第2話 説明

え〜と……何だっけ。

何……エロス?


「フラマクルス。フラマでいいよ」

「おお……」


唐突に現れた自称魔神の美女フラマは、宙に浮きながら俺に向かって、ちょっと怖い微笑を放っていた。

あれ? 今、俺声に出してなかったよな?

さっきもそうだったが、もしかして、思考を読んでいるのか?


「読んでるよ」


読んでた。わけがわからん。

そういえば、魔神とか言ってたな。

そういうこともできるのか。


「じゃあ……その、フラマ。一体俺の身に何が起きてるんだ? 俺は、死んだんだよな?」


俺はまず、根本的な疑問を口にした。


「うん、死んだよ。不慮の事故で、惨めな最後を遂げたようだね。童貞のまま」


ああ、やっぱそうか。

結局俺は、童貞を卒業できなかったのか。

分かってはいたが、結構ショックだな……。


「私は、そんな哀れな君の魂に新しい体を見繕い、この世界に転生させた。最上級の肉体と強大な魔力を持ち、至高の位を冠する魔物たちの王、魔王としてね」


おぉ、なんか急にすごい話になったな……。

つまり俺は異世界転生したわけか。最近ちょっとすたれ気味だけど、まだまだ勢いのある、あの。


でもこれ、ホントに転生なのか?


ぱっと見た感じ、俺の体は色以外前と変わってないし。

でもまあ、俺が出てきたあの球体、あれは何か、卵みたいにも見える。性質は殻じゃなくて、どちらかというと人の皮膚みたいだが。

それにこの魔神、フラマも転生だって言ってるし、多分転生なんだろう。


それにしても。


「なんで魔王なんだ?」


するとフラマは顎に手を当て、考えるような素振りをした。


「それに関しては、話すと少し長くなるんだけど……実は今、この世界はちょっとした危機に陥ってるんだ」

「危機?」

「本来なら100年に1度しか誕生しない魔王が、何故か大量発生してしまってね。魔王を倒すのは勇者の役目なんだが、いかんせん数が多すぎる。だからこの世界の神は、別の世界から転生者や転移者を呼び出し、勇者としての力を与え、魔王達を討伐しようとした……まあ、結果はあまり著しくなかったけどね」


なるほど。大体読めたぞ。

だから俺はこの世界に……いや、ここは心を読まれる前に、ちゃんと口に出してビシッと当ててやろう。


「つまり、俺はこの世界を救うために転生したってことだな!」

「違うよ」


あれぇ?


「世界の存亡とか、そういうのは私にはどうでも良くてね。魔神だし。ただ、神が転生とか転移とかさせてるのを見て、私もやってみたいな〜と思って、ノリで君を転生させてみたんだ」

「ノリで!」


ノリで俺は転生させたのか! しかも魔王に!

やばくないか、この魔神。


「というわけで、君にはこれからその大量発生した魔王達を全員蹴散らし、世界を支配したうえで、魔王達の頂点、すなわち大魔王にでもなってもらおうと思ってる。別にそんなことする必要はないんだけど、せっかく転生して何もしないんじゃ面白くないからね」


何か、とんでもないことに巻き込まれてしまった気がする。

この魔神、明らかに世界滅ぼす側だよな?

こんなのの言うとおりにしていいんだろうか。

また即死ぬような気がするんだが。


まあ、いいや。

とりあえずそれは置いといて、最初の問題に戻ろう。


「つまり、俺は人間じゃなくなっちまったってことだな?」

「…………そうだね」

「じゃあ、この体が赤いのも、それと何か関係があるのか?」

「……」

「いや、俺の肌の色は、元々普通の……いや、普通とか言っちゃだめか。なんというか、こう、黄色とオレンジがまざったような、地味な感じの……地味とかじゃないか。とにかくそういう色だったんだ。今こんなに真っ赤なのは、魔王であることと、何か関係があるのか?」


おそらく、関係があるんだろう。魔王って大体、体赤いし。

フラマの髪も赤いし、それも関係してるのかもしれないな。

さすがに警戒色すぎてチェンジしたいが……でも俺は一度死んだ身だ。贅沢は言ってられん。

こういう色だと受け入れて、童貞を卒業するしかない。


と思ったが、フラマはしばらく黙って俺の顔を見ていた。

まるで何かを探るようにまじまじと。

そして、フッと薄く笑みを浮かべた。


「さてね。何でだろうね?」

「は?」


フラマは、それ以上何も言わない。

空中で頬杖をついて、ニヤニヤといたずらな笑みを浮かべながら俺を見下ろしている。

その嘲笑ともとれるような笑みに、何故だか分からないが、興奮した。


いや、ほんとに何で赤いんだ? 魔王だから、とかじゃないのか?


しかし、どうやらこの顔を見るに、俺のあそこが赤い理由は教えてくれないらしい。

仕方ない、それは後で考えるか。洗ったらおちるかもしれないし。


「……あ!」


その時、俺はとんでもないことに気がついた。

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