第3話 うぶ声

「なあ、俺は魔王になったんだよな?」

「? うん」

「魔王は最上級の肉体と、強大な魔力を持つ……てことはつまり、最強ってことだよな?」

「そうとも言えるね」

「つまり、俺は最強になったってこと??」

「そういうことだね」

「よっしゃあああああああああああ!」


いよっしゃあああああああああああ!


俺は心の底から「よっしゃあ」が出た。

これまでの「よっしゃあ」の中で最も「よっしゃあ」な「よっしゃあ」が出た。

なんてこった。つまり俺は、俺TUEEEEEEが出来るようになったってことか!


魔法とか使ったりして、「……今のはメ○だ」とか出来るってことじゃん。

そんなん最高じゃん。

まじ神に感謝。苦労してくたばったかいがあったぜ。


「そういうことなら大歓迎だ! 魔王でも大魔王でも、なんにでもなってやる! この俺が、世界を支配してやるぜ!!」


俺は堂々と啖呵を切り、マントをたなびかせた。


「おお、言うねー」

「それじゃあ早速魔神よ! さあ! 俺を俺TUEEEEEEさせてくれ!」


思えば俺は前世では他人に勝ることが何もなかった。

だがもう違う。

今日から俺も俺TUEEEEEな人達の仲間入りだ。


「俺つえー出来るかどうかは分からないけど……魔法が使いたいんだね?」

「おう!」

「じゃあまず、そこの床に両足を両手で抱えながら、仰向けに寝そべってくれるかな?」

「おう……?」


俺は疑問に思いながらも、言われた通り、地面に寝そべり、足を両手で抱えてM字に開脚する。

俺の息子がおっぴろげになった。


「それで……次はどうするんだ?」


するとフラマは俺の股間のあたりを見ながらフッと笑った。


「ずいぶんと可愛い魔王様だねぇ」

「なっ!」


フラマは口を手で抑えながら、ふふっと笑う。

俺は恥ずかしくて顔から火を吹き出しそうになるのをこらえながら、


「あの……次は……」

「ああ、魔法だったね。悪い悪い。じゃあ、そのまま気合を入れて、『ステータス・オープン』と言うんだ。そうしたら魔法が使えるようになる」


なるほど……お決まりのやつだな。

異世界転生はやっぱこうでなくちゃな。

よし。


「『ステータス・オープン』!」

「違う。もっと大きな声で」


結構出したんだけどな。

仕方ない。全力で行くか。


俺は腹筋に力をこめ、飛び出しそうなほど目をかっぴらきながら、全力で叫ぶ。


「ステータス・オオオオオオオオオオオウプンンンンンンンンンンンンンンンンン!!!!!」


アホみたいにでかい声が、部屋に響き渡る。


しかし、いつまで経ってもステータスはオープンしなかった。

オープンしたのは俺の息子だけ。


「ねえこれどういうこと!?」


俺は、M字開脚したままフラマに叫んだ。


「どういうこと? これねえどういうこと!? 全然ステータスオープンしないんだけど!! 魔神さんこれどういうこと!?」


フラマは腕を組みながら小首をかしげる。


「う〜ん。どうやら、君にはステータスオープンの才能がないようだね」

「は!?」

「なんていうか、ポテンシャルが低いんだろうなぁ、たぶん。低学歴のせいかなぁ」


何を言ってるんだこいつは?


異世界転生に学歴が関係あるのか? 最低高卒以上とかあるのか?

たしかに俺は中卒だが、字くらいは読めるぞ!

つーかステータスオープンの才能って何だ!


「ふざけんじゃねえ、魔神! おい! 早く俺に俺TUEEEEEをさせろ! 今すぐにさせろ!」


俺はM字開脚のままわめいた。


「おやおや、そんな矮小なものをぶら下げておいて、ずいぶんと生意気な口を聞くね。それも君の創造主たるこの私に」

「うるせえ! 創造主だろうが早漏だろうが知ったこっちゃねえ! 早くしろ!」

「ふふふふ……これは少し、お仕置きが必要かな?」


そう言うと、フラマは床に降り立ち、コツコツと歩いてきて、俺の無防備ないちもつをグリッと踏みつけた。


「ぎゃあああああああああああああああああ」


あまりの激痛に、俺は悲鳴を上げた。


「ほらほら、どうだい? そんなみっともない格好で、自分のものを惨めに踏みにじられる気分は」


フラマは嘲るような笑みを浮かべて俺を見下ろしながら、俺のいちもつをヒールの踵でグリグリと踏みにじる。


「く、くそっ……」


俺は、羞恥心と屈辱感で頭がいっぱいになり、怒りで体が震えた。

しかし、その一方で、快感を感じている自分がいることに気づいた。

悔しいはずなのに、恥ずかしいはずなのに、この状況に興奮している自分がいるのだ。

いや、むしろこうして羞恥と屈辱を受けるたびに、快感が増していっている気がする。


ーー何なんだ。

一体何なんだ、この感情は……!


「? おやおや? こんな無様な姿を晒しておいて、興奮しているのかい? 全く君はとんだ変態魔王だね。ここかい? ここがいいのかい? ほらほらほらほら!」

「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア……あっ」

「ん?」


血にまみれたような赤い体とは真逆に、俺の息子はホワイトアウトした。

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