第4話 自立

「……悪かったね。私も少し調子に乗りすぎたよ。まさか、あれだけで達してしまうとは思わなかったけどね」


改めて冷静になった俺達は、元の位置関係に戻っていた。

フラマは相変わらず宙に浮き、俺はマントで股間を隠しながら、足を崩して正座していた。


「いや……」


正直、俺も足だけでイってしまうとは思わなかった。

前世でもああいうプレイはしたことない。

しかもあんな恥ずかしい体勢で無理やりに……もうお婿に行けない。

賢者タイムも合わさって、俺の心はボロボロだ。


「まあ、魔法は使えなくても、体はちゃんと魔王だから、大丈夫だよ。元気を出して」


フラマは慰めるように言った。


「いやだい……俺は魔法で俺TUEEEEしたいんだい……」

「そんな子供みたいなわがまま言うんじゃありません」

「……じゃあ、代わりに俺の童貞をもらってくれ。あんたが俺を卒業させてくれ」


俺はダメ元でそんなことを言ってみた。


するとフラマは


「いいよ」

「いいの!?」

「その代わり、私以外では一切興奮できない呪いをかけてしまうかもしれないけれど」

「えぇ」


重ぉ。

独占欲強すぎだろ。


「まあ、私と君はどちらかと言うと、親と子の関係に近い。これからの関係のためにも、肉体的な接触は避けたほうがいいと思うよ」


我が子を足でイかせる親がどこにいるんだ……。


「仕方ないじゃないか。君の態度が私の加虐心をくすぐったんだから」


フラマはちょっとむくれながら言った。

一体どっちが子供なのか。


「そういえば、俺はまだ転生したばっかだから、赤ちゃんてことだよな? 俺とあんたが親子の関係ってんなら、親は子供の面倒を見るべきだ。だって俺はまだ赤ちゃんなんだから。さあ、俺の面倒を見てくれ。俺を養ってくれ! さあ、さあ!」


俺は仰向けに寝転びながら、フラマに向かって叫んだ。


「……君さあ、前世ではもう成人一歩手前だったんだろ? そんなこと言ってて恥ずかしくないのかい?」


なんでそんな悲しいこと言うんだ。

泣くぞちくしょう……。


「それにせっかく転生したんだから、こんなところで私に絡んでないで、外に出なよ。前世は引きこもりだったんだろ? もしかしたら、友達とか恋人とか、すぐにできるかもしれないよ?」


そんな簡単にできたら、前世で苦労はしてねぇ。


「ほらほら、もう自立する時間だよ。親の手を借りずに、一人で生きていくんだ」


そう言って、フラマは俺を無理やり立ち上がらせ、押し出すように部屋の外へと歩かせる。


「早すぎる! 生まれてすぐ自立は早すぎる! まだお○ぱいも飲んでな……」


そうして俺はほぼ全裸のまま、見知らぬ世界へ放り出された。


ちくしょうあの魔神、なんてやつだ。

勝手に転生させておいて、説明もなしに全身真っ赤だし、おしめも履かせてくれないなんて。


俺はふてくされながら、外の景色を見た。

眼前には、広大な草原がどこまでも広がっていた。

世界の車○からに出てくるヨーロッパの田舎のような、のどかで美しい光景。

かつてシティボーイだった俺には、ものすごく新鮮な風景だ。

空も晴れていて、穏やかな陽気が気持ちいい。


外に出て気づいたが、今まで俺がいた部屋は、どでかい城の一室だったようだ。

それも廃城だ。古びた西洋風の、それこそ魔王が住んでそうな城。もしかして、フラマはここに住んでるのか?

そしてその後方には、今まで見たことがないような超巨大な山が二つそびえていた。


「とりあえず……」


あたりを見渡す。

人が住んでそうなとこはないかと探していると、城から見て西の方角に村らしきものがあった。

目を凝らすと、村の中にじじいのようなものが見えた。


ハゲのじじいだ。


しかし、完全なハゲではなく、頭頂に二本、いや三本ほど取って付けたような寂しい毛が残っている。


「おお……」


まさかじじいの毛の数まで見えるとは。元々視力が0.8だった俺には考えられないことだ。

どうやらフラマの言っていたように、この体はそれなりに常人を超えたもののようだ。


さっきM字開脚した時も、ガバガバに開脚できた。


そうだ。ポジティブに考えよう。

前世で俺は20歳を前に、童貞を卒業できず死んでしまい、そしてこの世界に転生した。


だがそれは逆に考えれば、20歳でニートの童貞を迎える前に転生して生まれ変わったことで、その最悪な結末を先延ばしにできたということだ。

まだ俺は0歳の赤ちゃん。童貞を恥ずべき歳ではない。

さらに、魔王だ。魔王なら、魔法を使えずとも童貞を卒業できるチャンスはいくらでもあるはずだ。


そう、これはチャンスだ。

フラマが俺に与えてくれた、人生をやり直し、童貞を卒業するチャンス。


ならば俺は、今度こそ童貞を卒業してみせる!

そしてあわよくば、俺TUEEEEもさせてもらう。


「よし、あの村に行ってみるか」


俺は強い決意を胸に、村へ向かって歩き出した。

もしかしたら、村のお姉さんとかが俺の童貞をもらってくれるかもしれない。

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