徴税艦隊!外伝

外伝-001話-① サイトー 怒りの突撃/バカ野郎!納税義務果たせこの野郎!

 帝国暦五九〇年某月某日〇九時三二分

 東部軍管区 オル・ド・サム自治共和国

 首都星アージヌス衛星軌道上

 装甲徴税艦カール・マルクス

 第一会議室


「えー、現在当該惑星センターポリス税務署が、デモ隊により占拠されているという通報を受けたわけですが……」


 斉藤がメインモニターの画像を切り替えた。偵察用の無人機による航空写真だ。


「凄い数ですね……」


 セシリア・ハーネフラーフ監理部長の溜息混じりの声に、全員が溜息を吐いた。


「で? 何が原因でこんなことに?」


 タバコに火を付け、週刊メインセイル――公営ヨットレース専門紙――に目を通し始めた永田は、興味が無さそうに聞いた。


「発端はオル・ド・サム自治共和国議会の野党最大勢力、アージヌス騎士団の呼びかけだったようです」


 斉藤も目にするのは初めての政党だった。帝国中央政府の上院、下院とは別に、各自治共和国や領邦国家にも議会――俗に地方議会と称される――はあり、主立った議員は中央政府議会に議席をもつ国政政党の会派に属するのだが、所謂地方議会地域政党も無数に存在する。アージヌス騎士団もその一つだった。


「何その時代がかった名前。騎士団? 今時?」


 古風な響きに若干興味を引かれたのか、永田がヨットレース誌から顔をあげて斉藤に目を向けた。


「帝国も大概だと思いますが……名前は騎士団といいますが、見たところ左派ポピュリスト政党ですね。帝政から共和制への移行、国民負担ゼロ、自治共和国の完全独立、帝国軍および治安維持軍駐留部隊の即時退去、中央政府との貿易関係および関税見直し――よくまあ公党として議席を得てますね、これ」

「ま、国民目線と言っときゃ一定数支持者は付くもんだよ。で? そこの義和団だか応援団だか護送船団だか知らないけど、何したの?」

「彼らの主張としては、帝国中央政府並びに自治共和国政府は国税を私腹を肥やすことに費やしている、マルティフローラ大公らを見るまでも無く、我々の納税した金を貪る犯罪者集団だ、と」


 税務署を占拠した集団の声明を要約した斉藤に、永田は手を叩いた。


「おー、ごもっともなことじゃない。言っちゃえ言っちゃえ」

「局長」

「あ、はい……斉藤君、続けて」


 永田の横に座るミレーヌ・モレヴァン総務部長の冷たい声に、永田は肩をすくめた。


「まあともかく、諸々の事象は我々星系市民にとって看過できず、直ちに我々市民は納税を拒否し、独立すべきだと、まあそういうところです」

「それはクーデターでは無いか!!!」


 斉藤が結論を読み上げたところで西条が激怒して叫んだ。全員が防音対策をしていなければそこで気絶していただろう。


「ええ、まあ、そうなんです……が、主張してるのがとりあえず納税拒否なわけで、しかも制圧されたのが政庁でなく税務署で、現地警察も攻めあぐねているというかヤル気が無いというか……面倒ごとをこちらに押しつけてきたようですね。そもそも当該自治共和国は元々反中央思想の強い土地柄ですから」


 自治共和国は首相は官選首相だがそれ以外の閣僚や自治政府官僚は現地登用が多い。オル・ド・サム自治共和国もその例に漏れない。


「で、税務署側から出動要請を受け、六六六に定める国税施設保護を目的とした出動が下命されたってわけ。どうせなら防衛軍とかもまとめて蜂起しててほしかったんだけどねえ」

「局長」


 今度は斉藤が永田に冷たい視線を向けた。


「はいはい……まぁ、ともかくだ。パパッと済ませてちゃっちゃと税務署開放しちゃお。斉藤君、頼むよ」

「はっ!」


 

 〇九時四五分

 巡航徴税艦ヴィルヘルム・ヴァイトリング

 徴税特課 オフィス


「ゲルト、どう?」

「気が進まないわねぇ、デモ隊の排除って手間が多いのよ。怪我させたら後から賠償だなんだと五月蠅いし、反政府テロ集団とか混ざってたらその場でケリ付けないと公安が五月蠅いし……ロード・ケージントンなら詳しいのかな」


 ぶつくさと文句を言いながら作戦計画を立てているゲルトに、斉藤はコーヒーを差し入れた。


「オル・ド・サムにはそこまでヴィシャフラなどは浸透していないから、好きにすればいい」


 紅茶を飲みながら優雅に読書をしているロード・ケージントンは、あまり今回の案件に興味は無さそうだった。


「しかしこれで何件目だ? 局長達も小規模案件だと最近こっちに割り振るけど……」


 帝都での動乱以来、斉藤達徴税特課には実務四課から派遣された強襲徴税艦がそのまま割り当てられ、本体とは別行動出来る小艦隊を構成していた。それをいいことに、大規模案件以外のこうした小事は特課に丸投げされることも多い。


「永田文書公開以降、類似の事件は六五件。うち二〇件はうちで制圧。警察も何だか及び腰だね」


 ソフィが事務処理の片手間に斉藤に答えた。


「まあ、国税施設保護となれば出ないわけにもいかねえし。殺しはするなって仕事は手間が掛かって面倒なんだよなあ」


 渉外係長のマクリントックは、ビーフジャーキーを口に咥えたままヤル気が無さそうに呟いた。


「お、渉外係長らしからぬ過激な発言ですなあ」


 半笑いで茶々を入れたアルヴィンに、マクリントックが肩に手を回す。いつものじゃれ合いの始まりである。


「アルヴィン、てめえは気楽でいいよなぁ。ええ? 電源落とすぞこのやろ」

「あっ! パワハラですぅそんなこと言っちゃダメですぅ。人事院の相談窓口行ってきまーす」

「どこの世の中がサイボーグのパワハラなんて取り扱うんだよ! いいから黙ってサンドバッグになってろ平局員」

「あっ、権力振りかざしていい気になりやがってこの野郎。NOTEに垂れ込むぞこんにゃろ」

「おーういいじゃねえかやってみろよコンチクショウめ」


 飛び交う言葉自体は物騒だが実際には暇つぶしのお遊びであり、特課では日常茶飯事である。


「アルヴィンさん、マクリントックさんもいい加減にしてください! 特にマクリントックさんは渉外係長でしょう。いちいちアルヴィンさんの軽口に反応しないでください」

「……斉藤、お前大人になったな。うちに来てアタシのコトフ〇ックしていいぞ」


 真剣な表情で言うマクリントックに溜息を吐いて、斉藤は首を振った。


「いりません、あとセクハラですよそれ」

「硬いこと言うなって~、アッチは硬くしてくれてもいいけど」

「ホントにセクハラで通報されたいんですか?」

「ジョークだよジョーク」

『あー、お取り込み中すみませーん。まもなくセンターポリス税務署上空ですー、そろそろ降下準備をよろしくお願いしますぅ』


 ヴィルヘルム・ヴァイトリング艦長で課長補の不破凜ふわりんが、笑いを堪えるような声で報告した。


「了解……全部聞こえてるんですか?」

『モチのロン、丸聞こえ、筒抜け、アッパッパーです。いやあ、特課の母艦になってから私楽しくてしょうが無いんですよねえ、あっはっは』


 根明、楽天家、それでいて有能。斉藤の不破艦長に対する評価は概ねその通りだが、先の会話を全部聞いてその感想か、とやはり特徴局に染まりきった人材だと再認識した。


「……総員執行準備! 渉外係長以下、渉外班は丙装備。ゲルト、ソフィ、アルヴィンさんは僕と同行。ハンナさんは艦橋でバックアップを。いざとなったら六六六発動で武力制圧しますが、対象が民間人であることから対応は慎重に。発砲は特課長許可を待つこと、総員かかれ!」

「「「はいっ!」」」


 斉藤の号令に全員が仕事モードに切り替わり、ひとまずはこの面倒な任務を処理するために動き出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る