあるから」

「ああ、ありがとう」


俺はトイレは後回しにして、指定された食卓のイスに座る。


ルークは台所に置いてあった鍋から牛乳をコップに入れて、持ってきてくれた。


「はい、どうぞ!」


俺は差し出された牛乳を飲む。


うまい。めちゃくちゃうまい。

自然の甘みとこくがある。


牛乳を選択してよかった。

フラマは飲ませてくれなかったが、やはり生まれたばかりは乳にかぎる。

思えば俺は、この世界に来てから一切飲み食いしていなかった。


そう考えると、突然腹が腹がギュルギュル鳴り出した。


「お腹減ってるの? パンと残り物のスープしかないけど、食べる?」


ルークの神のような提案に俺は同意する。


「食べる! 食べさせてください!」

「う、うん。わかった」


ルークはまた台所に立って、火を起こして鍋を温め始めた。


その姿を見て、俺はかつて前世で義理の母だった人を思い出した。

彼女も美しい銀髪で、超のつくお人好しだった。

俺のことを本当の息子のように扱ってくれて、よく手作りの料理を作ってくれた。

数年前に事故で亡くなってしまったが。


しばらくして、ルークはテーブルの上にパンと野菜や謎の肉が入ったスープをどうぞと並べた後、服を探してくるから待ってて、と言って奥の部屋に入っていった。


ルークがいなくなったのを見計らって、俺はパンを噛みちぎって口に頬張り、それをスープで胃に流し込んだ。


食っては飲み、食っては飲み、そうしているうちにあっという間に食べ終わってしまった。

やはり相当腹が減っていたらしい。

魔物の体になったから、人の食べ物は食べられないんじゃないかと一瞬不安になったが、そんなことはなかった。

パンも謎の肉も普通にうまかったし、これなら米もいけるはずだ。


そんなことを思いながらふと顔を上げると、俺の前の席に見知らぬじいさんが座っていた。

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