第一章 旅立ち
第1話 誕生
熱い。体が熱い。燃えるように熱い。というか燃えている。
体全体が激しい炎に包まれて、燃えている。
「アアアアアアアアアアアアアアアアア」
股間が熱い。バーベキューの網の上で焼かれているみたいに熱い。高級レストランの鉄板の上に押し付けられてジュウジュウ焼かれてるみたいに熱い。
熱い、熱い、股間が熱い!
「アヅァァァァアアアアアアアバババ!? ゴボゴボゴボ!」
と思ったら、今度は水の中にいた。
苦しい! 息ができない!
「ゴボボボボ!」
俺はとにかく上に上がろうと、手足をジタバタと暴れさせる。
すると俺の手に、何か薄い膜のようなものを破いたような感触があった。
次の瞬間、俺の体は大量の水とともに放出され、どこかの地面に投げ出された。
「ゲホッゲホッ……おええ」
口の中にある水を全力で吐き出す。
くそ……最悪だ。
この液体、めちゃくちゃネバネバしてやがる。口の中が気持ち悪い。
体もローションぶっかけられたみたいにベチャベチャだ。
何なんだ一体……。
目を凝らして、俺が液体とともに流れてきたであろう方向を見ると、そこには謎の球体があった。
薄い膜のようなものでできた、直径2メートルくらいの巨大な球体。
その巨体は、下半分から伸びた筋肉の繊維みたいな赤い糸で地面に固定されながら、俺の目の前にたたずんでいた。
真ん中には切れ目が入っていて、そこから謎の液体がドロドロと溢れ出ている。
どうやら俺は、この中から出てきたようだ。
「何だこりゃあ……」
人間の臓器……いや、キ○タマ袋みたいな物体だ。
切れ目の隙間から、石でできた何かの造型物が入っているのが見える。
何で俺はこんなものの中に入ってたんだ?
てゆーか、どこだここ?
あたりを見回す。
薄暗くてよく見えないが、床にはガレキやなんかが散乱していて、ちょっとホコリっぽい。
遠くに壁のようなものが見えるので、おそらくここは、どっかの広めの部屋だろう。
全く見覚えがない。
いや、もしかして、ここは天国か?
そういえば俺は、あの時死んだはずだ。
車にめちゃめちゃはねられて、体や手足がぐにゃぐにゃになって……それで童貞を卒業できずに、死んだんだ。
だが、俺は今ピンピンしている。
体はどこも痛くないし、手足だって普通に動く。
息子だってビンビンじゃないしふにゃふにゃだけど、とっても元気……いや……まて。
元気じゃない。
俺は自分のあそこを見て驚愕した。
真っ赤だ。
俺のあそこが、まっかっかだ……。
「え……これ……ち、ちん、血……?」
それはまるで、血まみれのアメリカンドッグだった。
うそだろ……たしかにめちゃめちゃ洗ったけど、血が出るほどこすった覚えはないぞ。
うわああ、痛々しい……俺のあそこが……うわああ。
俺は恐る恐るいちもつを触ろうとする。
「…………!?」
そしてまた驚愕した。
いちもつを触ろうとする、その手までも真っ赤だったからだ。
いや、よく見ると、足も赤い。
俺はとっさに、自分の姿を映せるようなものをさがした。
鏡……いや、ガラスでもいい。何か……。
すると、何故か近くに姿見があった。
俺は前に立って、そこに映るものを見た。
鏡には、全身赤色の男が映っていた。
頭から足のつま先まで、赤いペンキを被ったように真っ赤だ。つんつんに尖ったオールバックの髪も、カッと開いた瞳の色も、情けなくぶら下がったいちもつまでも。
全てが真っ赤だった。
「な、な、なんじゃこりゃあああああああああああああああ」
鏡に映るその血まみれのような赤い体とは真逆に、俺の頭は真っ白になった。
どういうことだ。わけがわからない。
何で俺の体はこんなことになってるんだ?
俺はゴシゴシと体をこすって、色を落とそうとする。
しかし、鮮やかなその赤色は、これがお前の真の肌の色だってくらいにまったく落ちない。
俺はもう一度鏡を見る。
そこに映る自分は、やはり赤かった。
まるで、地獄に堕ちた悪魔のように。
……もしかして、俺は地獄に堕ちたのか?
これは仮説だが、あの時、俺は車にひかれた後、死ななかった。
そして、何らかの方法を使って、童貞を卒業した。
その結果、俺は何らかの罪を犯し、地獄に堕ちた。
体が赤いのは、童貞を卒業した代償だ。
うん……めちゃめちゃな仮説だが、合ってるような気がしてきた。
そう考えると、全て辻褄が合う。
そういう罪を罰する地獄もあるというし。
そうだ。きっとそうに違いない。
俺は、童貞を卒業したんだ。
悲願をついに達成したんだ。
やった……やったぞ!
俺はこれで非童貞だ!
「君はまだ童貞だよ」
「!?!? 誰だ!?」
突然の水をさすような声に俺は驚き、声を上げた。
「こっちだよ」
頭上から声がする。
見上げると、赤い髪の、ものすごく悪そうな美人の女が宙に浮きながらこちらを見下ろしていた。
女だ! まずい! 女だ! 俺は童貞だ! まずい!
俺が完全に動揺していると、女が
「女性と喋るのに、童貞かどうかなんて、関係ないんじゃあないかな?」
と、ささやくように言いながら、フワフワと降りてきた。
その言葉に正気に戻った俺は、混乱しながらも女を恐る恐る、舐めるように見た。
肩まで伸びた、どす黒い血を思わせるようなワインレッドの髪に、美しく整った顔。
髪と同じように赤く暗い輝きを持った目は、見ていると吸い込まれてしまいそうになる。
服装は、真っ黒な貴族風のコートに身を包んでいる。黒くてタイトなパンツに包まれた太ももは、ぴちぴちっとしていて、見ていると俺の股間もタイトしそうだ。
そして、巨乳。おそらくE……いや、F……なのか?
2つの巨球体が、コートの胸元をはちきろうとしている。
一体何なんだ、このどえろいお姉さんは……。
「はじめまして、柳田小太郎くん。私の名前はフラマクルス。君の肉体を創造した、魔神と呼ばれる存在だよ。そして、誕生日おめでとう。君は今ここに、魔王として新たな生を受けた。私は君を、祝福するよ」
いきなり現れたその女は、俺の肩に赤いマントをヒラヒラとかけながら、聖母のように微笑んだ。
しかし、俺には何故かそれが、悪魔の微笑に見えた。
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