第7話 おっさんななじみ
とにかく、何か理由をつけてこの場を離れよう。
そろそろ村人たちも、俺を探してここまで来るかもしれない。
「じゃあ、そろそろおれはこれで……」
「え、もういっちゃうの?」
「ああ。急用があってな。ちょっと、トイレとかしたくて」
「トイレならうちにあるよ?」
「いや、いいんだ。俺のは結構長いし、うるさい系だから」
「でも……」
「いいんだ。今は野外でしたいんだ! 野外でしたい系なんだ!」
とにかくむちゃくちゃな理由で、俺が立ち去ろうと立ち上がった時、今まで体を覆っていたマントが後ろになびいてしまった。
その結果、俺の全裸体があらわになってしまい、俺の股間もオープンになってしまった。
「うわああ! 君何で服着てないの!?」
ルークは真っ赤になって顔を背ける。
しまった。今の今まで自分が全裸だったことを忘れていた。
俺は瞬速で股間を隠した。
ルークは顔を赤くして黙り込んでしまった。
これはさすがに嫌われたか? ちっちゃいって言われたらどうしよう。
心も息子も立ち上がれなくなってしまう。
「グレン」
「……はい」
「そんな格好じゃ風邪引いちゃうよ! ボクのうちに来てよ。たしか、おじいちゃんが昔着てた服があったはずだから」
ルーク、一体どこまで優しいんだ……。
体中から涙が出そうだ。
しかし、やはりこれ以上関わるのはお互いのためにならない。
走ってでも立ち去ろう、そう考えた時
「ちょっと待て!」
突然声が響き、近くに立っていた木の影から、結構年のいってそうな男が現れた。
40代後半くらいか。体型は若干太り気味で、背は俺と同じ170センチくらいだ。
髪はベタッとした黒髪で、前髪は左右に別れている。
顔は、目だけはぱっちりとしていてきれいだが、他の部分がそれにともなっていなくて、若干不気味に見える。
なんだよこのおっさんは。
「カオル!」
ルークがおっさんに向かって叫んだ。どうやら知り合いのようだ。
もしかしてお父さん?
いや、呼び捨てだからそれはないか。
でも兄弟にしては年齢が……。
「ルーク! お前、さっきから聞いていたが、まさかそいつを家に招くつもりじゃないだろうな? いいか、そいつは魔物だぞ。いくらお前がお人好しだからって、それだけは幼なじみとして、許すわけにはいかないぞ!」
「待ってよカオル! グレンは……」
「待ってくれルーク。あいつ今変なこと言ってなかった? おさな……何?」
「ああ、グレン。彼はカオル。ボクの幼なじみなんだ」
ルークは、ただの太ったおっさんを手で差していった。
聞き間違いじゃなかった。
「は? 幼なじみ? いや……どっからどう見てもただのおっさんだろこれ? 全然なじんでねぇよ」
俺は思わず 心の声を全部吐露していた。
だって、いくらなんでも信じられない。
幼なじみというのは、幼少期(2,3歳くらい)の頃からともに育った家族以上恋人未満の間柄の者達を言うはずだ。
そして俺の中での幼なじみの定義は、最低でも歳の差±1が限度だ。
こいつはそれを遥かにオーバーしている。
「ルーク。お前は今、何歳だ?」
「ボクは16歳だよ」
俺はおっさんの方を向く。
「あんたは?」
「16歳だ」
「嘘つけ!」
「なんだと!?」
絶対に嘘だ。
明らかに40は超えている。
顔がちょっと老けてるし、肌に張りがないし、あとなんか全体的に悲壮感が漂っている。
こんな16歳、どんな異世界にも存在し得るはずがない。
「うそじゃないよ。カオルとは、小さい頃からのずっと一緒に育ってきたんだ。学校も一緒に通ったよ」
「まじかよおい。いかれてんのか」
「かつて、誓ったんだ。いつか必ず勇者になって、一緒に村を守ろうって」
「そりゃ勇者だろう。中々できないよ。いい年こいて10代の子達と一緒に授業受けるなんて」
むしろよく学校側が許したな。
大学とかならわかるが、ルークが行ってたっていうくらいなら小中学校くらいだろ。
この世界ではそういうのありなのか?
「おい! お前、魔物! さっきから俺のことをおっさんだとか幼なじみじゃないとか言って、俺達の絆を壊そうとしているが、そうはいかないぞ!」
今まで黙っていたおっさんが、我慢できないといった感じで話に割り込んできた。
「俺は誰がなんと言おうとルークの幼なじみだ! ルークもそう思ってるし、俺だってそう思ってる。ならそれはもう、幼なじみなんだ!」
「そうはならんだろ」
「だまれ魔物!」
なんだよこいつ……。
どう考えたって幼なじみじゃなくて、みじめなおっさんなのに。
「聞いてよ、カオル。グレンは、心の優しい魔物なんだ。カオルもきっと、話せばわかるよ!」
ルークは俺を必死に擁護してくれる。しかし、カオルは呆れたような顔で
「ルーク。お前はだまされているんだ。魔物は人をだます生き物だ。そいつを家に招いたが最後、お前は骨まで食い尽くされちまうぞ!」
その脅かすような口調はルークはちょっとビクッとした。
俺も正直怖かった。主に顔が。
歳を重ねた故にかもしだされる、凄みと狂気がそこにはあった。
「ぐ、グレンはそんなことしないよ」
「どうしてそんなことが言える? お前はこいつに出会ったばかりなんだろ? なんでそんな安全と言えるんだ? どうしてだ! さあ、言ってみろ!」
カオルは問い詰めるようにせまる。
こいつが言えたことじゃないと思うが、たしかに
それは一理ある。あんまり知らない男を家に招かないほうがいい。
なんでルークが俺をそんなに信用しくれるのか、正直わからんけど。
「うう……もういいよ。行こうグレン!」
「おおおい!?」
ルークは俺の腕をグイグイと引っ張って歩き出した。
「待て、ルーク!」
カオルも後ろから追いかけてきたが、途中で疲れたのか追いつけなくなり、そのまま姿が見えなくなった。
やっぱおっさんだろあいつ。
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