開裂
「たしか、その後に結局合流して面接試験でしたね。」
「おお、よーく覚えてるぜ。なんせ俺にとっちゃつい数時間前のことなもんで」
グラサン男が額から血を流し、事務所の机や棚は倒されていた。少年は座り込むグラサン男の前に立ち、少女の肩からは普段の腕の他に二対の金属の腕が生え、脇腹や脚部の一部の生体膜が剥がされ、銀色の機構部が覗いていた。
「まさか、女の子の方が
フル装備の人物が六名、殺害されていた。そして、金属の腕は男の首を捉えていた。
「では、トオル博士について知っていることを話してください。」
「んなことしなくても喋ってたよ……」
「いいから、はやく。」
機械の腕が力を強める。
「っぐぅ……わかた、から緩めろ……」
* * *
彼は優秀な研究者だった。たしか熱力学を専門としていたはずだ。どっかの大衆向け科学雑誌に研究内容が載るくらいには有名だった。
最後に会ったのは二年前だ。その頃、俺は職を転々としていた。たまたま馴染みの飲み屋で会ったんだよ。会話は他愛のないもんばかりだった。でも、あいつの研究欲というか、取り組む課題に向ける熱意とかは、かつてと変わらなかった。
その頃、あいつが取り組んでいたのは時間概念への挑戦だった。時間とは一体なんなのか、それを研究する途中でできた副産物、別次元への干渉の可能性……色んなことを聞いたよ。そして、封筒を貰ったんだ。『いわば玉手封筒だ。とっとけ』ってな。その三日後に、トオル博士は失踪した。
その報を聞いて、俺はその玉手封筒とやらを開けた。中には説明書、みたいなものが入っていて、それきりだった。その夜、俺のところに小包が届いた。差出人はトオル、中身は
あいつの研究成果の一部が世の中に知れ渡り、異界への干渉理論が急速に実用化された。理由は資源の枯渇と環境汚染の捌け口の模索だろう。俺は切り札であっという間にシェアのトップに立った。
* * *
「それきりだ。もう他には想い出話くらいしかない。その断片はお前らが見てきたはずだ」
「……そうですか。」
少年は無表情のままであった。
「離していいですよ。」
グラサン男は解放され、息をついた。
「ほらよ」
男は少女の腕に
「次の行き先はお前らのとこだ。間もなく開く。それで帰れ」
「わかりました。お世話になりました。では、それを寄越してください。」
少年は少女に手を差し伸べる。
「断る」
少女の腕が
「僕は帰りたくない、もう」
少年は無表情で少女の機構の操作を試みた。
「!?」
金属の腕は少年の頭と胴体をねじ切った。
「な…………」
それだけ遺して少年は息絶えた。その肉体は、ごく普通の人間であった。
「わざわざ、僕の身体を復元してまで、僕を彼女にしてまで、何がしたかったのか……わからない」
少女は振り向き、グラサン男の方を見た。グラサン男はニヤリと笑って、言った。
「お前、トオルだろ。よく帰ってきたな」
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