第27話
彼のことを忘れ去るべきなのだ。ただあなたを捨てるだけでは飽き足らず、あんな置き手紙まで残して、一生解くことのできない呪いをもたらした男のことなど、思い出すべきではない。たとえそれが双子の弟であったとしても。熱に浮かされた頭が、ふだんなら思いもよらない考えをあなたに突きつけた。それとも、これはあなたが自分でも知らないうちに抑えこんでいた願望だとでもいうのだろうか。
いずれにせよ、冷静な判断ができないこの状況で、彼に対する憎悪と紙一重の愛情があなたの心の最も大切な部分を侵蝕しつつあった。
彼のことを思い出すから苦しんでしまう。彼にいつまでもとらわれているから、ほかの誰かにすがるしかなくなる。そのことをあなたは理解していた。今回のことにしてもそうだ。憂希を危険な賭けに巻きこんだのは、憂希を生け贄に捧げてあなたがたの愛の永遠性を確かめるためだとばかり思っていた。彼の面影を憑依させた別の男に愛されることによって、擬似的に彼を愛し続けること。それこそが遠くにいる彼に対する最大限の愛情表現であり、あなたの魂と精神の均衡を保つために必要な処方箋なのだと考えていたはずだった。
しかし、あなたは彼の面影を憂希に憑依させることに失敗し、それどころか憂希を憂希として愛そうとさえ試みたのだ。憂希に抱かれてもなお彼の幻があなたの心のなかに留まっていると知ったとき、あなたが感じたのは安堵ではなく絶望だった。
あなたは彼を、あなたのなかから追い出したがっているのではないか。
彼のことを探していると言いながら、心の底では彼が見つからないことを望んでいるのではないか。
そんな疑いがふと頭をよぎった。
アルコール欲しさにもういちどフロントに連絡を入れようとしたとき、先に電話機のベルが鳴った。
「お休みのところ申し訳ございません。お客様との面会をご希望の方がいらっしゃいます」
フロントの男は病気のあなたを気遣ってか、声のトーンをいつもより落として話した。
「面会って、いったいどなた……」
「
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