神は■■たる開放系
「ようこそ、我が社へ!」
「歓迎されています? これ?」
少年と少女が、フル装備の警備員二人に挟まれて、机の前に促される。正面にはサングラスの男が居丈高に座る。
「間違いなく歓迎されているとも。君たちのことを待っていた」
「待っていた、と。」
「そう」
サングラス男は足を組み替え、組んだ両手に顎を乗せる。
「倍率、実に三十倍を超える我が社で働いてみてはみないかね」
少年は目を細める。
「嫌です。」
「よし、まずは社内案内を……ってえええええ⁉⁉⁉」
グラサン男は例のポーズを崩して思わず立ち上がる。少年はそれを冷めた目で見ていた。
「現実的なことを言えば、異邦人保護の意識すら存在してないこの世界に身を投げるのは自殺に等しい。君たちの命運は割と俺が握っているんだぜ?」
倒した椅子を直しながら、グラサン男は座り直す。
「もし、我々が拒んだらどうなりますか。」
グラサン男はニヤリと笑う。
「拒まない。故にその仮定は成立しない。こちらには切り札がある」
少年の眉がピクリと動いた。
「切り札、といいますと?」
「いやぁ、ここ最近になってなんだがね、異界ベンチャーの波がきてるのさ! 多次元平面を超えた物品や様子が価値として取引される、ワクワクするだろ!」
ニマニマが止まらないグラサン男に対し、少年は無表情である。
「そんな企業狂騒において我が社が業界トップを走り続けるその秘訣、ご覧にいれましょう、未来からの遺物『
バーーン‼ という幻聴と共に、机の置時計が指し示された。
「いくつか質問いいですか。」
「おうよ」
「まず、あなたはこの『イヤヌア』とやらを『未来からの遺物』と称しました。そこの説明をお願いします。」
「トオル博士、はご存知かな?」
「!?」
少年の眼が見開かれた。少女にとって、それは今までに見たこともない表情であった。
「この時計、語るところは多くあり過ぎる程なんだが、まず一つ目! こいつは『未来から過去に時間軸を移動』している‼」
「それは時計の針が逆回転しているだけでは。」
「ふっふっふ……自分の興味がはぐらかされた不快感を隠しもしないとは、おにいさんビビっちゃうよ……」
少年の睨みをかわし、グラサン男は続ける。
「とまあ、ね。細かい実験は省くが、こいつは過去に遡り続けていることがわかった。こいつは未来から過去に正常に機能する時計、俺達からみれば反時計回りの時計」
コホンと一息ついて、続ける。
「で、この『
「そう、トオル博士は何者なのですか。」
「恐ろしく速い食いつき、俺でよければ見逃してほしいぜ……ここでもう一つ、こいつの機能が関係してくると思われる」
少年の眼圧に負けた。
「こいつは異界への扉を示す重要な手掛かりだ。未来に従って、つまり『
「それは、私たちがここにいるのも?」
「ザッツライト、吞み込みが爆速で助かる」
指を鳴らし、少女に向かってウインクを決める。ただしグラサンで見えない。
「それに俺には君たちにやってもらうことを〝知っている〟」
「なるほど。」
「それをしてくれたらトオル博士について教えてやらんでもない」
「それで、あなたは何者なのですか。」
グラサン男はニカッと笑った。
「株式会社ニューミアム代表取締役社長にして、八森トオルの同級生、橋野アツシだ」
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