第5話 縛りの意味


 OOOのサービス開始から一週間が経ち、私は基本スキルを、美紀はそれに加えてある程度の上位スキルも着実にレベルアップさせることに成功していた。私たちが街中で叫んでしまった事件は少しだけ界隈を騒がせたが、結局その後何も進展がないことで今となってはほとんどの人が忘れることとなっていた。


 そんな中、ついにOOOの攻略サイトに私たちが望んで止まなかったページが追加された。それはオーダークエストに記載されていたアストラルオークに関するページで、そこにはこう書かれていた。


『名称:アストラルオーク 属性:自然

 概要:オークの森の深部に住む、属性魔法を駆使する中ボス。自然属性のため、打撃攻撃が有効。また、広範囲すぎてほとんど回避不可能な魔法攻撃を用いるので、バリアーを習得ているかどうかで攻略難易度が大きく変わる』


「やっぱりバリアーかぁ……」


 そう呟いたのは、私の隣にいる美紀だった。


「バリアーって上位スキルだったよね?」

「うん。盾スキルのブロックの上位スキルだね。私は持ってるけど……」

「私はダメだねー」


 がっくりと肩を落とす。

 だが、おそらくこのオーダークエストの縛りと目的は、このことを想定してのものなのだろう。簡単にはオーダースキルを取らせないぞという運営の意志を、ひしひしと感じることができる内容だった。


「まあ、やるかないでしょう!私もいるし!」

「うん……ありがとね」


 OOOでは、通常モンスターは一定のステータスで固定されているのに対して、ボスモンスターは挑戦するパーティー毎にステータスが変化する。もちろんそれはソロならば一番弱く、そこからパーティー人数が増えるごとに比例してステータスが強化されていくという仕様だ。なので、当然今回は私一人で挑むよりも美紀と二人で挑んだ方が成功率は大きく上がることになる。

 しかし、それは逆に考えれば美紀は一人で挑んだ方が楽だということだ。もちろん美紀がアストラルオークを単独で討伐する理由がないので無駄な話なのだが、それでも美紀への負い目を感じてしまうのは仕方ないことだろう。

 とはいえ、こんなあからさまなキャリー行為を見知らぬ他人にお願いして人数を増やすのはもっと気が引けてしまう。オーダークエストのことを話せば興味本位で手伝ってくれるかもしれないが、設定上ではこれから敵となる存在なのだ。なので、なるべく人知れぬところで達成したいという気持ちもある。そしてなにより、なんとなく美紀と二人でこの偉業を成し遂げたいという思いが私にはあったし、それはおそらく美紀も感じてくれているだろう。




 そんなわけで、二人でオークの森までやってきた私たち。ここ一週間でVRゲームにも慣れてきた私と元からVRゲームプレイヤーだった美紀は、何の問題もなくサクサクとオークの森を進んでいた。


「いやー、にしてもやっぱりオークの森だったね」

「ねー。まあ結局バリアーが必要ならこっちで正解だったわけだけど」


 というのは、私たちのここ一週間の動きの話だ。

 このオークの森というのは槍の街の近くにあり、リリースから間もなくしてその存在が確認された。アストラルオークの討伐を目標に動いていた私たちは、こんなにもあからさまにアストラルオークが出そうな場所が発見されて、当時は真っ先にここを攻略しようと思っていたのだ。

 しかし、実際にオークの森へやってきた私たちは、中々その攻略に手間取ることとなった。その理由はスキルの未熟さも当然あったが、一番は私がVRゲームに不慣れだったことだ。そこで美紀は、私がVRゲームになれるのと同時にスキルレベルも上げようということで、槌の街に戻って普通に攻略を進めるという方針に切り替えた。槍の街はオークの森が近場にあったわけだが、これは槍使いにとってオークが戦いやすい相手だからというのが理由であり、基本的に最初の四つの街の周辺にはそれぞれの武器で戦いやすいモンスターが配置されている。一度槌の街に戻るというプランを取ったのは、それが理由だ。

 そしてさらに、美紀はアストラルオークという名前から、アストラルオークは通常のオークでは使用してこない魔法を使うのではないかという推測をした。そこで魔法ダメージを軽減させるバリアーを習得し、魔法を使ってくる相手とも再三戦ってきた。そこで私はバリアーが上位スキルのため習得できないことが発覚し、もしやこのクエストはそういうことなのではないかという当たってほしくない推測までできてしまったのだが、幸か不幸かこの推測はどちらも当たっていたようだった。


 そして私たちは、オークに対してならそんな思い出を振り返るような会話をするほどの余裕もあることに成長を感じながら、アストラルオークがポップするという場所まで足を進めた。

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